第50話

やあ、みんな元気かい?俺はいま現在死亡フラグ乱立中さ!
え、テンションおかしい?お前誰だ、ってそんなアハハやだなぁ。俺だよ、俺、俺!

………………………。

マジで死亡フラグが立ちまくってるんですけどおおおぉぉぉぉぉぉぉ!!?
ちょ、俺の周りには屍か武器を持って襲い掛かってくる盗賊しかいないってどういうこと…!!
そこのお兄さん!俺思いっきり部外者なのに巻き込んでんじゃねーよ!!
俺ただのピザ屋のパシリだよ!別に盗賊団に用なんかないよ!!

盗賊たちと乱闘中のお兄さんは名前をジン=フリークスというそうだ。

………うん。
このハンター世界を物語とした漫画、そのファンである俺だが。
主人公の名前はゴン=フリークス。ふっしぎー、姓がおんなじですねー。

そりゃそうだろう、親子だもんよ(セルフツッコミ)

ジン=フリークスといえば。
ルルカ文明遺跡の発掘をし、私財を投げ打ってその修復をした。
一般人が観光できる保存状態も整えたらしく、サトツさんの憧れのひとでもある。
それから二首オオカミの繁殖法の確立、コンゴ金脈の発掘も行い。
さらにはどっか大きな盗賊団を壊滅させるという業績も彼は持っていたはずだ。

……え、もしかしてその盗賊団ってこれ?いまその輝かしい業績が刻まれる瞬間?
別に生で見たくなかったんですけど!新聞とかで拝めれば充分だよ!

、そっちいったぜ!」
「!」

明るいジンの声はいまだ楽しげに弾んでいる。ずっと動きっぱなしなのに体力すげえ。
声をかけられて慌てて振り返った俺の手からゴミがすぽーんと抜けた。
わああ、こんな自然の中にゴミ投棄はまずいだろ俺ー!!

「…っ…てめええ!!」

ひーっ、ゴミが向かってきてた盗賊の顔面にヒット!
心の中でごめんなさいごめんなさいと謝りながら、俺はもう逃げるしかない。
あっちは武器を持ってるのにこっちは丸腰だ。どうやって戦えと!?
足元にはジンが倒した男たちがごろごろ転がっており、踏まないように避けるのも大変だ。
って、ぎゃー!武器とかもごろごろ落ちてんじゃん!!踏んだ、いまナイフ踏んだ!!
刃の部分じゃないからよかったけどっ。

「があっ!!」

え、なぜ悲鳴が。思わず振り返ると、盗賊の腕にナイフが突き刺さっている。
俺が踏んだナイフが梃子の原理で跳ね上がり、そのまま流れナイフになってしまったらしい。
あわわ、危ないから近づかないで〜!俺の命も危ないし、足元危険!!
って言ってるそばから誰かの足踏んづけたー!!

ぐらっと体勢を崩した俺は慌てて地面に手をついて一回転。
よ、よーし。この世界でそれなりに動けるようになってきたからな、よかった。
いまなら宙返りとかバク転もできるぜ!

そんな己の成長を噛み締めていると、どしーんと重い何かが倒れる音。
何が起こったのかと振り返れば、すぐ後ろで大木に潰されている盗賊が。
…………あれ、いま倒れたんだよねこの木。さっきまでそこに立ってたよね?
恐る恐る大木の根元を見やれば、ジンが腰に手を当てて満足げに笑っていた。
お前が倒したのかこの木ー!!自然破壊はいけませんっ。

「アジトの場所も聞けたし、行くか」
「………確認するが、その中に俺は含まれて」
「るに決まってるだろ」

なんで決めちゃうのー!!?

