オリキャラ満載でほんとすみません。
[2011年 7月 4日]
目が覚めたとき、飛び込んできたのは薄汚れた天井。
横に視線をずらせば、ぽつりぽつりと滴を落とす点滴が見える。
その管はどうやら俺の腕へとつながっているようで、ぼんやりと瞬いた。
…俺、どうなったんだっけ?
えーと、ピザの宅配を頼まれて…ジンと遭遇して。クート盗賊団に乗り込んで…?
そうだ、幹部の二人と戦う羽目になったんだ。んで毒受けたんだよ。
五分で死ぬとか言われてたけど、なんで生きてんだ俺?
身体を動かそうにもだるくて、腕を持ち上げることもできない。頭をわずかに動かすのが限界だ。
でもこのだるさは、生きている証拠だろう。俺、生きてる!
「やれやれ、その状態でもがくなんざ自殺行為だぜ色男」
カーテンを開けて顔を出したのは、無精ヒゲを顎に散りばめた赤髪の男。
癖毛の長い髪を後ろで適当に束ね、度が合ってるか微妙そうなビン底メガネをかけている。
ぱっと見た感じはおじさんだけど、ヒゲ剃ってちゃんとしたら若いんじゃなかろうか。
松葉杖をつきながら俺の枕元に来たそのひとは、白衣を肩に羽織っているだけ。
「俺だってまだ重症人だってのに、あいつは容赦ねえよなぁ。おーい、ジン」
「なんだー?」
「色男が起きたぞ」
「マジか!おい、生きてるか!」
「医者なめんなよ。死んでたら即行で霊安室行きだ」
そんなとこ迅速じゃなくてもいいよ!?
ひょっこり顔を出したジンも治療を受けたらしく、顔のあちこちに大きな絆創膏が貼られている。
腕も包帯だらけで、おそらく体中そんな状態なんだろう。
「あ、こいつヤブ医者のジャンキーな」
「名前を変えるな。シャンキーだシャンキー。シャンと愛らしく呼んでもいいぞ」
「俺があのアジトに乗り込むきっかけになったダチ」
「悪いな色男。こいつの勝手な復讐に巻き込んじまったみたいでよ」
「さすがに俺ひとりじゃ無理っぽくてな」
「んなの当たり前だばーか」
仲の良さそうな二人の会話をぼーっと聞き流す。
えーと、んで俺の状態はどうなんでしょう。毒、大丈夫なんですか。
それが顔に出ていたのか、シャンキーが小さく笑った。
「お前さん、どんな身体してんだ?あの毒受けて数時間も生きてるたぁ、化け物だぜ」
「…解毒は」
「さっき中和薬ができたとこで、その点滴がそれだ。ま、ここまで生きてたんだから大丈夫だろ」
めっちゃアバウトー!!ちょ、この点滴が行き渡る前に死んだらどうしてくれんの!?
「そんなにヤバい毒なのか?すげえな」
「妙なこともあるもんだよなぁ。傷口に近い場所で毒が止まってたっぽいぜ」
「止まってた?」
「そう、言葉通り。それ以上広がるのを防ぐだけじゃなくて、毒の効果そのものも停止」
「はあ?訳わかんねえ」
「ジンは賢いのにバカだよな、やーいバーカバーカ」
「んだとー!!」
「あ、タンマ、俺まだ怪我人だから、ジンみてえに超人じゃねえから」
賑やかな二人の声を聴いてたら、緊張感も薄れてきて。
俺は脱力してそのまま目を閉じた。…なんかもう、いいや。
医者だっていうシャンキーの言葉を信じよう。それしかない。
なんとかあのアジトを抜け出せたんだ、きっと生き延びられるはず。
まだまだ、俺は死にたくない。
中和剤によって毒が完全に消えるまで最低一週間はかかるそうで。
俺はその間、シャンキーの病院で入院させてもらうことになった。入院代はジン持ちで。
こじんまりとした病院だけど、院長であるシャンキーの腕はかなりのものだ。
自分が怪我をしているのに、訪れる患者たちの診察を続けている。しかも無料で。
貧しい者がこの周辺には多くいて、まともな医療は受けられないという。
そういえばレオリオもそれで友人を亡くした過去があったよなぁ…と俺は切なくなった。
救えるはずの命が失われていく。そんな状況がこの世界にもごろごろあるんだ。
俺はただの偽善でやってんだけどねえ、と笑うシャンキーは良いひとだと思う。
「いやいや、良いひとだったらジンからあんな莫大な医療費もらわないって」
そうひらひらと手を振ってたけど、その法外な治療費のおかげで無料で診察できるんだろ?
金あるヤツからは遠慮なくお代をいただいて、それを困っているひとたちのために使う。
こんなに良心的なことはないと思うんだけどな。
「そうそう、色男が目覚めるのをずっと待ってたかわいい子がいるぜ」
「え?」
にやにやと笑ったシャンキーはメガネをくいっと上げて、部屋の外に声をかける。
するとそっと扉が開いて、恐る恐る女のひとが顔を出した。
見覚えがあるような…?と首を傾げると、彼女はぺこりと頭を下げて。
おいでおいでと手招くシャンキーに従って近くまでやって来た。
「あ、あの、さん」
「…?」
「改めて、助けてくださってありがとうございました!」
深々と頭を下げられて慌てた俺は、ようやく思い出した。
このひと、ルッタに人質にされてたひとか…!えっと名前は確か。
「アン」
「…は、はい」
「怪我は?」
「私はどこも。さんが庇ってくださったおかげで…」
「…そっか、よかった」
怖い思いしたもんな、本当生きててよかった。
死線をともに潜り抜けた戦友、みたいなものを感じて俺は笑う。
するとアンは軽く目を瞠り、それからぎこちなく笑顔を見せてくれた。
そのときになってようやく、可愛いひとなんだとわかる。
ずっと恐怖で怯えた顔しか見てなかったから。うん、やっぱり女の子は笑顔だよな。
「あの、退院されるまで身の回りのお世話をさせてください!」
「え。そこまでしてもらうのは」
「私がそうしたいんです」
「頼んじゃえばー。アン嬢、ここで働くことになったし」
「…そうなのか?」
「はい。故郷はもう…ありませんから。行き場のない私に居場所まで与えてくださって、みなさんには感謝をいくらしても足りません」
「……そっか。まだ大変なこともあるだろうけど、頑張って」
「…はい!」
今度はちゃんと心からの笑顔。
きっと身体と心に負った傷は深くて、すぐには消えないだろうけれど。
でも彼女なら乗り越えることができそうだと、俺は瞳を細めた。
あれ俺邪魔〜?とにやにやするシャンキーの言葉の意味は全くわからなかったけど。
え何それ天然なの、始末に負えないんじゃないの色男。とも言われたけど。
とりあえず、生きていることを噛みしめて、俺は晴れ晴れとベッドに戻った。
オリキャラ満載でほんとすみません。
[2011年 7月 4日]