幻影旅団のアジトへ。
[2011年 4月 1日]
危なかった、めっちゃ危なかった…!
俺あのまんまだったらシャルとフィンクスの前で嘔吐してた絶対…っ!
ヤバイといった俺に察してくれたのか、シャルたちはすぐには出てこなかった。
うう、情けない姿見られなくてよかった。でもちょっと涙出てきたよ。
あんな惨殺死体がごろごろしてる場所で、なんで会話できるんだ二人とも…!
俺には刺激が強すぎてもう駄目。ホラゲーだってぎゃあぎゃあ叫んで出来ないってのに。
「、返り血で汚れちゃったから家に戻ってもいい?」
「…え。帰るなら俺はここで失礼してもいいけど」
「それじゃ悪いよ、俺に巻き込まれたんだし。そう遠くないから、家寄ってきなよ」
「………近いのか?」
「うん、そんなに時間かからない。お茶でも出すから、飲んでって」
「じゃあ…」
お言葉に甘えて、と頷けばシャルはよかったと笑う。
行くならさっさと行くぞ、とフィンクスが背を向けて走り出す。………って、はや!!
念の気配を感じたから咄嗟に凝を使うと、フィンクスの足回りをオーラが覆っている。
そして駆け出したシャルナークも同じように、足に凝を使って脚力を上げていた。
うっそん、俺もこれやらないといけないわけ?このままじゃ置いてかれるよな?
ひいぃ、と心の中で悲鳴を上げながら必死に足にオーラを集める。
すると漫画か映画のように、ビルからビルへと飛び移ることも可能なのだと知った。
………すごい、俺がまさかこんなCG映画みたいなことできるなんて。
景色が飛ぶように過ぎていき、シャルとフィンクスの背中をただひたすら追いかける。
おかげでいま自分がどの辺りを走っているのかさっぱりだ。
これは帰るときにも道案内を頼まないと駄目かなぁ、と溜め息を吐く。
そうして辿り着いたのは。高層ビルの群れが密集する場所で。
そのどれもが廃墟となっているようで、人の気配が全く無いところだった。
「ただいまー」
「…お帰り。随分、血まみれだけど」
「久しぶりに賞金稼ぎに狙われてさ」
廃墟のひとつに足を踏み入れた俺たちを迎えたのは、キツイ印象の美少女。
柔道着を思わせる服装と、高い位置でひとつに結い上げられた髪。
腕には針山があり、俺はそれがマチだと気づいた。
うわあ、まだちょっと幼い感じだけどやっぱかわいい!
俺の妙な視線に気づいたのか、警戒するような視線をマチが向けてきた。
それに気づいたシャルがああと振り返る。
「彼は俺の友達で」
「トモダチ?」
「そ。せっかく出かけてたところを邪魔されちゃってさ、とりあえず着替えに戻ってきた」
「あんたにトモダチねぇ…」
「それからこれのお土産。ケーキが入ってるから」
「へえ、気が利くじゃないか」
「ショートケーキは俺のだから食べないでよ。他は好きに分けていいから」
「じゃあ遠慮なく」
シャルから箱を受け取ると、マチはそのまま颯爽と奥へ消えていった。
じゃあ俺はシャワー浴びてくるから待ってて、と言い置いてシャルも去っていく。
…え、あの、俺はどうすれば?
そう戸惑っていると、フィンクスがこっちだと案内してくれる。
案内されたのは広間として使用されているらしい場所。
とはいってもテーブルや椅子があるわけでもなく、瓦礫がごろごろ転がっている。
それに腰かけ思い思いに過ごすメンバーの姿に、俺は顔を引き攣らせた。
「フィンクス、そいつは?」
「シャルのおトモダチだと」
巨体の男にフィンクスが肩をすくめて説明する。
恐らくフランクリンだろう。顔中に傷痕やら縫った痕があるんですが…!
っていうか、ここってもしかして幻影旅団のアジトのひとつなのだろうか。
原作でこんな場所に皆が集まっていたシーンがあったような…と冷や汗をかく。
だ、大丈夫なのか俺。あの幻影旅団の真っ只中にいるってことなんじゃ…?
「俺はフランクリンだ。お前は?」
「…」
しまった、緊張で超ぶっきら棒になっちゃったよー!!
もう泣きたい。絶対に印象最悪だった、これ。素っ気ないにも程があるだろ。
名乗るだけでびくびくしてるなんて、余計に相手を不快にさせるだけじゃないか。
ああどうしよう、俺は今日ここで死ぬかもしれない。ごめん、キルア、俺帰れないかも。
「あー、すっきりした」
天使の声が聴こえるー!!
「あれ、どうしたの。好きなところに座りなよ」
「………好きなところ?」
「うん、別にどこでもいいから。何か飲む?」
「いや」
いらないからここにいてシャルナークさん!
