6歳なキルアくん、心の中は大人びすぎです。
[2011年 4月 1日]
自分の番号を呼ばれ、おれと会場に入った男はリングに向かう。
淡々としたその横顔は緊張や恐怖とは無縁のようで、退屈そうにも見えた。
「ここでは両者のレベルを判定します。制限時間は三分。両者もてる力を発揮して下さい」
男と向かい合うのは、ものすごくデカイ筋肉むきむきの奴。
まるで大人と子供にも見える身長差だけど、あのお兄さんだってけっこうでかかった。
ということは、向かい合う奴が相当に大きいのだろう。観覧席からはお兄さんに同情する声も上がっている。
それ以上に、デカブツを応援して面白がる声の方が多いけど。
おれがここ天空闘技場に来る羽目になったのは、いきなり親父に連れられて来たからだ。
しかも小遣いもなんにも渡さないで、200階まで上ったら帰ってこい、だって。
いたいけな子供をこんなとこに置き去りにしてくかふつー?
今日のうちにお金をいくらかもらわないと、チョコロボくんだって食べられない。
さっさと申し込みして、さっさと終わらせよう。そう考えて受付に向かったんだけど。
…あのさ、もう少し子供に優しい構造とかにしてくれない?
受付したくても届かないんだけど。辛うじて手が届く程度で、受付の奴気づかねえし。
このままこの辺りの連中殺してやろうか、と殺気だっていると。
まるでその気配を察知した、という様子でひとりの男が声をかけてきた。
「………参加希望者?」
普通なら参加者の子供、とか考えるもんだけど。
そいつはおれが参加者であると最初からわかっているようだった。へえ、見る目あんじゃん。
そうして顔を上げてぶつかる男の視線に、おれは少し驚く。
焦げ茶色の瞳なんて珍しくもなんともないけど、なんだか普通と違う。それに。
まとう気配が…なんていうのか、迫力があった。明らかに一般人ではない。
圧倒されそうな何かを感じたけど、それを認めるのはなんだか悔しくて。
おれはわざと生意気な感じで声をかける。
「おじさん、かみとペン、おれにもちょうだい」
「………」
こっちの挑発に気づいたのか、奴はわずかに目を細める。
けど小さく溜め息を吐いただけで、そのまま素直に紙とペンを渡してきた。
ちぇ、つまんねーの。
まあ必要なものは手に入ったから、あとはちゃっちゃと記入するだけだ。
おれはそのまましゃがみこんで書類に記入を済ませる。キルア=ゾルディック…と。
そうしてると、すぐ上からおれを見る視線を感じて。
きっと奴が見てるんだろう、とわかって。おれはわざと書類が見えるようにした。
ゾルディックの名前を知らない奴はあんまりいない。おれ個人ではなく、家そのものが有名だ。
「お客様?」
「………なんでもない」
けど奴は全然そんなの気にしてなくて。
さっさと書類を提出してそのまま歩き出した。
うわ、ムカツク!なんだか腹が立っておれも手続きを終えるとすぐに奴を追う。
「ねえ」
声をかけても無視。なんだよ、俺なんて眼中にないってことかよ。
「ねえってば」
「………俺に何か」
そこでようやく、奴が振り返った。
けどその目は俺のことを拒むような、拒絶の色が表れていて。
面白くない、とまた思う。なんだよ、おれにこんな目向けるなんてどんな奴だよ。
「あんたさ、強い?」
「………さあ。君の方がわかるんじゃないのか」
実力差なんてわかるだろう、そう言外に言われて。
そうして興味を失ったかのように、そのまま歩き出していく背中。
先に会場に入っていくその背中と、おれがいま立っているこの場所が。
当方もなく、遠いものに思えた。
6歳なキルアくん、心の中は大人びすぎです。
[2011年 4月 1日]