第12話

シャルナークとはあの後すぐに分かれたけれど。
なぜか連絡先を知られており(まあ手続きしたのシャルだから不思議ではない)
いまではメル友になっていて、日々の愚痴を聞かされている。
ウボォーの声がうるさくて作業ができないんだよね、と本日は送られてきた。
…これに俺はなんと返したらいいものか。散々悩んで、お疲れとだけ返す。

ぽい、と携帯を放り出して背伸びする。ううーん、今日も無事に勝ったけど疲れた。
もうさっさと風呂入って寝よう。明日はいよいよ200階行きが決まる戦いだ。

天空闘技場に来て早一ヶ月近く。
…俺ここまで負けなしで来ちゃったんだけど、大丈夫かな。
だって明日勝ったらそのまま念能力者のいる200階に叩き込まれるわけだろ?
うー…でも念を完璧に習得するには、実戦が一番だろうしなぁ。
最近じゃようやく練の修行も始められるようになってきて、使い方を覚えてきたけど。
俺独自の技を編み出したわけでもないし、そもそも自分が何系に属するかも知らない。

…水見式、やってみるべきだろうか。









「勝者、!」

ああぁ、悩んでるうちに一日過ぎて試合も終わっちゃったよ!
いやでも、練が出来るようになってきたわけだから、きっと200階でも生きていけるはずっ。

とりあえず受け付けのフロアに顔を出すと、この階の先輩たちが俺を見ているのがわかった。
新入り?とかひそひそ話し合う声は笑みを含んでおり、どういたぶってやろうかという具合。
ひー、怖いよぅ。でも俺、キルアのこと任されてるしここで闘技場を去るわけにも。
それに念に関してもうちょっと技術磨きたいし、ああでも死んでたら世話ないよなぁ。

しかし、今日中に200階への登録を済ませないと、振り出しに戻ってしまう。
また一番下からやり直しなんて、そんな七面倒臭いことしたくない。
よって、思い切って登録を済ませた。ええい、なんとかなるって!

この階に到達すると、準備期間というものが与えられる。
90日の猶予があり、その間に試合をすればまた90日の時間が与えられるのだ。
とりあえず、この三ヶ月の間にもうちょっと念の質を高めておきたい。
原作を思い返し、いま俺にできることはなんだろうかと首を捻る。
でもゴンもキルアも、練を習得したらそれだけで勝ってたよーな。
…いや、主人公組はもともとのポテンシャルが高いんだ、俺と一緒にしちゃいけない。

!」
「おー、キルア」
「とうろくは?」
「無事済んだ。次の試合は二ヶ月以上は先かな」
「えーなんだよ、出しおしみかよ」
「毎日戦ってて、少し疲れた」
のしあい、楽しみにしてたのに。ま、いいや」

いいんかい。
本当に気まぐれだな、と自分の手を引くキルアに溜め息を吐く。
ぐいぐいと手を引かれそのままにしていると、気がつけばなぜかお菓子コーナーに。
………キルアくん、君もけっこうな額のファイトマネーをもらっているよね?
どうして俺をここに連れてきたのかな?

「あれかって!」
「やっぱりか」

甘やかされた三男坊め。末っ子じゃないのに甘え上手かお前。
きらきらと大きな瞳で見上げられ、なーなーと腰に抱きつかれる。
くっ、か、かわいいな。俺一人っ子だったから、こういうの胸がきゅんってする…!

「………はあ。一種類だけだぞ」
「やった!おじさーん、このイチゴ味、箱ごとちょうだい!」

箱買いかよ!?

「………今日は勝ったのか?」
「んー、いちおう。でもいまいちだった」
「いまは…130階だったか?」
「そ。あーあ、なんか上がったり下がったりでつまんねーの」
「100階の壁から落ちずにすんでるんだ、それだけですごいだろ」

ふわふわの髪を撫でながら心底そう思う。
200階にいったに言われたくねーよ、と眉を顰められてしまったけれど。
…うん、生身で戦ったら俺は50階もいけないと思うな。多分。









与えられた準備期間、俺は高いチケット代を払って200階クラスの戦いを観戦しまくった。
やはり念の戦いが主になるようで、レベルが全く違う。
傍から見ると超能力にも近い戦いが多く、観客は興奮してばかりだ。
どういう仕組みなんだあれ、とさっぱり分からない俺はここで「凝」の訓練も始める。
観戦しながら目にオーラを集め、隠れた念の能力を見極めるものだ。

最初のうちは目にオーラを留めることすら困難で、ぜえはあと息を乱していたけれど。
だんだんと集中していられる時間が長くなっていく。
一ヶ月経ったいまでは、ようやく三十分ぐらい凝をしていられるようになった。
…まだ三十分だけどな、ハハ!

しかし難点なのは、凝をやると疲労回復に時間がかかること。
それほどひどくはないものの、おかげで夜はあっという間に眠りに落ちてしまうぐらいだ。
ベッドにキルアが侵入してきたことにも気づかず爆睡し、翌朝驚いたこともある。
少しずつ慣れてきて負担も減ってはいるけど。…俺にはまだまだ辛い。
準備期間の期限まであと二ヶ月。もうちょっと成長したいものだ。

「キルア、150階到達おめでとう」
「ありがとう!」
「何かお祝いでもするか。欲しいものとかある?」
「チョコロボくん一年ぶん!」
「……………。キルア、将来お前は虫歯だらけになるぞ」
「へーきだよ、べつに」

いやいや、よくない。よくないぞそれは。
とりあえず別のものにしなさい、と言い含めると渋々キルアは引き下がった。

「そういえばキルア」
「?」
「この間、スケボー知らないって言ってただろ」
「あぁ、うん」

キルアといえばスケボーというイメージの強かった俺。
だから当然のようにスケボーの話題を振ったことがあったんだけど、知らないといわれて。
そうかこの頃はまだ知らないのかー、と納得して残念だったのだ。
せっかくだし、ここでスケボーを知っておいてもらうのもいいんじゃないか?
そう結論して、俺はキルアの手を繋いで市街の玩具屋さんへと向かった。

きょろきょろと辺りを見回していると、原作で見たことがあるようなスケボーを発見。
おお、これなんてもろキルアのものって感じじゃん!
………つか高!自分で選んどいてなんだけど、めっちゃ高いぞこれ!?
ええっと…安心の強度。グレイトスタンプにも潰されません………。

「キルア、これなんかどう?」
「かっけー!」

これならキルアもそう壊さないだろう。馬鹿力にも多少は耐久力がありそうだ。
支払いを済ませてキルアに渡すと、嬉しそうに両手でぎゅっと抱き締める。
思わず携帯を取り出し、そのまま写真を撮ってしまった。
…イルミに会うことがあったら、これをネタに命乞いができるかもしれない。

そんなほのぼのとした光景を、遠くで監視している者がいるなんて。
俺は全く予想していなかった。



なんかもう、すっかりキルアのお兄ちゃんです。

[2011年 4月 1日]