なんかもう、すっかりキルアのお兄ちゃんです。
[2011年 4月 1日]
シャルナークとはあの後すぐに分かれたけれど。
なぜか連絡先を知られており(まあ手続きしたのシャルだから不思議ではない)
いまではメル友になっていて、日々の愚痴を聞かされている。
ウボォーの声がうるさくて作業ができないんだよね、と本日は送られてきた。
…これに俺はなんと返したらいいものか。散々悩んで、お疲れとだけ返す。
ぽい、と携帯を放り出して背伸びする。ううーん、今日も無事に勝ったけど疲れた。
もうさっさと風呂入って寝よう。明日はいよいよ200階行きが決まる戦いだ。
天空闘技場に来て早一ヶ月近く。
…俺ここまで負けなしで来ちゃったんだけど、大丈夫かな。
だって明日勝ったらそのまま念能力者のいる200階に叩き込まれるわけだろ?
うー…でも念を完璧に習得するには、実戦が一番だろうしなぁ。
最近じゃようやく練の修行も始められるようになってきて、使い方を覚えてきたけど。
俺独自の技を編み出したわけでもないし、そもそも自分が何系に属するかも知らない。
…水見式、やってみるべきだろうか。
「勝者、!」
ああぁ、悩んでるうちに一日過ぎて試合も終わっちゃったよ!
いやでも、練が出来るようになってきたわけだから、きっと200階でも生きていけるはずっ。
とりあえず受け付けのフロアに顔を出すと、この階の先輩たちが俺を見ているのがわかった。
新入り?とかひそひそ話し合う声は笑みを含んでおり、どういたぶってやろうかという具合。
ひー、怖いよぅ。でも俺、キルアのこと任されてるしここで闘技場を去るわけにも。
それに念に関してもうちょっと技術磨きたいし、ああでも死んでたら世話ないよなぁ。
しかし、今日中に200階への登録を済ませないと、振り出しに戻ってしまう。
また一番下からやり直しなんて、そんな七面倒臭いことしたくない。
よって、思い切って登録を済ませた。ええい、なんとかなるって!
この階に到達すると、準備期間というものが与えられる。
90日の猶予があり、その間に試合をすればまた90日の時間が与えられるのだ。
とりあえず、この三ヶ月の間にもうちょっと念の質を高めておきたい。
原作を思い返し、いま俺にできることはなんだろうかと首を捻る。
でもゴンもキルアも、練を習得したらそれだけで勝ってたよーな。
…いや、主人公組はもともとのポテンシャルが高いんだ、俺と一緒にしちゃいけない。
「!」
「おー、キルア」
「とうろくは?」
「無事済んだ。次の試合は二ヶ月以上は先かな」
「えーなんだよ、出しおしみかよ」
「毎日戦ってて、少し疲れた」
「のしあい、楽しみにしてたのに。ま、いいや」
いいんかい。
本当に気まぐれだな、と自分の手を引くキルアに溜め息を吐く。
ぐいぐいと手を引かれそのままにしていると、気がつけばなぜかお菓子コーナーに。
………キルアくん、君もけっこうな額のファイトマネーをもらっているよね?
どうして俺をここに連れてきたのかな?
「あれかって!」
「やっぱりか」
甘やかされた三男坊め。末っ子じゃないのに甘え上手かお前。
きらきらと大きな瞳で見上げられ、なーなーと腰に抱きつかれる。
くっ、か、かわいいな。俺一人っ子だったから、こういうの胸がきゅんってする…!
「………はあ。一種類だけだぞ」
「やった!おじさーん、このイチゴ味、箱ごとちょうだい!」
箱買いかよ!?
「………今日は勝ったのか?」
「んー、いちおう。でもいまいちだった」
「いまは…130階だったか?」
「そ。あーあ、なんか上がったり下がったりでつまんねーの」
「100階の壁から落ちずにすんでるんだ、それだけですごいだろ」
ふわふわの髪を撫でながら心底そう思う。
200階にいったに言われたくねーよ、と眉を顰められてしまったけれど。
…うん、生身で戦ったら俺は50階もいけないと思うな。多分。
与えられた準備期間、俺は高いチケット代を払って200階クラスの戦いを観戦しまくった。
やはり念の戦いが主になるようで、レベルが全く違う。
傍から見ると超能力にも近い戦いが多く、観客は興奮してばかりだ。
どういう仕組みなんだあれ、とさっぱり分からない俺はここで「凝」の訓練も始める。
観戦しながら目にオーラを集め、隠れた念の能力を見極めるものだ。
最初のうちは目にオーラを留めることすら困難で、ぜえはあと息を乱していたけれど。
だんだんと集中していられる時間が長くなっていく。
一ヶ月経ったいまでは、ようやく三十分ぐらい凝をしていられるようになった。
…まだ三十分だけどな、ハハ!
しかし難点なのは、凝をやると疲労回復に時間がかかること。
それほどひどくはないものの、おかげで夜はあっという間に眠りに落ちてしまうぐらいだ。
ベッドにキルアが侵入してきたことにも気づかず爆睡し、翌朝驚いたこともある。
少しずつ慣れてきて負担も減ってはいるけど。…俺にはまだまだ辛い。
準備期間の期限まであと二ヶ月。もうちょっと成長したいものだ。
「キルア、150階到達おめでとう」
「ありがとう!」
「何かお祝いでもするか。欲しいものとかある?」
「チョコロボくん一年ぶん!」
「……………。キルア、将来お前は虫歯だらけになるぞ」
「へーきだよ、べつに」
いやいや、よくない。よくないぞそれは。
とりあえず別のものにしなさい、と言い含めると渋々キルアは引き下がった。
「そういえばキルア」
「?」
「この間、スケボー知らないって言ってただろ」
「あぁ、うん」
キルアといえばスケボーというイメージの強かった俺。
だから当然のようにスケボーの話題を振ったことがあったんだけど、知らないといわれて。
そうかこの頃はまだ知らないのかー、と納得して残念だったのだ。
せっかくだし、ここでスケボーを知っておいてもらうのもいいんじゃないか?
そう結論して、俺はキルアの手を繋いで市街の玩具屋さんへと向かった。
きょろきょろと辺りを見回していると、原作で見たことがあるようなスケボーを発見。
おお、これなんてもろキルアのものって感じじゃん!
………つか高!自分で選んどいてなんだけど、めっちゃ高いぞこれ!?
ええっと…安心の強度。グレイトスタンプにも潰されません………。
「キルア、これなんかどう?」
「かっけー!」
これならキルアもそう壊さないだろう。馬鹿力にも多少は耐久力がありそうだ。
支払いを済ませてキルアに渡すと、嬉しそうに両手でぎゅっと抱き締める。
思わず携帯を取り出し、そのまま写真を撮ってしまった。
…イルミに会うことがあったら、これをネタに命乞いができるかもしれない。
そんなほのぼのとした光景を、遠くで監視している者がいるなんて。
俺は全く予想していなかった。
なんかもう、すっかりキルアのお兄ちゃんです。
[2011年 4月 1日]