第23話

本日は仕事のひとつ…というかシャルに会うために遠出をしていた。
こうして俺が仕事で天空闘技場を空けることにキルアも慣れたもので。
おみやげ、よろしく!と笑って送り出してくれた。…なんか親離れされたようで、寂しい。

俺が元の世界に帰るための手がかり。呪いの石版。
その情報を集めてもらうため、細かい打ち合わせをするのが今日だ。
報酬はもちろん後できちんと払うつもりだが、とりあえずリクエストされたケーキ持参。
一緒に食事しよ、と言ってくれたシャルナークは本当に良い友人だと思う。
………幻影旅団の一員だと考えると、そう油断もできないけれど。

でもまあ、俺が油断しなかったとしても瞬殺されるときはされるだろうしな。
緊張したところで無意味なのかもしれない、と思っていたりもする。

。待ち合わせ時間ぴったりだ」
「先に来ててくれたのか、悪い」
「こっちに来てもらってるんだし、気にしないでよ」

デートの待ち合わせとかに利用されていそうな広場。
時計塔の下になんの躊躇いもなく立っていられるシャルはすごいと思う。
俺だったら絶対に時計塔が見える場所から、待ち合わせの相手が来るのを待つ。
だって居た堪れないじゃないか、カップルだらけの場所に男一人でとか!

「シャル、これケーキ」
「ありがとう!に連れてってもらってから、ここお気に入りなんだ」
「ショートケーキと、あと季節限定のケーキをいくつか」
「ほんと?楽しみだなぁ」
「持って帰って、家のひとと食べて」
「それじゃなんか悪いな。あ、じゃあ食事は俺が奢るよ」
「いや、それじゃおかしいだろう。俺の依頼の報酬に食事も込みだろう?」
「ああ、いいのいいの。このケーキで帳消し」

……え、シャルってそんなにケーキ好きなのか?

「なんか食べたいものとかある?この辺りなら、だいたいの店はあるけど」
「…そうだな…。ジャポンの店とか、あるか?」
「あぁ、それなら知り合いが贔屓にしてる店がある。行こうか」







そうしてシャルが連れてきてくれたのは蕎麦屋だった。
うおぉ、懐かしい〜!すっごい久しぶりだぞ蕎麦食べるのなんて!
ここを贔屓にしてる知り合いって誰かな。日本食を食べそうなのは…マチかノブナガかな。
注文を終えてお茶に和んでいると、シャルが携帯をいじりながら口を開いた。

の依頼だけど、ざっと確認しただけでもけっこうあるよ」
「やっぱり」
「こういうのでいい?」

携帯の画面を見せてくれるシャルに俺も身を乗り出す。
そこには石版に関しての情報と、画像が映し出されていた。

「…うん、そういうのでいい。情報さえもらえれば、あとは自分で確認する」
「了解。でもどうしてこういうのに興味あるの?」
「え?」
「あ、これも報酬料金に含めるってことで」

そう言われては話さないということは出来ない。
かといっても、俺が異世界から来た人間だと説明しても信じてもらえないだろう。
どう説明すればわかりやすく伝えられるだろうか、と唸った。
うーん、石版の情報を集めてる理由…。

「俺の…故郷の手がかり、かな」
「へえ、の故郷。そういえばって謎だらけだよね」
「え?」
「天空闘技場に来る前の情報がほとんどない。旅してた、ってのはわかったけど」
「…あぁ、調べたのか」
「気になったからね。ずっと旅暮らし?」
「いや。旅に出る前はゴミ山で暮らしてたよ」

お待たせいたしました、と蕎麦が並べられる。おお、うまそう。
箸に手を伸ばしていただきますと蕎麦をすくう。

「ゴミ山…ねえ。なんで?」
「さあ?気がついたら、そこにいた」

ホント、なんで最初に落ちた場所があそこだったんだか。
じっちゃんに会えてなかったら俺のたれ死んでたぞ、絶対。
おまけにネオンのコレクションにされかかるし、ノストラードの連中に命狙われるし。
よくいままで生きてたもんだ、と涙が出そうだ。

ふうん、と頷いたシャルは深く追求することもなく蕎麦に口をつける。
うーん、出汁がきいててうまい!








とりあえず石版の情報に関しては随時流してもらうことにして。
報酬についてはその都度伝えるから、とシャルが悪戯っぽく笑った。
あんまり無茶な額は勘弁してくれよと眉を下げれば、サービスしとくってと肩を叩かれる。
いまのところお金をろくに請求されていないのが怖い。
どうしよう、後でとんでもない額言われたら。俺、払えるかなぁ。

途中で缶コーヒーを買った俺とシャル。
そのままぶらぶらと散歩していると、周りの視線が痛いこと痛いこと。
そうだよな、シャルってすごい美少年。女性陣の視線が熱いのは当然だ。

「………モテるな、シャル」
「この場合は嬉しくないなぁ。せっかく二人でのんびりしてるのに」

うう、女の子に慣れてるからこそ言える台詞ですね…!
俺だったら舞い上がるってのに。


「シャルに付き合うよ」

女の子たちより俺を優先させてくれて、依頼も快く引き受けてくれて。
俺も何か恩返ししなくては。せめて今日一日はシャルに付き合わせてもらおう。
ぐっと拳を握って言えば、シャルはとても楽しげな笑いを浮べた。
………あれ、なんかちょっと物騒な気配のする表情ですよシャルさん?

「なら、いくよ」

え、なんで走り出すのシャルさああぁぁぁん!!?








新章突入。

[2011年 4月 1日]