「俺は帰る」
「まーここまで付き合ったんだし、最後まで楽しんでこうぜ」

楽しめるわけないだろこの状況を…!俺は別に戦闘狂じゃないしっ。
いまでもテンパってんのに、敵のアジトとか完全に死ぬ。生きて帰れない。
俺はまだやりたいこといっぱいあるんだ、ここで死ぬわけにはいかないんだよ。
キルアやシャルと遊ぶ約束してるし、いつか元気なクラピカにも会いたいし。ゴンも見たいし。

くるりと回れ右して逃げようとした俺の腕が、がしりと強い力でつかまれる。

「………離してくれないか」
「断る!」
「ちょっ…」

はっきりきっぱり言い切って、ジンはそのままずんずん奥へと進み始める。
待ってー!ほんとに待ってー!!

「これも依頼っつーことでよろしく」
「依頼…?」
「お前、運び屋だろ?俺をクート盗賊団のアジトまで運ぶっていう依頼」
「………依頼にしては危険すぎるだろ」
「ちゃんと割り増しするって」

そういう問題じゃねえんだよおおおおぉぉぉぉ…!!!







そして辿り着いてしまったクート盗賊団のアジト。………アジトっつーか要塞?
一応洞窟を利用したものらしいが、なんか設備がしっかりしてるっていうかなんていうか…。
あからさまに罠とかそういうの沢山ありそう。無理、やっぱ無理だって。

「よし、んじゃ行くかー」
「待て」

なんで正面から行こうとしてんの!?
多分これ多少のセキュリティとかあるよ!侵入者が入ったら即警報鳴る!

「?なんだよ、さっさと行こうぜ」
「二人っていう少ない人数で乗り込むんだ。危険はなるべく減らすべきだろ」
「入っちまったら同じだって」

そりゃそうなんですが、気づかれずに済むならその方がいいじゃんかよぉ。
ジンが用があるのはここの首領なんだろうし、なら雑魚との戦いは避けたい。俺の体力的にも。
…もうここまで来たら逃げないよ、多分無意味だし。ジンといた方が生存率は上がりそうだ。
だったらどう無駄なく侵入するか。オーソドックスだとあれだよな。
盗賊団の一員になりきって潜入するか、荷物に紛れて入り込むか。

扉の内側から物音がして、開く音が聞こえる。
俺はジンの腕を引いて物陰に引っ込んだ。

「先発隊、戻って来ねえな。…てこずってるのか?」
「相手はひとりだろ?なぶって遊んでるんじゃねえのか」

……もしかしてさっきジンが倒した連中が帰ってこないことを不思議に思ってるのだろうか。
外へと出た男たちは俺やジンがやって来た方角を睨んで雑談している。
うん、あんな風に顔を出すということはセンサーの類はいまは作動していないっぽい。

俺はオーラを高め瞬きを止める。
そして時間の流れが緩慢になった。

ジンの手を引いて、瞬きをしないよう気をつけながら男たちの後ろをすり抜ける。
そして開いたままだった扉から内側に入り込み、人影のない通路で足を止めた。
再び瞬きをすると、世界が元の流れを取り戻す。

「え、いまのなんだ?すっげえ他がスローに見えたけど」
「………」

ん、あれ?ジンもスローに感じてたのか?
なんだろ、俺に触れてればあのスロー時間に影響されないってことなのかな。
それとも俺がジンの手を引いて一緒に行動させようとしたからとか?
この念能力もまだ全然よくわかってないからなぁ。

「すげーなお前、いまの念だろ?のオーラに包まれた感じがした」
「………そうか」

ってことは俺、ジンに「周」みたいなことをしたってことだろうか。
俺が時間の流れをゆっくりにしてるときって、「練」で自分の周りにオーラを高める。
同じように俺のオーラに包まれた人間は俺と同じ体感時間になるとか?あーわからん。

とりあえず無事内部には入れた。あとは首領がいる場所へ辿り着くだけ。
警備の連中とか、他にもシステムが動いてるんだろうなぁ。…監視カメラとかあんのか?

「よっし、んじゃ奥に進むぞ!偉そうにしてる奴はそういうとこにいるからな」
「………安直な」
「そういうもんだろ。特攻!」

そっと侵入した意味がないだろうがー!!!!!





ジンさん、イメージと違ったらすいません…!

[2011年 6月 25日]