第52話−ジン視点

相手がどんなかなんて関係ない。
俺の大事なダチを半殺しにしたヤツを許しておけねえ、それだけだ。
色々と情報を集めてみりゃロクな連中じゃないってのは分かったし、躊躇うことはない。
けどいざ向かってみたらやたら数だけは多くて面倒なんだよなぁ。
そう思ってたところに、ピザの配達で顔を出したってヤツ。

あ、こいつ強い。そう直感が告げた。

実際俺が襲撃を受けたとき、一歩下がっただけでナイフ避けてたしな。
その後も手元にあったゴミを無造作に盗賊に投げつけたり、転がってるナイフを蹴り上げたり。
背後からの攻撃も地面に手をついてくるんと避ける。
要領良いヤツだな、と思いながら俺は面倒になって木を殴り倒して盗賊を一網打尽にした。
それをは呆れた顔で見てたが、そういう視線は慣れてるから気にしねえ。

これはなかなか良い拾いもんだと俺はその後も盗賊団のアジトまで同行を頼んだ。
厄介ごとは御免だとばかりに帰ろうとするの腕をつかんで山奥へ。

不思議な念能力を持つらしいは、アジトに侵入してからも冷静だった。
できるだけ騒ぎにならないように潜入するのは手馴れてるし、さすが運び屋。
ま、面倒になって俺が壁ぶち抜きまくったから意味なくなったけどな。
ようやく一番奥まで辿り着き、クート盗賊団の首領であるルッタと対面した。

この男がまた腹立つ悪役そのものでよ。女を人質に取りやがった。
正面からぶつかってこないのかよ面白くねえ、と俺はやる気を削がれる。
んでもってルッタはに来いと命令してきた。なんだってまた。
はわずかに眉を寄せただけで、指示通りルッタの傍に近づいた。
身体だけはでかいルッタと並ぶと大人と子供にも見える。
どうやらサド気質があるらしいルッタは、を見下ろしてにやりと笑った。

どぼどぼと頭からに瓶の中身全てを注ぐ。
それを無言で受けて、はじっと足元に広がるワインの水溜りを見下ろしていた。

「なかなかの色男になったんじゃねえか、あんちゃん」
「………」
「今度はあんちゃんの血にまみれてみるかい?」

ぎらりと犬歯をのぞかせて笑うルッタの顔は凶暴で、一般人なら震え上がる。
けど何の感慨も湧かないぼんやりした焦げ茶色の瞳をは見せた。
じっとルッタの顔を見た後で、は宙吊りにされたままの女へと視線を移す。

「………れ」
「あん?小さくて声が聞こえねえなあ、命乞いか?」
「…いい加減離してやれ。もう真っ青だ」
「余裕だなあ、ひとの心配してる場合か?」
「離せ」

短く呟いたの姿が一瞬掻き消えた。
と同時に、凄まじい轟音が部屋に響き渡り、壁が大きく窪む。

何が起きたか分からず目を丸くしちまったのは俺だけじゃなく、幹部たちもだ。
もうもうと舞い上がる土煙がゆっくりと晴れていくと、壁には吹っ飛んだらしいルッタ。
少し離れた場所には人質になっていた女を抱えた
半瞬よりもなお短い。そのわずかの時間で女を奪い、ルッタを壁に叩きつけたってことか?
すげえな、いくら集中してなかったとはいえ俺も目で追いきれなかった。
殺気だってろくに感じなかったぞ。

幹部たちも呆然としてる。
自分たちのボスがこんな簡単に吹っ飛ぶ姿を見るのは初めてなんだろう。
慌てて駆け寄る連中から目を離してを見る。

相変わらず表情は変わらない。
腕の中でぐったりしている女の背をさすって呼吸を促している。
血がようやく巡ったのか、意識を取り戻した女が突然暴れ出した。
さっきまで殺されかけてたんだ、パニックに陥ってるんだろう。

「…や…っ!!た、たすけてぇ!!殺さないで!!」
「落ち着け」
「ひいいぃ!!!」
「大丈夫だから」
「いやああ、命は、命だけは…んぅ!?」

恐慌状態で必死に爪を立てて暴れる女の腕をが片手で押さえ込む。
そんでもって、ますます暴れそうになる女の口を自分の口で塞いだ。
うおー、他人のキスシーンを見ちまったぞ俺。

わりと長めなキスの後で、そっとが重ねた唇を離す。
まあ当然女の方は呆然としてて、状況を全く理解してないっぽかった。
そんな彼女の頭をぽんと撫でるとは壊れ物を扱うかのように身体をゆっくり離す。
ゆらりと立ち上がったルッタと、その前に庇うように並ぶ幹部たちに視線を向けて。
ばさりとコートを脱ぐと、それを女に預ける。どうやらの逆鱗にルッタたちは触れたらしい。

ワインで濡れた髪をかきあげ、コートを戸惑った表情で抱える女の肩を弱く押す。
離れてろ、という無言の合図に気づいて女はまろびながら部屋の隅へと走った。

もう女へ視線は向けない。
の視線の先にいるのは、盗賊団の連中だけ。
焦げ茶色の瞳がいままでにないほど濁っていくのがわかった。

………本気ってことか。やべえ、ゾクゾクしてきたぜ。

こりゃ楽しい戦いになりそうじゃねえか、と俺もオーラを再び強める。
それに気づいてがちらりと俺に視線を向けてきた。

!ルッタは俺の相手だ。あとの二人頼むぜ!」
「………我が儘だな」
「お前は一発殴ったんだからいいじゃねえか」
「なめんじゃねえぞてめえらああ!!」
「死ねやああぁ!!」

この場にいる全員のオーラが瞬時に膨れ上がる。
俺とも、同時に強く床を蹴った。




あれっ、主人公の様子が…!?

[2011年 6月 26日]