憧れのお兄さん的な。
[2011年 5月 27日]
キルアにいさまが帰ってきた。
ずっとずっと会えなかったから、どんな顔をすればいいのかわからなくて。
でも早くごあいさつはしたかったのに、知らないひとが来てるせいでそれもできなかった。
おかあさまは、明日でもいいっていってたけど。でもそれじゃだめな気がして。
きょうがおわる前に、やっぱりごあいさつしよう。
そう思ってキルにいさまの部屋にむかった。
中から楽しそうなにいさまの声がきこえてくる。ドアのむこうに、にいさまがいるんだ。
「はーい」
ノックすればへんじがきこえて、そっとドアを押す。
こっちにきづいたキルにいさまが、きょとんと目をまたたいた。
あれ、にいさますっごく大きくなってる。
「カルトじゃん。ひさしぶりだな」
「……にいさま、ごあいさつおくれてごめんなさい」
「おー。入れば?」
あたりまえのように言ってくれるけど、にいさまの隣りに知らないひとがいる。
きんちょうして、でもにいさまに近づきたくて。
うまく動かない足をいっしょうけんめいに動かして中に入る。
にいさまの隣りにいるひとは、イルにいさまとおなじ、黒い髪。目は黒よりちょっと薄い。
「にいさま、このひと」
「いっしょに天空闘技場にいた」
「…」
「はじめまして。えーと、カルト?」
会ったばかりで、名前だけをよばれたのははじめてだった。
まだ小さくて子供だから、みんな『ちゃん』とか『くん』をつけてよぶ。
でもってひとは、こっちを一人前としてあつかってくれてる。
そうか、だからキルにいさまがこんなに好きになったんだ。
すごく嬉しい気持ちが、よくわかる。
「…はじめ、まして」
なんとか声をしぼりだすと、は小さく目をほそめた。
……もしかして、笑ったのかな、いまの。
「キルにいさま、いっしょにねてもいい?」
「えー、けど今日は」
「俺は構わない」
「あ、ほんと?よかったなカルト、三人で寝てOKだってさ」
「うん」
こうやって、ふつうに受け入れてくれる。
なんだかどきどきして、でもそれを気付かれたくなくて。
にいさまといっしょにベッドに入る。それをはなぜかじっと見てるだけで。
どうかした?とキルにいさまときけば、なんでもないと真ん中に寝ころがった。
こんなふうにいっぱいのひとと寝るのは、ひさしぶり。
「にいさま、おっきくなってる」
「カルトもだろ」
「…子供の二年は長いな」
「「こどもじゃない」」
そりゃやイルにいさまとくらべたら、まだまだだけど。
キルにいさまも頬をふくらませると、悪い悪いと頭をなでられた。
その手がすっごくあったかくて、きもちいい。もっとなでてほしい、っておもう。
だからそのままの腕を枕にして寝ると、それでもおこられなかった。
「おれ、はやく大きくなるからな」
「楽しみにしてるよ」
「ぼくも、とうさまぐらいおおきくなる」
「………そうか」
そんなのむり、ってはいわない。それがすごく、すごく嬉しい。
「どうやったらみたいになれる?」
「成長期がきたら自然と伸びる。よく食べて、運動して、寝るんだ」
「「ふーん」」
の声は、なんだかやさしい歌みたい。
しずかな声をきいていると、だんだんとねむくなってきて。
そのままキルにいさまといっしょに、眠ってしまっていた。
「ちぇ、ほんとーに一日しか泊まってかないでやんの」
「もうかえっちゃったの?」
「キル、カルト。も仕事があるから我が儘は言うんじゃないよ」
「けどさー」
「それにキルはの連絡先知ってるんだろう?メールなり電話なりすればいい」
次の日、は朝ごはんもたべないで帰ってしまった。
食べてらして、とかあさまが言ったんだけど。そこまで世話にはなれませんから、って。
謙虚なヤツじゃのう、とおじいさまが笑ってたけど。けんきょ、ってなんだろう?
がいなくなっても、ずっと玄関にいるとイルにいさまがやって来て。
いっしょに並んでたキルにいさまの頭をぽんと叩いた。
そっか、キルにいさまはとれんらくができるんだ。
じゃあたまに話させてもらってもいいかな。たのんでみようかな。
「さ、キル。天空闘技場でどれだけ鍛えられたのか、見せてもらうよ」
「へーい」
「カルトはミケと遊んでくるといい。最近退屈してるみたいだから」
「はい」
いよいよ本格的に訓練だな、ってとうさまもおじいさまもはりきってた。
いいな、キルにいさま仕事をさせてもらえるようになるんだ。
早く追いつきたい、追いつかなきゃ。それで、もっとたくさんのことを知っていきたい。
そしておおきくなって、に会いに行こう。
憧れのお兄さん的な。
[2011年 5月 27日]