水見式をやってみるも、結局うやむや。
[2011年 4月 1日]
キルアは150階前後で苦戦を続けるようになった。
勝ったと思ったら次の日には負ける、ということを繰り返している。
おかげで随分と気が立っているらしく、苛々しているのがよくわかった。
その調子で無関係のひとに当たらないかが心配でしょうがない。
イルミが言ってたしな、仕事以外の殺しは困るって。…普通の殺しも困るよホント。
俺は準備期間が残り一ヶ月をきっており、そろそろ試合をしないとマズイ。
だいぶ凝を続けていられる時間も延びたし、練も少しはマシになったと思いたい。
…そうなると、最後の「発」へと辿り着くわけだが。これができるかどうか。
「俺自身の、技ねえ…」
それを生み出すには、やはり自分の念が何系に属したものなのかを知る必要がある。
やっぱり水見式で確認するしかないのか、と息をついた。
強化系とか分かりやすい変化ならいいんだけど、どうなるんだろう俺の場合。
「ー、おれちょっとスケボーのれんしゅうしてくる」
「んー」
なぜか俺の部屋に居座っているキルアは、買ってあげたスケボー片手に部屋を出て行く。
すっかり気に入ってくれたらしく、時間を見つけてはスケボーで廊下や外を走り回っているようだ。
買った側からすると嬉しい限りだが、周りのひとに迷惑をかけていないか心配である。
…普通は廊下とか滑るもんじゃないんだぞ、スケボー。
キルアが外出してくれたのをいいことに、俺は水見式をやってみることにした。
えっとグラスに水ためて、その上に葉っぱ………部屋にそんなもんねえよ。
あーこりゃ外でやるしかないか?別に葉じゃなくたっていいんだろうけど。
せっかくなら原作通りやってみたいじゃないか。
仕方ない、と外に出た俺はそのまま市街へ。
オープンテラスの端の席に腰を下ろし、近くの植木から葉を一枚もらうことにする。
えっと、あの、枯れ気味のにしとくんで、勝手にとっても許して下さい。
水に葉を浮べて、グラスに向かって「練」をやるんだよな。よし。
………………………。
あれ、なんも変化起きなくね?
水が増えるでもなく、不純物ができるでもなく。色も変わらないし、葉も動かない。
あとは味だが、なめてみても普通の水のままだ。ううーん、練が未熟とかそういうことか?
「………あれ?」
ふと葉がおかしいことに気づいた。
俺確か、枯れかけの葉っぱをとったはずだよな?なんでこんな色艶きれいなんだ?
まるで新緑のような瑞々しさなんだが、どういうことだろう。えっと、これが変化なんだろうか。
そうなると俺って何系に属するんだ。
強化系は水の量が変化。
変化系は水の味が変化。
放出系は水の色が変化。
操作系は葉が動く。
具現化系は水に不純物が生まれる。
………そのどれも違うような気がする。強いてあげるなら操作系?
いやでも葉は動いてないだろ。そうなると…それ以外の特質系ってことになるが。
あっはは、まっさかねー!
特質系なんて貴重なもんだったりしたら、もう俺どうしていいかお手上げだよ。
一般的な系統なら、戦い方のイメージとか能力をどう固めるかも想像できるけど。
特質系って本当に色々だから、逆に訳がわからん。しかもこの変化、どういうことなんだろう。
葉がきれいに…なったのか、息を吹き返したのか。
「…面倒なことは嫌いなんだが」
あー、頭痛い。やっぱ素人には無理!
これはもう本格的に師匠とか探した方がいい、絶対。
深々と溜め息を吐いて、背もたれに体重を預けぎしっと椅子を軋ませる。
とりあえずもう一枚葉っぱ使って試してみるかなー…と後ろの植木を見ようとして。
なんだか怪しげな男が背後に立っていることに気づいた。
ど、どちら様でしょうかね?しかもなんでこっち凝視してるわけ。
はっ!?も、もしやこの店の関係者とか?うわあ、葉っぱむしったの見られたのかな!
すいません、えっと謝っても許されないかもしれないんですけどっ…。
「…お前、連れのガキがいるだろう」
「………キルアのことか?」
キルアなら今頃スケボーを楽しんでいるところではないかと。
怪我人とか出してないといいんだけど…。
「そのガキが可愛かったら、三日後に試合の申し込みを出せ」
「………ん?」
「そして俺に勝ちを譲れ」
「……………」
えーとそれは、キルアが可愛ければ俺に不戦敗しろと、そういうことか?
あれー、なんかこんな展開を漫画でも読んだことがあるなぁ。
そうそう、ズシを人質にとられてゴンとキルアが200階の選手に脅されたんだった。
200階に到達すると、ファイトマネーは支給されなくなる。
確か200階で10勝することによって、フロアマスターへの挑戦権が与えられるのだ。
そしてフロアマスターに勝てばそのマスターが所有していたフロアを得ることができる。
…正直、250階以上の家とか俺はいらないんだけども。
まあその、フロアマスターになると、一生の富と名声を得られるのだそうだ。
だから、こういう汚いやり口を選ぶ者が後を絶たない。ただ、勝つためだけに。
「…別に一敗ぐらい、くれてやってもいいけど」
「ほう?随分と余裕じゃないか」
「あんた、後悔することになるぞ」
「あぁ?」
「キルアは、そう簡単にやられるような子じゃない」
むしろ俺の方が激弱なのだ、キルアなんてひとりで切り抜けるだろう。
でも200階クラスってほとんどが念能力者なわけだから、いまのキルアじゃ危ないかなぁ。
ここは負けとくべきか?でも、そうすると次も同じ手でこられそうだし……。
ううーん、ここはきっぱり断って勝負しておくべきかな。
「三日後だな、申し込みしておくよ」
とりあえず了承して、席を立つ。
キルアに危害が及ばないようにしつつ、試合に参加する。そんなことできるだろうか。
っていうか、最近キルアほんとに苛々してるから、むしろ返り討ちじゃね?
うんうん唸りながら帰ってきた俺を、キルアが怪訝そうに出迎えるまで、あと五分。
水見式をやってみるも、結局うやむや。
[2011年 4月 1日]