ひとまず戦いは終わり。
[2011年 7月 4日]
咄嗟に広げた上着はぼろぼろになったけど、なんとか俺たちを守ってはくれた。
必死でもう頭真っ白。がらん、とすぐ傍に何かが落ちてきて。
視線を向ければ拷問器具のコレクションが。……ま、間近で見たくないこんなもの。
あ、でも鞭あるじゃん。これならナイフぐらいは叩き落とせるんじゃね?
俺の腕の中で可哀想なぐらいに女のひとが震えてる。そうだよな、怖いよな。
俺だって怖い…!!
「関係ない人間巻き込んでんじゃねえよ…」
ジンもだけど、ここの盗賊団の連中!俺、無関係だからっ、一般人なの!
堅気を巻き込んでんじゃありません!って別に極道じゃないから関係ないのか…。
とりあえず鞭をとってみて、試しに振ってみる。
って、あれー!?なんか思った方向に鞭がいかないんですけどー!
え、どうしたらいいのこれっ。って、他の器具が吹っ飛んでく!
うわ、こっちに飛んでくるもんもあんじゃん、危ない危ないっ。
夢中で鞭を使って弾き返す。ちょ、難しいな鞭!
「ぎゃあああああぁぁぁぁぁああ!!!」
いきなり聞こえてきた悲鳴に、俺はぎょっとする。
な、なに、どうしたの。
「ふー、危ねえ危ねえ。いまのはヤバかったぜ」
「てめぇ…自分の仲間を盾にするってのはどういうことだ」
「仲間ぁ?こいつらは俺の道具だ。どう使おうが俺の勝手だろうが」
かめはめは大王(すでに違うひとになってる)が首領に頭をつかまれぶら下がっていた。
どうやらジンの攻撃を避けきれないと判断して、部下を盾にしたらしい。
………なんて悪役らしい悪役なんだ。
「……ここまで腹立ったのは久しぶりだぜ。おい!」
「…何だ?」
「手加減ゼロだ。百パーセントでいく。気をつけろよ」
「おいジン」
「そこのねーちゃんも、守ってやれ」
ちょ、いきなり本気って…!うわわ、すごいオーラが渦巻いてる…!
俺は慌てて女のひとを抱えて、瞬きを止めて部屋の外に向かった。
だって絶対これ部屋の中大破するだろ…!この中にいて生きてられる自信ないよ俺!
全てがスローの世界。だんだんとジンのオーラ量が増幅していくのを肌で感じる。
後ろは振り返らない。だってジンなら大丈夫だろうから。
俺はこの部屋どころか、アジトの出口を目指して駆け抜けた。
さすがにずっと瞬きを止めてるのは無理で、途中何度もリアルタイムになったんだけど。
その度にどしんどしん建物が揺れるのがほんと怖くてさー。
俺たちがようやくアジトから出たときなんて、なんか煙が立ち上ってたんですけど…?
生き残ってた盗賊連中は、それぞれ持てるだけの財宝持って逃亡。
気が付けば人の気配のないアジトの前に、俺と女のひとしか立っていない状況で。
ここでジンを待ってればいいんだろうか。俺としては早く帰りたい。
「あ、あの…」
震える声が聞こえてきて振り返ると、女のひとがぎゅっと両手を握って俺を見上げてた。
よく見ると裸足のまま。服も薄着だし、何か羽織れるものあればよかったんだけど。
俺の上着ダメになっちゃったしなぁ…我慢してもらうしか。
「助けてくださって、ありがとうございました…!」
「俺は何もしてないよ。無事でよかった」
「そんな、そんなことありません、私生きてここを出れるなんて…思ってなかっ…」
えええ、泣き出しちゃったよー!!
これ俺が泣かしたの?俺のせい?どうしたらいいんだよー!
きっと怖い思いをしてたんだろう。安心させてあげたいけど、何をすればいいのやら。
ものすごく悩んだ後で、結局俺は彼女の頭を撫でてあげるぐらいしかできなかった。
友人ならこういうとき、すんなり抱きしめて安心させるとかするんだろうけどな。俺は無理!
「が女泣かせてるぜー」
「いや、これは…。って、ジン。ルッタは?」
「遠慮なくボコった。いやー、まいったまいった、天井が落ちてきてよー」
そりゃあんだけ暴れれればな、崩壊するだろうアジトも。
埃やら土やらで汚いことになってるし、怪我もかなりあるけど。でも元気そうなジン。
なんかもう、それだけですげー安心しちゃってさ。
「そうだねーちゃん、名前は?」
「…あ、アンといいます」
「アンな。俺はジン、こいつはっていって…って、おい?」
「さん…?」
ふたりの声が遠くに聞こえて、それを最後に俺の意識は途切れた。
ひとまず戦いは終わり。
[2011年 7月 4日]