第13話

キルアは150階前後で苦戦を続けるようになった。
勝ったと思ったら次の日には負ける、ということを繰り返している。
おかげで随分と気が立っているらしく、苛々しているのがよくわかった。
その調子で無関係のひとに当たらないかが心配でしょうがない。
イルミが言ってたしな、仕事以外の殺しは困るって。…普通の殺しも困るよホント。

俺は準備期間が残り一ヶ月をきっており、そろそろ試合をしないとマズイ。
だいぶ凝を続けていられる時間も延びたし、練も少しはマシになったと思いたい。
…そうなると、最後の「発」へと辿り着くわけだが。これができるかどうか。

「俺自身の、技ねえ…」

それを生み出すには、やはり自分の念が何系に属したものなのかを知る必要がある。
やっぱり水見式で確認するしかないのか、と息をついた。
強化系とか分かりやすい変化ならいいんだけど、どうなるんだろう俺の場合。

ー、おれちょっとスケボーのれんしゅうしてくる」
「んー」

なぜか俺の部屋に居座っているキルアは、買ってあげたスケボー片手に部屋を出て行く。
すっかり気に入ってくれたらしく、時間を見つけてはスケボーで廊下や外を走り回っているようだ。
買った側からすると嬉しい限りだが、周りのひとに迷惑をかけていないか心配である。
…普通は廊下とか滑るもんじゃないんだぞ、スケボー。

キルアが外出してくれたのをいいことに、俺は水見式をやってみることにした。
えっとグラスに水ためて、その上に葉っぱ………部屋にそんなもんねえよ。
あーこりゃ外でやるしかないか?別に葉じゃなくたっていいんだろうけど。
せっかくなら原作通りやってみたいじゃないか。







仕方ない、と外に出た俺はそのまま市街へ。
オープンテラスの端の席に腰を下ろし、近くの植木から葉を一枚もらうことにする。
えっと、あの、枯れ気味のにしとくんで、勝手にとっても許して下さい。
水に葉を浮べて、グラスに向かって「練」をやるんだよな。よし。

………………………。

あれ、なんも変化起きなくね?
水が増えるでもなく、不純物ができるでもなく。色も変わらないし、葉も動かない。
あとは味だが、なめてみても普通の水のままだ。ううーん、練が未熟とかそういうことか?

「………あれ?」

ふと葉がおかしいことに気づいた。
俺確か、枯れかけの葉っぱをとったはずだよな?なんでこんな色艶きれいなんだ?
まるで新緑のような瑞々しさなんだが、どういうことだろう。えっと、これが変化なんだろうか。
そうなると俺って何系に属するんだ。

強化系は水の量が変化。
変化系は水の味が変化。
放出系は水の色が変化。
操作系は葉が動く。
具現化系は水に不純物が生まれる。

………そのどれも違うような気がする。強いてあげるなら操作系?
いやでも葉は動いてないだろ。そうなると…それ以外の特質系ってことになるが。

あっはは、まっさかねー!
特質系なんて貴重なもんだったりしたら、もう俺どうしていいかお手上げだよ。
一般的な系統なら、戦い方のイメージとか能力をどう固めるかも想像できるけど。
特質系って本当に色々だから、逆に訳がわからん。しかもこの変化、どういうことなんだろう。
葉がきれいに…なったのか、息を吹き返したのか。

「…面倒なことは嫌いなんだが」

あー、頭痛い。やっぱ素人には無理!
これはもう本格的に師匠とか探した方がいい、絶対。
深々と溜め息を吐いて、背もたれに体重を預けぎしっと椅子を軋ませる。
とりあえずもう一枚葉っぱ使って試してみるかなー…と後ろの植木を見ようとして。

なんだか怪しげな男が背後に立っていることに気づいた。

ど、どちら様でしょうかね?しかもなんでこっち凝視してるわけ。
はっ!?も、もしやこの店の関係者とか?うわあ、葉っぱむしったの見られたのかな!
すいません、えっと謝っても許されないかもしれないんですけどっ…。

「…お前、連れのガキがいるだろう」
「………キルアのことか?」

キルアなら今頃スケボーを楽しんでいるところではないかと。
怪我人とか出してないといいんだけど…。

「そのガキが可愛かったら、三日後に試合の申し込みを出せ」
「………ん?」
「そして俺に勝ちを譲れ」
「……………」

えーとそれは、キルアが可愛ければ俺に不戦敗しろと、そういうことか?
あれー、なんかこんな展開を漫画でも読んだことがあるなぁ。
そうそう、ズシを人質にとられてゴンとキルアが200階の選手に脅されたんだった。

200階に到達すると、ファイトマネーは支給されなくなる。
確か200階で10勝することによって、フロアマスターへの挑戦権が与えられるのだ。
そしてフロアマスターに勝てばそのマスターが所有していたフロアを得ることができる。
…正直、250階以上の家とか俺はいらないんだけども。
まあその、フロアマスターになると、一生の富と名声を得られるのだそうだ。
だから、こういう汚いやり口を選ぶ者が後を絶たない。ただ、勝つためだけに。

「…別に一敗ぐらい、くれてやってもいいけど」
「ほう?随分と余裕じゃないか」
「あんた、後悔することになるぞ」
「あぁ?」
「キルアは、そう簡単にやられるような子じゃない」

むしろ俺の方が激弱なのだ、キルアなんてひとりで切り抜けるだろう。
でも200階クラスってほとんどが念能力者なわけだから、いまのキルアじゃ危ないかなぁ。
ここは負けとくべきか?でも、そうすると次も同じ手でこられそうだし……。
ううーん、ここはきっぱり断って勝負しておくべきかな。

「三日後だな、申し込みしておくよ」

とりあえず了承して、席を立つ。
キルアに危害が及ばないようにしつつ、試合に参加する。そんなことできるだろうか。
っていうか、最近キルアほんとに苛々してるから、むしろ返り討ちじゃね?
うんうん唸りながら帰ってきた俺を、キルアが怪訝そうに出迎えるまで、あと五分。











水見式をやってみるも、結局うやむや。

[2011年 4月 1日]