第41話−ヒソカ視点

天空闘技場に来たのはただの暇ツブシ。
ここならまあ遠慮なく戦えるし、たまに面白い原石にも出会うかもしれない。
そう思って参加してはみたものの、やっぱりなかなか良い獲物は見つからない。
悲鳴を上げる小物を壊すのもそれなりに愉しくはあるんだけど。それだけじゃ物足りない。

200階以上ならマシな戦いをしてるらしいと知って、チケットを購入した。
それは一回の棄権を抜いて負けなしだっていうの試合。
かなりのプレミアがついてて、けっこういい値段だったんだよね。
けどそれだけの価値があった、と思わず舌舐めずりする。
ああいいね、彼はいい。ここにいる連中とは格が違う。

念の精度自体が違うし、そもそもまとう空気からして普通ではない。
あれだけ濁った目をしているから裏の世界に足を突っ込んでいるのかとも思うけど。
でも妙に血の臭いから遠い。汚れて見えるのに、澄んでいる。そのアンバランスさがいい。

良いね、壊してみたい。どんな風に彼は踊ってくれるんだろう。
ほとんど変わらないその表情が、苦悶に歪むのを見てみたい。
もしくは獣のように血を求める顔を見せてもらうのもいいかもしれない。
きっとそのどれも、ボクにとって刺激になるだろうから。面白い、面白いよ彼。

一度好奇心が沸くと止められない。だからボクは200階へと侵入したことがあった。
気配を殺すことは得意な上に絶もしている。だから行き交う人は誰も気付かない。
そうしてしばらくすると、缶コーヒーを飲みながらやって来るが見えた。
何か考え込んでいるらしい彼も、ボクの存在には気付いていない。
試しにトランプを取り出してそれを彼の横顔に放ってみた。すると。

手にしていた缶を放り投げて、それを盾にしてみせた。
トランプを受け止めた缶はそのまま彼の足元に転がる。ククク、あっさり気付かれた。
どうにもワクワクしすぎて、殺気を押さえきれなかったかな。

ボクへとの焦げ茶色の瞳が向けられる。それだけでひどくゾクゾクした。
けれど彼はすぐに視線を外してしまう。つれないなぁ。

足元に転がった缶を拾ってそのまま立ち去りそうな彼に、仕方なく声をかけた。

「ねえ、キミ」

それでも振り返らない。焦らすのが上手いね。

「キミ、だろ?」

ボクの挑発に気付いても何のリアクションもない。
うーん、こういう人間を崩すのが面白いんだけど。そのことに彼は気付いてるんだろうか。

「キミ、面白いよねぇ。なんでこんなところにいるのか、不思議だ」
「………………」
「ボクも近々、ここまで上がってくる予定だから。そのときは愉しませてくれよ」

その誘いに乗って、ボクも思い切りやらせてもらうから。
最後の挑発にオーラを強めれば、もぞわりとオーラを揺らめかせた。
やっぱり良いオーラだ。強くて、濃くて、とても恐ろしい。
なんでこんなオーラを持つ人間が、天空闘技場なんて生温い場所にいるのかは知らない。

「ボクはヒソカ。ヨロシク」

けどボクとしては愉しめればそれだけでいい。
だからウィンクひとつして、陰で隠したバンジーガムを挨拶代わりに飛ばしてみた。
でもそれもあっさりと横に飛び退いてかわされちゃった。残念。

ようやく楽しめるものができた、とボクは上機嫌にその場を去った。
だというのに、は次の日には天空闘技場からいなくなってしまっていて。

「本当に焦らしてくれるねぇ…」

やられちゃったよ、とボクは今日も弱い獲物を狩る。
けどここでしばらく遊んでれば、また暇ツブシの相手は見つかるかもしれないし。
とはまた次に会ったとき、愉しめばいい。

メインディッシュは、最後までおいしくとっておかないとね。

その日を心待ちにしながら、ボクは唇の端を吊り上げた。





焦らしてるわけでも誘ってるわけでもねえよ!!(by主人公)

[2011年 5月 27日]