第27話

……それであのー、結局このまま夕飯までご馳走になりそうな勢いなんだけど。
いや俺すぐ帰るって言ったよね!?紅茶飲んだら帰るって言ったのに!

なんでか、目の前に並べられていく食事。
電気なんて通っているはずもない廃墟は、灯りは蝋燭の光のみだ。
………これなんて最後の晩餐?俺もしかして死ぬのか、やっぱり。
ユダ(という名のヒソカ)はまだ旅団に加わってないはずなのに、まさかの展開だ。

「お、うまそうじゃねえか」
「あとはワインが届く予定だよ」
「今日はどこの店から調達してきたの?」
「ほら、この間あんたがチェックしてた店」
「え?あそこ行ったんだ」

比較的穏やかな空気で会話してるように見えるけど、俺は口を挟む勇気はない。
だってさ皆。

………これ全部、盗んできた料理なんだぜ?(遠い目)

盗賊なんだから欲しいものは盗る!とフィンクスは胸を張ってたけど。
いやいやいや、料理ぐらい自分でしろよ。せめて盗るなら食材だけとかにしろ。
お前ら自活能力実はかなり低いんじゃね!?と思ってはいても、やっぱり口に出せない。
おいしそうな料理ばっかりなんだけどさー、盗品かと思うと食欲が出ないよなぁ。

「あら、お客さん?」
「戻ったか、パク」
「えぇ。団長お気に入りの年代物よ、ほら」

ワインを差し出す美女にフィンクスが口笛を吹く。
姿を見せたナイスバディな女性に、俺はもう目が点というかなんというか。
う…わ…マジでパクだー。うおーすげえ嬉しい!
正統派な美人ってわけじゃないけど、なんかもう好きなんだよなパク。

落ち着いてて、優しくて。団長や仲間のために犠牲になることも躊躇わない。
あの蜘蛛編での彼女は悲しくて、そしてとてもとても綺麗だった。

原作の展開を思い出してしんみりする俺に、パクノダの視線が向けられる。
なんだかその視線を俺はまともに受け止められなくて、目を逸らしてしまった。
生きていてほしいと思う。だけど、原作に介入することが怖いとも思ってしまう。
うう、すごい意気地なしでごめんパク。そんでもって、やっぱり胸に目がいくのはもっとごめん!

「シャルナークの友達だと」
「あぁ、最近よくやり取りしてる?」
「なんだパクは知ってたのかい」
「まさかここに呼ぶとは思わなかったけど。私はパクノダよ、よろしく」
「…。よろしく」

…っ…駄目だー!!やっぱりパクを直視できないぃー!!
なんだってその素敵なボディをさらけ出していらっしゃるんですかパクノダさん…!
胸だって目のやり場に困るっていうのに、スカートもミニだしっ。
ああもう、なんて美しい脚線………って、ちがーう!!俺これじゃただの変態!

…いやでも、男としてはしょうがないと思うんだ。
つか旅団の男共はなんで平気なわけ?おかしいだろ。パクの胸と足に謝れ!!

ってなんか好き嫌いあったっけー?」
「特に。毒物でもなければ」
「ははは、そんなの出すわけないだろ」
「いーや、シャルなら笑顔で出すこともあるぜ絶対」
「フィンクスになら出してやろうかと思うこともある」
「おおい!?」
「あんたは一言多いんだよ。ほら、さっさと食べるから座りな」

俺の隣りには当然のようにシャルが座り、もう片方はなんとパクが座った。
ひいぃ、緊張して食べるどころじゃないぞこれ…!

味とかもう全然分からなくて。自分が何を食べたのかすら、分からない有様だった。











「本当にもう帰っちゃうんだ」
「…充分長居した」

よかった、俺生きてる…!ちゃんと最後まで生きてたよじーちゃん!!
生きていることの喜びを噛み締めながら、見送りに出てくれたシャルに礼を言う。
何のこと?ときょとんとされるけれど、今日は仕事のお願いをしに来たわけだし。
しまいには夕食もご馳走になったのだから、お礼は言うべきだろう。…例え盗品であっても。

「石版のこと、頼む」
「あぁ、了解」
「別に急ぎじゃないから、暇なときにでも探してくれればいい」
「そう?」

その方が俺も心苦しくないし。
実際に呪いの石版が見つかるだなんて、あんまり期待もしてない。
見つかったとしても、それで本当に元の世界に帰れるかどうかも分からないのだ。

「それじゃあ」
「うん。またメールなり電話なりするから」
「分かった」

ひらりと手を振って、俺はすっかり夜になった景色を歩き始める。
………………やっべえ、全然道わかんねーぞこれ。
無事に帰れるのかなぁ、と泣きそうになりながらとりあえず廃墟から遠ざかった。
あれだ、どこか街中に出ればきっと分かるはず!

もういまは生きて幻影旅団のアジトから出れたことだけを、喜ぼう。

シャルと食事できたのは楽しかったし。パクに会えたのも嬉しかったし。
クロロとフェイタンに会わずに済んだのも、ほんと良かった。
………できれば、旅団とは一生関わりになりたくない。

シャルとメル友な時点で、それは無理なわけだけど。







団長とその他のメンバーとの対面はまだ先になりそうです。

[2011年 4月 4日]