濡れた髪をタオルでわしわしとふきながら顔を出した友人に、ようやくほっとする。
シャルがいたからって助けてもらえるとは限らないが、生存率は少しでも上がるはずだ。
…それにしてもやっぱり美形だよなシャルって。
さらさらの金髪も良いけど、こうやって濡れた髪をぬぐう姿も絵になってる。
くそう、美形ってのはなんだってこう何しても綺麗なんだ。
………まあ彼の場合、ちょっとその腕の筋肉が不釣合いな気もするんだが。
「シャルのトモダチだって?」
「そう。あ、彼がケーキ持ってきてくれたんだけど、フランクリンも食べる?」
「あぁ、せっかくだしもらう」
「マチがいま開けてると思うよ。ショートケーキ以外なら食べていいから」
「わかった」
「そういやフランクリン、団長は?」
「フェイタンと暇つぶしに行った」
そうか、ここにフェイタンはいないのか。………助かった!
キャラクターとしてはフェイタン大好きだけど、実際に会いたいとは思わない。
だって拷問が趣味なんだろ?しかもすぐひと殺そうとするし。…俺、瞬殺されるんだろうな。
そういえばパクノダはいないんだろうか。俺、旅団の中じゃパクが一番好きなんだけど。
「シャル」
「ん?」
「…ここが、お前の家?」
「家のひとつ、かな。別の普通の家もいくつかあるよ」
「……へえ」
いくつかって。家はひとつでいいと思うんだけども。
「ここは仕事仲間が集まるホーム。一番近かったから」
「仕事仲間…」
「そういえば、俺が襲撃されても理由聞かないね」
「…聞いてよかったのか?」
「別に隠してるわけじゃないし」
「賞金首、なんだろ」
「そう。これでも俺、幻影旅団なんだ」
知っておりますとも。
ここにいる人間みんな旅団の団員なんだってことも。
「残念。もうちょっと驚くかと思ったんだけど」
「失礼になるかと思って」
「ぷっ。ってさ、ずれてるよね」
「?」
「まあ、運び屋なんてやってるんだから、そういうこと頓着しないんだろうけど」
「えっと…」
やたら楽しげに笑うシャルはどうしたんだろうか。
ここは「マジで!?あの旅団!?サーカスとかじゃなくて盗賊の!?」とか驚くべきだったか。
けどタイミングを逃した時点で失敗している。くそう、空気読めなかったぜ俺。
お前は多分自分が思うよりひととずれてるぞ、と友人に言われたことはあるが。
…そうか、空気を読むスキルがずれてるってことなんだな。KYって言うなー!
「そうだ、団長もしばらくしたら帰ってくるだろうし。会わない?」
「会わない」
なんで死亡フラグ立てようとすんの!?
あんまりの動揺に即答しちゃったじゃんか!
「えー、団長も気に入ると思うけどなぁ」
「俺は気に入られたくない」
「まあ俺も、が団長に気に入られすぎるのは困るんだけど」
ならなんで紹介しようとするんだ。
シャルの考えていることが全くわからず、俺はぐったりと肩を落とす。
とりあえず、さっさとおいとまさせていただこう。そう、団長が帰ってくる前に!
クロロはやたらと鋭いというか頭が良いから、会うのが怖い。
別に知られて困るようなことはないけど………ない、よな?うん、ない。
どちらにしろ、旅団に深く関わりたくはない。
知りすぎて消される、とかごめんだ。
「シャル、紅茶が入ったぞ」
「わかった。なんかフランクリンたちが用意してくれたみたいだから、行こう」
「…一杯いただいたらすぐ帰る」
「ゆっくりしていけばいいのに」
「そうだぜ。んで、俺と一発手合わせとかどうだ?」
「断る」
殺す気か、フィンクス。
キッチンとして使用されているらしい部屋に顔を出す。
テーブルには紅茶とケーキが並べられており、マチはすでに食べはじめていた。
呼びに来てくれたフランクリンも腰かけ、選んだケーキにフォークをのばす。
シャルは嬉しそうにイチゴのショートケーキを確保し、隣りに座りなよと促してくる。
いまだに手合わせを望むフィンクスに、俺は泣きたくなってきた。
俺みたいな弱いの殺しても楽しくなんかないってばー!
どうか黙ってください、との意味をこめて手近にあったケーキをフィンクスの口に突っ込む。
むぐっ!?と目を白黒させる仲間に、シャルナークとフランクリンが笑った。
落ち着いて食べなさいよ、とマチが睨みをきかせる。す、すいません。
怒られた…と俯いてモンブランの一番上の栗をフォークで刺す。
うん、やっぱりおいしい。
………無事に、帰れるといいな、俺。
幻影旅団のアジトへ。
[2011年 4月 1日]