第20話

クラピカに連れられてやって来た、古代スミ族の遺跡。
仕事の途中、ふと耳に挟んだその場所へと足を踏み入れて俺は息を呑んだ。

巨大な石が積み重なった遺跡は腐敗が進んでいるけれど、荘厳な佇まいはそのまま。
むしろ長い時を経てもそこにあり続ける建物は、畏怖の念を呼び起こさせる。
苔むした岩肌に手を伸ばし、感触を確かめる。数百年、数千年、ここにあり続けた遺跡。
遠い遠い昔に繁栄し人が生きていた場所。感じる悠久の時間に、溜め息が漏れる。

考古学を専攻したいと思っていた俺には、感動的な場所だ。
世界は違っても、遺跡という存在は心惹かれることに違いない。

「………古代スミ族に、何か思い入れでもあるのか?」

ここまで案内してくれたクラピカが、不思議そうに尋ねてくる。
うーん、と唸った俺は遺跡を見上げた。

「特定の民族というより、遺跡に興味があるんだ」
「…遺跡に?」
「あぁ。人が生きてきた証が、長い時間を経ても残ってる。…すごいよな」

岩から手を離し、ゆっくりと遺跡の周りを歩く。
神殿、だろうか。儀式を行うような舞台があるのが見える。
どちらかというと、マヤ文明やインカ帝国に近い印象を受ける。
………もしかして、この世界にもエジプトの遺跡のようなものがあるんだろうか。
そこではたと、俺がこの世界へ来てしまった切欠を思い出す。

そうだよ、俺があっちの世界で触った呪いの石版。
あれと同じようなものを見つけられたら、元の世界に帰れるんじゃないか?

「………?」
「あ…いや。なあ、クラピカ。お前色んなこと知ってそうだけど」
「…それなりには」
「他にも遺跡とかがありそうな場所、教えてくれないか?」
「随分と漠然としているな」
「なんでもいい。手当たり次第回るつもりだから」

勢い込んで尋ねると、驚いたように目を見開きながらもクラピカは頷いてくれた。
といっても、俺のいた世界にも無数の遺跡があったように、ハンター世界もそれは同じ。
とりあえず世界地図に有名なところの幾つかをクラピカが記入してくれたけど。
………そうか有名どころでもこんだけあるのか。
いやでも有名すぎると、石版とかそういうものは発掘されて博物館や調査行きかなぁ。

「…なあ、クラピカ。できれば有名な博物館とかも書いておいてくれると…」
「………運び屋という仕事をしているのに、随分と疎いんだな」
「運び屋を始めたのは最近なんだ。それまでは…なんというか」

ずっとゴミ山で生活してたし、その後は天空闘技場でひたすらファイト。
というより何より、俺はこの世界の人間じゃない。だから知らないことばかりだ。

「クラピカのおかげで、色々と目的地が増えた。ありがとう」
「いや…」
「これからどうするんだ?」
「…探し出さねばならない相手がいる。それを追うつもりだ」
「一人でか?俺が言うのもなんだが、途中でのたれ死ぬんじゃないか」
「………」
「まずは一人旅ができるぐらいには、なっておけ」

蜘蛛見てあんだけ暴れるようじゃ、絶対に一人旅とか無理だって。
しかもクラピカが追っているのは幻影旅団。まだ幼い彼が敵うはずがない。
だって俺でも押さえつけられちゃうぐらいじゃ、あの旅団相手には無理だろー。
この先心配だよお兄さん。

ぽん、とクラピカの頭を撫でる。あ、キルアにしてる癖がつい出ちゃうな。
子供扱いするなと怒られるだろうかと思ったが、クラピカはじっと俺を見上げるだけで。

「?どうした」
「………。ここにいる間だけでいい、私の修行に付き合ってくれないか」
「………俺?」
「自分が未熟なことはよく分かっている。だが一人では稽古にならない」

まあ、そりゃそうだよな。って、俺!?
天空闘技場で鍛えてきたとはいえ、大丈夫だろうかと若干不安になる。
いやでもせっかくクラピカが頼ってくれてるわけだし…頑張って殴られ役になる、か。
確かクラピカは木刀を二本使う、クルタ二刀流。打ち込む相手がいなければ意味がない。
怖いけど、クラピカのためなら俺頑張るよ…!

「…わかった」
「感謝する」

そうしてふわりと浮べた初めてのクラピカの笑顔。
それは本当に美少女のような愛らしさで、俺はもう眩暈がした。

ホント、女の子ならよかったのに…!










『なんだよ、まだかえってこねーのかよ』
「悪い。そんなにかからないとは思うけど」
『ちぇ。そのあいだに、おれが200階いってもしらねーからな』
「それまでには頑張って戻るよ」

電話口の拗ねたキルアの声が可愛くて、ついつい笑みを綻ばせる。
さっさとかえってこいよな、という言葉に頷いて通話を終えると。
本日も同じ部屋に泊まることになったクラピカが、じっとこちらを見ていた。

「?どうした」
「いや……。少し、意外だった」
「意外?」
「そんな風に親しげに電話する相手がいるとは思わなかったから」

え、俺そんなに友達いなさそう?
いやまあ、キルアは友達っていうよりは弟みたいな感じだけどさ。
でもシャルだって友達だし、イルミ………は、あれはただ単に恐怖の対象か。
………そう思うと友達ってシャルだけじゃね?俺。あ、なんかいますごいショック。

「大切な相手なんだな」
「ん?」
「電話の相手」
「あぁ…もちろん」

大事に決まってるだろ。だってキルアってばさ。

「本当に、可愛いんだ」

ついにやけた顔で言うと、クラピカがなぜか顔を赤くして逸らした。
え、なんでその反応?………もしや相当に変態っぽい顔してた俺!?
なあ、クラピカどうなの、俺ってそんなに変態!?
顔逸らしてないで教えてくれよー!





帰る方法を模索中。

[2011年 4月 1日]