第15話

『さあ、これまで一度も負けることなく快進撃を続けてきた選手!ついに200階クラスでの初めての戦いだぁー!!はたしてここでも彼の不敗神話は続くのかー!?』

お姉さん、あんまり周りを刺激するようなアナウンスはやめてくれないかなマジで。
これで俺が死んでくれたらどうする気!?

いよいよ200階での初戦。ここまで来ると、武器の使用もOKになる。
つまりは、より生死の危険を伴うということだ。ああぁ、ホントに怖いよー。
でもキルアのこともあるし、さっさと試合を終わらせたい。イルミに殺される。
ぐっと拳を握ってリングの上へ。すでに対戦相手は待ち構えていた。

『対するは現在6勝2敗のアッズ選手ー!カマイタチとも呼ばれる彼の鎌は、選手をとらえることができるのでしょうかー!』

四本ぐらいの鎌を持って佇む姿に、思わず顔が引き攣る。
うっわー、ちょっと普通の鎌よりでかいんじゃね?むしろそれ一本でも充分だろ!
殺傷能力の高そうな武器を、なぜわざわざ四本も持ってらっしゃるの!?

ファイ!という掛け声と共に試合が開始される。
と、とりあえずあれだ、俺の命のためにもあの鎌には触らないように…って。
いきなり鎌が飛んできたー!?
四本あるうちの二本が空中を凄まじいスピードで回転しつつ進んでくる。
ぎゃー!あれに触ったらもろ俺斬られるじゃん!
咄嗟に凝で鎌を見ると、念をまとっていることが分かる。アッズの能力は操作系だろうか。
いや、具現化系の可能性もあるよな、クラピカみたいに。

迫ってくる鎌をどうにか避けなければいけない。
ゴミ山での生活と、ここまでの戦いで俺の身体能力はだいぶアップした。
かわす位置さえ間違えなければなんとか避けられるはずだ。
…ぐんぐん迫ってくる鎌にもう俺いっぱいいっぱいだけど。泣きたい。

『おおっと、選手動かない。動く必要もないということかー!?』

動けないんだよバカー!!
とりあえず、もし当たったとしても大怪我を負わないように練を発する。
ぶわりとオーラが自分の周りを包み、髪が風に揺れるのが分かった。
よし、これぐらい出しとけば鎌が当たっても死にやしないだろう。

息を詰めて鎌の軌道を見極めようとして、驚いた。
あれ、なんか鎌の動きがスローモーションになってるぞ。

目をぱちくりと瞬くと、再び鎌は速さを取り戻し俺に襲い掛かる。
え、何!?いまの何!?なんかスロー映像見てる感じだったのに!
とりあえず軌道を見ることができた俺は鎌の一撃目をかわす。
…なんだったんだ?死が迫った人間の集中力とか、そういうので見えたんだろうか。

選手難なくよけたー!さすがです!しかし彼は武器を何も持っていないようですが、いったいどう攻撃するつもりなんでしょう。どうですか先生』
『そうですね、彼はずっと素手で戦い続けていたようですから、今回も同じなのでしょう』

解説の先生!俺、武器持ってないだけだからっ。
だいたい武器ってなんだよ、普通そんなの持ってるはずないだろ。

またも迫り来る鎌の攻撃。
さっきと同じようにスローにならないかと、俺は集中して鎌を睨みつける。
あ、やっぱり遅く見える。とぱちくり瞬いたら、また鎌は速さを取り戻した。
………もしかして、瞬きすると効果が切れるんだろうか。
よし、と俺は脚に力をこめて地を蹴った。

『おっと、いよいよ選手の攻撃かー!?』

試してみる価値はあるだろう、と俺は再びオーラを強めて目を見開く。
やはり全てがスローになり、俺以外の全てが動きを遅くしている。
よし、このまま瞬きしないでアッズの懐に…!

「何!?」

俺が瞬きすると同時に、周りの時間が本来の速さを取り戻す。
いつの間にか目の前にいた俺に、アッズは驚愕した様子で鎌を振り下ろしてきた。
ふふん、そんなでかい鎌、懐に入ってしまえば怖くない。リーチが長すぎるんだよ、それ。

思い切り膝を相手の鳩尾に叩き込む。
もちろん、膝に念をこめて。多分、「堅」ぐらいのかたさはあるんじゃないかと思う。
けど念能力者にしてみれば、そんなの防御をするときに使用する強度でしかない。
相手も堅を行うことができれば、ほとんどダメージは与えられずただの膝蹴りだ。

でも、天空闘技場の選手のほとんどは念をよく理解していない。
だから纏も練も未熟だし、凝という存在も知っているかは謎。
さらに応用技となる堅や硬など、全く知らないに違いない。

