キルアの中の主人公設定はどうなっていくのか。
[2011年 4月 15日]
200階に行く、ってことが目標になってたから。
それを達成した後に家に帰らなきゃいけないってことを、おれはすっかり忘れてた。
帰るにしたって、もっとゆっくりできると思ってたのに。
いきなり明日迎えが来るなんて聞いて、おれは絶対にやだ!と叫んだ。
けどは訳が分からない、って顔で首を傾げてる。
その顔にものすっげえ腹が立った。だって、ここでお別れってことなのに。
「キルア、何がそんなに嫌なんだ」
「………………」
「目標を達成したんだ。胸張って家に帰れる」
「………」
「帰れるなら、帰れ。帰れなくなってからじゃ遅い」
言い聞かせるようなの声は、少しだけ悲しげだった。
帰る家があるのに帰ろうとしないおれを、責めているようにも感じるぐらい。
「は…」
「ん?」
「ここに、のこるのか?」
「あー…」
わずかに口ごもったは、わからないって言う。
基本的には嘘を言わない。本当のことも言わないことがあるけど。
それでも、嘘だけは言わないんだ。
だから本当に、この後どうするかは決まってないんだろうなって思う。
でもそれじゃなおさら、おれとの繋がりがなくなる。
「他に行く宛てはないから、残るかもしれない。でも、出て行くかもしれない」
「なんだよそれ。の家は?」
「家族はいないし、故郷と呼べる場所もないんだ」
もうない場所へ思いを馳せるように、遠くを見つめる横顔。
ときどき、こういう顔をする。おれはのこの顔があんまり好きじゃない。
だってこのまま、おれの追いかけられないような、どこか遠くへ行っちゃいそうで。
いまにも消えそうに感じて、思わずおれはの袖をつかんでた。
「…どうした?」
「………」
「ん?」
「…おれん家の子になればいいのに…」
「気持ちは嬉しいが…俺には無理だよ」
「けど!」
の声が、困ったように苦笑してるのがわかる。
こんなのおれの我が儘だって、わかってるよ。でも、でもさ。
「…と…会えなくなっちゃうじゃん…」
ぽつりと本音を漏らせば、少し乱暴に頭を撫でる大きな手。
は家族も故郷もなくひとりでずっと生きてきたんだろう。
そしてこれからもそれでいいと、そうしていこうと決めてるんだ。
けどおれは、そんなの嫌だとなぜか無性に思う。
「キルアが会いたいと思うなら、いつだって会えるさ」
「…本当に?」
「俺の携帯は知ってるだろ?連絡してくればいい」
「……うん」
「一緒に遊んだりしたいなら、呼べばいい。仕事がなければ、来れるから」
言い聞かせるような言葉は、おれのための逃げ道。
繋がりを残しておいてくれようとする、の優しさ。
「……ぜったいだぞ」
「ああ」
だからおれは素直にそれに甘えることにした。
指きりをしようと小指を差し出せば、焦げ茶色の瞳が不思議そうに瞬く。
ほらも小指だす!と言えばすんなりと差し出された小指。
ゆーびきーりげーんまーん、と歌っているときょとんと瞳がおれを見つめていて。
「これ知らねーの?」
「……知らない」
指きりも知らないって、やっぱり過酷な子供時代を過ごしてきたんだろうか。
おれの家だってまともじゃないのに、はそれよりももっと悲惨な状況だったのかもしれない。
そう思うとまた胸がちくりと痛くなって。寝ようとするの腕におれはぶら下がった。
「なあなあ、いっしょに寝ていい?」
「いいけど…寝相悪いからなキルア」
「えー、いいじゃん」
最終的にはいつも折れてくれる。
それが分かっているからおれもベッドについていきながら、ふと思い出したことがあった。
「つかさ、なんで兄貴と連絡とってんの」
「俺が聞きたい。勝手に番号とメールを調べられてたんだ」
「ふーん」
「まあ…仕事を紹介してくれるから、感謝はしてる」
兄貴がわざわざ調べて仕事を振るってことは…やっぱ腕良いんだ。
さっきカレー作ってるときの包丁捌きもすごかったし。
色んな斬り方の説明も面白かった。今度、試してみようって思うぐらいに。
ベッドにダイブして、の隣りに入る。
灯りを消して、けどなんだかこのまま寝るのは惜しくて。
「キルア」
「んー?」
呼びかけてくれるその声に、耳を澄ます。
「寂しくなるな」
「べっ、べつにおれは」
「おやすみ」
やっぱ最後の最後まで子供扱いかよ、なんて思うけど。
むぎゅ、と強いぐらいに抱き締める腕がやたら嬉しくて。
くるしいって!と抵抗してみれば、遊ぶようにさらにの腕の力が強くなった。
空港に向かったおれは、すぐにゾルディック家の自家用機を発見。
そんでもって、そこに立つ兄貴の姿まで見つけて眉を寄せた。
なんだよ、なんでここにわざわざ兄貴がいるんだ?
「や。キル」
「………よう」
「うん、元気そうだ。、弟が世話になったね」
「俺は何もしてない。キルアはもともと強いよ」
ぽん、と俺の頭に手を置くの目はわずかに細められ、笑っているとわかる。
な、なんかこいつに認めてもらえるとすっげー嬉しいっていうか、むずがゆいっていうか。
「じゃあ、俺はこれで」
って、もういっちゃうのかよ!
びっくりしていると、「待った」と兄貴が声を響かせた。
足を止めたは振り返らない。大した用件じゃないなら帰る、って感じだ。
こうやって見ると、やっぱりは基本的に他人と関わろうとしないタイプなんだろう。
おれと初めて会ったときも、すっげえ素っ気なかったし。
「、父さんと母さんが食事に呼んでる」
「………俺を?」
「お礼がしたいんだって。キルも、彼に来てほしいだろう?」
「え?…あ、うんうん!すっげー、来てほしい!」
よっしゃ、まだといられるなら願ったり叶ったりだ。
「………気持ちは嬉しいが」
ぴりぴりと殺気にも近い気配を滲ませるは、おれの家族を警戒してる。
まあそりゃそうだよな、暗殺家業をやってる一家なわけだし。
おれから見ても、すっげー変な家族って思うし。
「遠慮しなくていいから。さ、行くよ」
そう言って歩き出す兄貴の背中が、今日はやたらと頼もしかった。
キルアの中の主人公設定はどうなっていくのか。
[2011年 4月 15日]