第40話−カルト視点

キルアにいさまが帰ってきた。
ずっとずっと会えなかったから、どんな顔をすればいいのかわからなくて。
でも早くごあいさつはしたかったのに、知らないひとが来てるせいでそれもできなかった。
おかあさまは、明日でもいいっていってたけど。でもそれじゃだめな気がして。

きょうがおわる前に、やっぱりごあいさつしよう。
そう思ってキルにいさまの部屋にむかった。
中から楽しそうなにいさまの声がきこえてくる。ドアのむこうに、にいさまがいるんだ。

「はーい」

ノックすればへんじがきこえて、そっとドアを押す。
こっちにきづいたキルにいさまが、きょとんと目をまたたいた。
あれ、にいさますっごく大きくなってる。

「カルトじゃん。ひさしぶりだな」
「……にいさま、ごあいさつおくれてごめんなさい」
「おー。入れば?」

あたりまえのように言ってくれるけど、にいさまの隣りに知らないひとがいる。
きんちょうして、でもにいさまに近づきたくて。
うまく動かない足をいっしょうけんめいに動かして中に入る。
にいさまの隣りにいるひとは、イルにいさまとおなじ、黒い髪。目は黒よりちょっと薄い。

「にいさま、このひと」
「いっしょに天空闘技場にいた
…」
「はじめまして。えーと、カルト?」

会ったばかりで、名前だけをよばれたのははじめてだった。

まだ小さくて子供だから、みんな『ちゃん』とか『くん』をつけてよぶ。
でもってひとは、こっちを一人前としてあつかってくれてる。
そうか、だからキルにいさまがこんなに好きになったんだ。
すごく嬉しい気持ちが、よくわかる。

「…はじめ、まして」

なんとか声をしぼりだすと、は小さく目をほそめた。
……もしかして、笑ったのかな、いまの。

「キルにいさま、いっしょにねてもいい?」
「えー、けど今日は」
「俺は構わない」
「あ、ほんと?よかったなカルト、三人で寝てOKだってさ」
「うん」

こうやって、ふつうに受け入れてくれる
なんだかどきどきして、でもそれを気付かれたくなくて。
にいさまといっしょにベッドに入る。それをはなぜかじっと見てるだけで。

どうかした?とキルにいさまときけば、なんでもないと真ん中に寝ころがった。
こんなふうにいっぱいのひとと寝るのは、ひさしぶり。

「にいさま、おっきくなってる」
「カルトもだろ」
「…子供の二年は長いな」
「「こどもじゃない」」

そりゃやイルにいさまとくらべたら、まだまだだけど。
キルにいさまも頬をふくらませると、悪い悪いと頭をなでられた。
その手がすっごくあったかくて、きもちいい。もっとなでてほしい、っておもう。
だからそのままの腕を枕にして寝ると、それでもおこられなかった。

「おれ、はやく大きくなるからな」
「楽しみにしてるよ」
「ぼくも、とうさまぐらいおおきくなる」
「………そうか」

そんなのむり、ってはいわない。それがすごく、すごく嬉しい。

「どうやったらみたいになれる?」
「成長期がきたら自然と伸びる。よく食べて、運動して、寝るんだ」
「「ふーん」」

の声は、なんだかやさしい歌みたい。
しずかな声をきいていると、だんだんとねむくなってきて。
そのままキルにいさまといっしょに、眠ってしまっていた。








「ちぇ、ほんとーに一日しか泊まってかないでやんの」
「もうかえっちゃったの?」
「キル、カルト。も仕事があるから我が儘は言うんじゃないよ」
「けどさー」
「それにキルはの連絡先知ってるんだろう?メールなり電話なりすればいい」

次の日、は朝ごはんもたべないで帰ってしまった。
食べてらして、とかあさまが言ったんだけど。そこまで世話にはなれませんから、って。
謙虚なヤツじゃのう、とおじいさまが笑ってたけど。けんきょ、ってなんだろう?
がいなくなっても、ずっと玄関にいるとイルにいさまがやって来て。
いっしょに並んでたキルにいさまの頭をぽんと叩いた。

そっか、キルにいさまはとれんらくができるんだ。
じゃあたまに話させてもらってもいいかな。たのんでみようかな。

「さ、キル。天空闘技場でどれだけ鍛えられたのか、見せてもらうよ」
「へーい」
「カルトはミケと遊んでくるといい。最近退屈してるみたいだから」
「はい」

いよいよ本格的に訓練だな、ってとうさまもおじいさまもはりきってた。
いいな、キルにいさま仕事をさせてもらえるようになるんだ。
早く追いつきたい、追いつかなきゃ。それで、もっとたくさんのことを知っていきたい。

そしておおきくなって、に会いに行こう。



憧れのお兄さん的な。

[2011年 5月 27日]