第51話

その後のジンさんの働きは素晴らしいものデシタ。
いやなんつーかさ…通路の意味ないよな、って感じの勢いで。
侵入者を防ぐためなのか、通路は入り組んでいて訳がわからなかった。
奥へ進んでいるのか入り口に戻ってるのかも曖昧になりそうな造りになってて。

まあジンが切れるのは時間の問題だったわけだ。
めんどくせえ!!と唸ったジンは、次の瞬間には拳にオーラを集めた「硬」で壁をぶち抜いていた。
えー!?と俺が驚く間にも次の部屋に入ってまた壁をぶち抜く。さらにぶち抜く。

その繰り返しで、どんどん内部を破壊しながら奥へ奥へ進んでいった。
あ、もちろん途中で盗賊が出てきたりもしたんだけどさ。下っ端じゃジンの相手にはならなくて。
あっという間に蹴散らされていくのに同情したもんだ。
…最初からこんな飛ばしてオーラの底をつかないんだろうか。ボスが待ってるわけだろ?
こんな大きな盗賊団のボスじゃ、相手も念能力者の可能性が高い。

「ここが最後っぽいな」

さすがに埃まみれになったジンはぽんぽんと手で汚れを払う。
大きな両開きの扉が俺たちの前にあり、明らかにいままでと様子が違った。
…うん、確かにこの奥が首領の部屋っぽい。

「入るぜ」
「…あぁ」

俺がやめろって言ったってやめないんだろどうせ。もう諦めたよ。
溜息混じりに頷くと、ジンは勢いよく扉を開いた。

「威勢の良いのが来たって聞いたが、てめぇらか」

部屋の一番奥、何人座れんの?ってぐらい大きなソファに腰掛けた顔に傷のある男。
筋骨隆々とした目つきの鋭いその男が恐らくクート盗賊団の首領だろう。
男のすぐ傍には怯えた表情の女性がいて、酒の酌をさせられてるようだった。
そして俺たちに近い場所では二人ほど同じように酒を手にしている男がいる。幹部だろうか。

………首領含め男たちのオーラは明らかに戦い慣れた鋭いもの。
凝を使わなくても肌で感じることができる。うなじの辺りがピリピリしてきた。

「お前がルッタか?ここの頭の」
「だったらどうした。ここはあんちゃんが来るような場所じゃねえぜ」
「確かに俺にゃつまんねえ場所だな。空気悪いし、趣味も悪い」

拳を鳴らしながらジンは室内をぐるりと見回す。
洞窟内に建てられた場所とは思えない豪勢な内装だ。シャンデリアが下がってるし。
空調設備もしっかりしてるし、高そうな絨毯やらよくわからない剥製も飾られている。
同じように拷問器具と思われるコレクションも壁に並んでいて不気味だ。
…フェイタンとかあれ見たら喜びそうだよな。

「こんなとこにまで踏み込んだ度胸は買ってやる。俺に何の用だ?」
「一発ボコらせてもらいに来た」
「はっはあ!面白いこと言いやがる」
「俺のダチがあんたらに世話になってな。その礼だ」
「復讐ってか?泣かせるねえ。だが俺はお前の相手してるほど暇じゃねえんだ」

首領のルッタが長い顎をしゃくると、幹部の男二人が立ち上がった。
ひょろりとした男は数本のナイフを構え、ぎょろ目の男は姿勢を低くして。
戦闘態勢に入る二人にジンがごきりと首を鳴らし、先ほどまでの笑みをすっと消した。
その瞬間にぶわりと迸る凄まじいオーラ。この部屋の中を吹き荒れ渦巻くそれは、圧倒的。

な、なんかスーパーサイヤ人みたいだけど…!?
さすが主人公の父親。世界で五指に入る能力者なだけのことはある。
突風の中立っているような状態で、俺は腕で顔を庇った。すげえ、こんなのって…!

「………なるほど、口だけじゃねえってことか」

ルッタが目を細めて立ち上がる。と、傍にいた女性の頭をその大きな手で鷲づかんだ。
まるで人形を持ち上げるかのように頭だけをつかんで宙にぶら下げる。
突然の出来事に女のひとの口から声にならない悲鳴が漏れた。

「なあ、あんちゃんよぉ。てめえみたいなヤツってのは、無関係の人間殺されるのを嫌がるよなぁ。どうだい?やっぱり偽善者ぶってこの女が殺されるのも嫌がるかい?」
「………さすが盗賊団の首領、やることが胸糞悪いぜ」
「た、たすけ…っ…」
「ほらほら、善良な一般人が悲鳴上げてるぜ。俺には絞め殺される鶏の鳴き声にしか聞こえねえがな、はっはあ!!」

頭で全体重を支えている女性はどんどん顔色が悪くなっていく。
じたばたともがく力もどんどん弱まっていくのがわかった。
それをじっと見ていたジンは、不意にオーラを通常状態に戻してしまう。
………やっぱり無関係のひとは巻き込みたくないのか。
こういうところも、ゴンの父親だよなって思う。潔いほど真っ直ぐだ。

ジンが戦闘態勢を解いたのを見て、ルッタはにやりと下卑た笑みを浮かべる。
そしてちょいちょいとなぜか俺を手招いた。

………って、俺!?なんで俺!?

「ほら、あんちゃん。この女を目の前で殺されたいのか?」

いやそれよりもその俺の命が風前の灯なんですけど…!?
なんでジンじゃなくて俺が呼ばれるんだよ、俺いまのいままで何もしてないじゃん!
俺を今度は人質にしようっていうんだろうか。そ、そんなっ。

ジンにとって俺は人質の価値があるんだろうか。
ど、どうしよう、じゃあ遠慮なくボコってやるぜ!とか言われたら…っ。

泣きたい。ルッタに近づく一歩一歩が死への一歩にしか思えない。
あぁ…これが男の花道か…短い人生だった。やりたいこといっぱいなのに。
色んな遺跡巡ってー、キルアたちと遊んでー、甘いもの食べまくってー。
………考古学者になりたかったのに。

「あんちゃんみたいに澄ました顔してるヤツが、俺は大嫌いなんだよ」

間近に迫ると本当に大きい。身長いくつだこれ!?
いまにも泣きそうな顔してんじゃん俺、どこが澄ましてるように見えんだよお!!

でも恐怖で何も言えなくて、ろくに相手の顔を見る勇気もない。

「これは無様に死ぬお前への祝杯だ」

どぶっと頭に液体が注がれる。
髪が濡れ顔にはりついて、そして流れる赤い液体は俺の服も濡らし足元に水溜りを作った。
まるで俺の血溜りみたいだ、とぼんやり思いながらつんと鼻につくこの香り。

ワインの香りだ、と気づいたときには意識は白いカーテンに包まれていた。





オリキャラ満載!

[2011年 6月 26日]