第22話

クラピカの稽古に付き合おうと思った理由はふたつある。
まずひとつは、この状態のクラピカをどうしても放っておけなかったこと。
そしてもうひとつは。ちゃんとした戦いの形を学んでみたかったのだ。

天空闘技場で鍛えられたとはいえ、俺は自分なりの適当な戦い方しか知らない。
きっと専門家や戦闘のプロからしたら隙だらけの荒いものなのだろう。
短い期間で身に着くものとも思えないが、基本的な練習方法さえ覚えれば。
あとは自分で稽古なりなんなりできる気がしたのだ。

「やああっ!!」
「………なるほど、刀といっても色々とやり方があるんだな」

感嘆して俺は木刀を避ける。
斬撃だけでなく、突きもできるし、払うこともできる。
攻撃を受け止める防御の役割も果たすし、なかなかに便利だ。
あーあ、授業での剣道とか柔道とかもうちょっと真面目にやっておけばよかったよ。
って、クラピカいきなりフェイント使ってきた!?ほ、本気でくるなよ怖いなもう!

は木刀での戦いは初めてと言っていたな」
「あぁ」

剣道の授業だって竹刀だったしなー。
木刀って本当に重いんだよな、びっくりするよ。

「…それにしては、随分と飲み込みが早い」
「そうか?クラピカの教え方が上手いんだろ」
「………皮肉に聞こえる」

え、なんで。本当に教えるの上手いと思うよ。
木刀の握り方だってまともに知らなかった俺に、一から教えてくれたじゃん。
クラピカみたいに二刀流は無理だけど、一本でならなんとか見られるようになってきた。
こんな短期間で成長できたのは、クラピカの指導あってこそだ。
………まあ、ただの打ち合いっていう実践的な指導ばっかりだったけどさ。

は、どうしてそこまで強くなろうとする?」
「…特別強くなりたいわけじゃない。ただ、生き抜く力が欲しいだけだ」
「……生き抜く力?」
「この世界で、一人でも生きていける強さ」

俺みたいな人間、ハンター世界じゃあっという間にお陀仏の可能性が高い。
誰だって死にたくはないだろう。だから身を守れる術を手に入れたい、それだけだ。

天空闘技場で鍛えたし、イルミに仕事ももらったし。
こうしてクラピカに新しい修行をつけてもらって、さらにレベルアップした気がする。
帰る方法を探す足がかりも見つけたし、なんか順風満帆って感じ?

ひとりそんなことを考えにやける俺に、クラピカが視線を外す。
………ごめん、また変な顔してた俺?

「………私にも、そんな強さを手に入れることができるだろうか」
「何言ってんだ。俺よりもお前の方がずっと強いよ、クラピカ」

心底そう言うと、クラピカの綺麗な赤茶の瞳が小さく見開かれた。








そうしてあっという間に一週間が過ぎて、俺はクラピカと分かれ天空闘技場へ向かっていた。
最後、空港で分かれたときにはクラピカは穏やかな表情で。
私なりにいま出来ることを少しずつ頑張ってみるよ、と微笑んでくれさえした。
いやあ眼福なんてもんじゃないよなあれ、目が幸せってこういうことを言うんだきっと。

とりあえず蜘蛛の情報を調べつつ、いまは修行に専念するとのことだった。
うん、ぜひそうしてほしい。いまの状態で特攻しても返り討ちになっちゃうだろうし。
そうしたら原作改変どころの騒ぎじゃなくなるもんな。

ー!!」
「お、キルア」
「おっせーよ!!もうかえってこないかとおもったじゃん!」
「悪い悪い。どうだ?」
「へへーん、いま180階」
「へえ、すごいじゃないか」
「まだまだこんなもんじゃねえぜ」

自信満々に笑みを浮かべてみせるキルアは、傷だらけ。
俺のいない間にどんだけ怪我したんだ…と遠い目になりながらキルアの手を引く。
とりあえず治療だ治療。そう呟くと、嫌そうにキルアが眉を顰めた。
拷問には耐性あるのにただの消毒が嫌いなのか、このおぼっちゃまは。

「ほら、とりあえず戻るぞ」
「えー」
「後でチョコロボくん買ってやるから」
「マジ?」
「ホント。しばらく帰ってこれなかったしな、お詫びもかねて」
「やりい!」

無邪気に笑うキルアの頭を撫でてやりながら、未来を思って複雑な気分になる。
原作沿いになる頃には、あの暗殺者の笑顔を浮かべて心臓を抉り出すようになるんだよな。
あれはあれでキルアの魅力だとわかってはいるが、やっぱりあんなことしてほしくない。
けれどゾルディックという家名を背負っている以上、それは避けられないことで。
キルアの手を引いてやりながら、そっと願う。

キルアだけじゃない、クラピカも。そしてまだ出会っていないゴンやレオリオも。
早く彼らが出会い、その友情を築き上げますように。

そしてそれぞれの笑顔が、輝く日がきますように。

そう、心の底から。





すっかり保護者目線になっている主人公です。

[2011年 4月 1日]