第25話−フィンクス視点

シャルナークが気にかけていた男。あーとかいったか。
そいつと会うってんで、俺は顔を拝みにちょっと後をつけていた。
シャルの奴はすぐに気づいてたみたいだが、特に文句を言うこともなかった。

実際に見てみるとわかる、の纏の完成度の高さ。
これはかなりの使い手なんだろう、としらず血が騒ぐ。
どうにも戦いを好む俺やウボォーは強い奴を見ると、やりあってみてえと思っちまう。
けど念能力がかなりのものだとしても、戦闘向きでない奴もいる。
もうちょっとどんな奴か見極めてからの方がいいか、と観察していると。

シャルのことを尾行しているらしい連中に気づいた。
俺たちはこれでも賞金首だ、襲撃してくる命知らずもたまにいる。
もその気配に気づいたのか、シャルにからかうように声をかけた。
そしてそのまま二人で走り出す。なんつーか、随分と仲良いな。

旅団の中で副リーダーに近いのがシャルナークだ。
基本的には団長のクロロに俺たちは従うが、団長不在時はシャルが指揮をとることもある。
情報収集の能力もかなりのものだし、俺らと違って頭も良い。
ただあんま人間には興味がない機械好きみたいなイメージも強かった。
…けど、あんな風に旅団以外の奴とも楽しげにするんだな。それが珍しい。

二人はそのまま街を出て、誰も近寄らないような廃墟に入った。
けどすでにここは賞金稼ぎの男たちが張り込んでいる。あえて罠に入ったんだろう。
奥へとちらりと視線を送ったも潜む気配に気づいたのか目を細めた。

「…シャルは、ゴミはそこら辺に投げ捨てる派?」
「んー、邪魔にならないならそうしちゃうかも。はちゃんと片づける派?」
「ひとの迷惑になりそうだったら。俺の代わりに片づけるひとに悪い」
「あはは!確かにゴミ処理って面倒だよねー。でもまあ、誰も来ない場所だし、いいんじゃない?」

ここにいる連中がゴミにしかならない程度のレベルだと、察知しているらしい。
シャルの言葉を受けてが一歩を踏み出した。さっさと片付けたいんだろう。
だが潜伏に気づかれていると察知した男たちが、やられる前にやれとばかりに姿を見せた。
つまらない、といいたげな顔でシャルが肩をすくめる。

「なんだ、自分たちから出てきちゃったんだ」
「………知り合いか?」
「ううん、全然。大方、俺の首でも狙ってるんじゃない?」
「その通り。おとなしく捕まった方が利口だぜ兄ちゃん」
「痛い目みたくなければな」
「俺たちに気配気づかれてたくせに、よくそう大きい口叩けるなぁ」
「……シャル、俺は」
「俺のお客さんだから任せて。はこれ持っててくれればいいから」

からもらった土産を一時預け、シャルは缶を手にとる。
それにオーラをこめ、遠慮なく目の前の男たちに投げつけた。
あっという間に二人が絶命し、どうやら大した相手じゃないらしいと拍子抜けする。
こりゃ念も知らねえような奴らじゃねえか?
おいおい、それでよく幻影旅団の団員を狙おうとするもんだな。

「誰も来ない場所だし、別に片づける必要はないよね」
「………大きなゴミだな」

面倒臭そうに溜め息を吐いてが入り口を振り返る。
するとまだいた賞金稼ぎがぞろぞろと入ってきた。

「あ、入り口塞がれちゃってる。まだお客さんいるみたいだ」
「……本当に、人気者だなシャル」
「それほどでも」

体格は良いし武器も持ってるが、弱い。
だが人数が多いというのは厄介だ。時間がかかって面倒になる。
シャルも同じだったのか、朗らかな笑顔を浮べた。ありゃ、雷が落ちる前に見せる笑いだ。

「ごめん、。この人数を俺ひとりで相手すんのは無理かも、あはは」
「……嘘つけ」
「少しぐらいは協力してくれよ」
「最低限のことしかしないぞ」

やれやれとばかりに息をついたに、棍棒を手にした男が襲い掛かる。
お、こりゃようやく奴の力量を測れるチャンスってやつか?

わくわくして見守っていると、はただ首を仰け反らせるだけで一撃目を避けた。
そしてそのまま身体の重心を落とし、床に手をついて別の男に足払いをかける。
動きを止めることなく後ろに飛び退き、さらに新手を肘打ちで吹き飛ばす。
なんて無駄のない動きだ。念うんぬんというより、純粋な技術だけでかなりのもの。

対して相手は素人に毛が生えたようなレベル。
それを感じ取ってるらしいあいつは、呆れたような目を男たちに向けている。

「あはは、さすが
「できるものなら、俺は戦いたくない」

俺は、といいながらが視線を向けたのは俺が潜んでいる方向。
どこか睨むような視線に、気づかれてたのかと舌を巻く。
気づいていたのに、その素振りを見せなかったとは大した奴だぜ。
シャルも隠す必要は感じてないのか、敵の攻撃を避けながら笑った。

「だってさ、フィンクス」
「チッ」
「………………」

まあ、いい。
とりあえずはこの鬱陶しいハエを排除するのが先だ。
すっかり戦う気のなくなったらしいは、隅で傍観を決め込んでいる。
俺とシャルの手にかかれば、賞金稼ぎがただのゴミになるまでそう時間はかからない。
ぱんぱんと手を払って、こんなもんかな?とシャルナークが辺りを見回した。

「あーあ、無駄な時間潰しちゃったよ。ごめん
「…いや。シャル、これ」
「ありがとう。ケーキが無事ならよかった」
「よくそんな甘ったるいもん食えるな」
「このおいしさが分からないなんて、人生の半分損してるよフィン」
「言ってろ」
「………シャル、ここ出よう。血の臭いが充満してる」
「うん」
「別にいまさらどうこうなるもんでもないだろ」
「…俺はいたくない。ヤバイから」

ぞわり、と悪寒めいたものが背筋を撫で上げる。
それはのオーラが不気味に揺らいだせいだった。
焦げ茶色の瞳に虚ろな色を宿し、早足で建物から出て行く。
いまにも俺たちを殺しそうな切迫したオーラに、奴の本性を見たような気がする。

つまりは、このまま血の臭いをかいでいると殺人衝動が起きるとかか?
あんな人形みたいな無表情な顔して、なかなか面白い。

「ヤバイ状況になってくれても、俺は一向に構わないんだが」
「俺が構うんだけど。横から茶々入れるなよ」
「…珍しいよな、ホント。お前がそこまで気に入るってのは」
「なかなか興味深くてね」
「まあ分かる」

結局今回も奴の本気の戦いを見れなかった。
あれだけ刺激的なオーラを発することができるのに、戦うことを避ける。
抑えようとせず、思うままに殺しちまえばいいのに。

いつか本気の姿を見て見たい。
そう思いながら、俺はシャルナークと共に外へと向かった。









盛大なる誤解。

[2011年 4月 1日]