「ぐっはあ…!!」
「クリティカルヒット!2−0!」
『おっと、いきなりクリティカルヒットだー!アッズ選手、強烈な一撃をくらったぁ!』

ええーと、確か10点を先にとれば俺の勝ちなんだよな?
手っ取り早く気絶してもらう方がいいんだけど…。
色々なものを吐きそうになるのを堪えながら、アッズがよろよろと起き上がる。
あー、これぐらいじゃ倒れてくれないか。さすが念能力者。
ぎろり、とこっちを見てくるのが怖い。ホント、怖い。

「…貴様……あのガキがどうなっても、いいらしいな」
「何のことだ?」

キルアはいま鬼ごっこの最中で、あんさん達には捕まらないっつーの。
それとも試合が終わった後で、報復とかいって何かやらかすつもりだろうか。
やめてくれよ、そんなことしようもんならイルミに俺が殺される!

「……っ……」

あれ、アッズの顔がなんか急に真っ青になったぞ。
あ、もしかしていまになって鳩尾キックが響いたんだろうか。ごめんよー。
内臓はなんとか無事かもしれないけど、でも今日は消化に悪いものは食べない方が。
ってそんなことを俺が心配してどうする。

まだやるなら相手になるぞ、こ、怖いけど。
俺だってこれまで頑張って修行してきたんだ。念を知ってるというズルがあるけど!

って本当にこっちに走ってくるー!?

いやいや、さっさと諦めて下さいよ、お腹痛いでしょ!?
ひーっ、なんだってこういう場所にいるひとは諦めが悪いというかなんというか。
…まあ、戦うために天空闘技場に来てるんだもんな、皆。
でも俺だって負けるわけにはいかないんですってば!ええい、こうなったら。

やけっぱちになった俺は、恐怖もあって練を遠慮なく発した。
アッズの四本の鎌が前後左右から襲ってくる。
けど集中してる俺には全てがスローに見えて。避けきれない二本の鎌をそのまま握る。

『なんと選手、アッズ選手の鎌を奪ったー!!』

瞬きすれば周囲のどよめきが聞こえた。
しかしそれに構わず、俺は手にした鎌に俺の念をこめる。
アッズの念が打ち消されていくのが分かる。そうして今度は俺の念が鎌を覆った。
えっと、これなんていうんだっけ。肉体以外のものをオーラで纏うのを「周」と言ったような。
オーラを纏った武器はそれだけで破壊力を増す。
おりゃあ!と型も何もあったもんじゃない攻撃に、アッズがその場を飛び退いた。

すると、鎌が当たった石の床がものすごい勢いで抉れる。
ええー!!?鎌で抉れるってどういうこと!?うわわ、石の破片が舞い上がっ…。
………お、視界が上手く遮られていいんじゃね?これ。
ゴンがヒソカとの戦いでやったことを思い出し、俺は利用させてもらうことにする。

瞬きをしないように注意して、また周囲の時間をゆっくりにさせる。
う、ドライアイになりそうだこれ。
そうしてアッズの後ろに回りこみ、鎌を奴の首元に当てた。

「次はない」
「!?」
「…死にたくなければ、二度とキルアに手を出そうとするな」

最近ただでさえキルア機嫌悪いんだからさ、ホントに殺されるぞ?
俺じゃなんのストッパーにもならないんだから、やめておけよな。
しかもキルアに傷ひとつでもつけてみろ。後でイルミとかに報復されるかもしれないぞ。
俺は親切心で言ってるんだからな、お願いだから退いてくれ!

「………まい、った」
『アッズ選手、負けを宣言しましたー!選手、目にもとまらぬ速さで勝利です!!』

よ、よかった…!!









試合を終えて控え室に入ると、ひょっこりとキルアが顔を出した。
こ、こんなとこまでよく侵入してきたなお前。

すっげー!よゆうで、勝ったじゃん!」
「あぁ、早く終わってよかった」

わしわしとキルアの頭を撫でれば、少しだけ不満げな目で見上げてくるちびっ子。
うう、かわいいなぁ。君が無事でホントよかったよ。これでイルミにも殺されずにすむ…!
己の無事を噛み締めていると、なあなあとキルアが袖を引っ張る。

「さっきの、きゅうにいどうしてるやつ、どうやったんだ?」
「あー………あれはその」

念についてはまだ教えるわけにいかないし。

「キルアも、そのうち使えるようになる」

多分、念能力なんか使わなくてもキルアは瞬間移動もどきが出来るよ。
そのうち俺の目じゃとらえきれないスピードを身に着けるようになるんだろう。
はあ、俺が弱いってわかったらキルアも離れてくかな。ちょっと寂しい。

俺だけの念の技。
今回はそれに一歩近づいたような気がして。ちょっとだけ、嬉しかった。




初めての念での戦いです。

[2011年 4月 1日]