色々判明中。
[2011年 7月 12日]
「…っ…」
「ほら脇が甘いぜえ!!」
「!!」
「あっと、外れたか。やっぱ身のこなしは早いなお前」
ジンの唇が楽しげに吊り上る。
俺は乱れそうになる呼吸を整えて、オーラを拡散させた。
この病院に世話になって早一週間。朝、昼、晩とジンと組手を続けている。
念について詳しいであろうジンは、説明とか苦手なんだよとぼりぼり頭をかいて渋面を浮かべた。
だから身体で覚えるしかねえだろ、と言われてまあ確かにと納得してしまう。
基礎はやはり大事だが、結局はそれも感覚で習得していくしかない。
念の能力を究めようと思ったら、最終的には個人個人で修行していくしかないわけだし。
「にしても、お前ってオーラの攻防めちゃくちゃ早いよな」
「…?」
「どんな危ない橋渡ってきたんだよ」
「…思い出したくないからやめてくれ」
なんでわざわざ嫌な記憶掘り返そうとするんだよ!
つか、ジンと関わった今回が一番危ない橋だったんだぞ俺的にっ。
………ゾルディック家以上の危険があるとは夢にも思わなかったぜ。
毒の食卓も怖かったけど、盗賊団のアジトに突撃もマジで怖い。実際死にかけたし。
ただ普通に殴り合っているように見えるだろうけど、ジンとは念での試合中。
堅を使っての本格的なもの。でもどうも俺はオーラの攻防移動は向いているらしい。
なんていうか、怖い!と思って身構えた場所に自然とオーラが集まる。
いやでもさ、人間そういうもんじゃないか?殴られる!と思ったら庇うだろ、普通。
だからジンに指摘されてもぴんとこなかったんだけど、そうしたらどつかれた。怪我人なのに、俺。
「しっかし、その念能力卑怯だよなー。こっちは動けなくなるとか」
「ようやく使い方がわかってきた」
「お、条件も定まってきたってことか?」
「あぁ。………あとは、もうひとつ」
「?他に何かあったか」
「毒の効果が止まってたアレでしょー」
「あ、ジャンキー」
「だからシャンキーってお洒落な名前なの俺。勝手に変えないでくれる」
いつの間にやら見学していたらしいシャンキーがゆっくりと歩いてくる。
盗賊団にやられた傷もだいぶ回復してきたらしく、先日松葉杖が外れたそうだ。
けれど相変わらず白衣は肩にかけたままの適当な姿である。
「毒って…ああ、本当ならとっくに死んでたってあれか?」
「そーそー、あれは人間の力でどうこうできるレベルじゃないし。あの有名なゾルディック家とかなら?なんとかなっちゃうかもしれないけどさ」
「じゃあ毒の効果止めてたのって、の念能力なのか?すげー」
「…いや、そうと決まったわけじゃ」
けどその可能性は高い、と思ってる。
入院してる間、練の訓練の成果を見るために何度か発をしたんだけど。
そういえば俺の水見式って、枯れてた葉っぱが綺麗に戻ってたよなーと思い出した。
そして今回判明した、俺の「時間」というものに関連した能力。
ひょっとして、ひょっとしてだぞ?
俺、時間を巻き戻せたりするんじゃないかなって。
多分そんな大きな巻き戻しはできないと思うんだけど。
だから毒を消すまではいかなくても、効果が広がらずにいたんじゃないかって。
そんな風に考えてたりする。毒広がらないで止まってくれ!ってあんとき思ったし。
…待てよ。そうなると早送りとかも可能なんだろうか。
俺はおもむろに花壇へと向かう。(アンが最近手入れしてる花壇だ)
「………?」
ジンの不思議そうな声を背中で聞きながら、まだ蕾の花に触れた。
そんで花に向かって発をしてみる。と。
「!!花が開いた」
「おやおやぁー?さすが色男、花の扱いはお手の物ってことか」
できるんだああぁぁぁぁぁぁ!!?(やった本人がびっくり)
「わ…咲いてる」
「お、アン嬢いいところに。この花ね、いまこの色男が咲かせたところ」
「え?」
「悪い、アン。勝手なことして」
花の手入れ一生懸命してくれてたのに、無理やり時間を早めてしまった。
きっと花開くのを楽しみに世話をしていたんだろうに。ごめん、ほんっとごめん!
申し訳なくて目を合わせられずにいると、アンはふるふると首を振った。
「いいえ。…ありがとう、とっても綺麗」
ほんとになんていい子なんだろう…!!
「あ、そうそう。俺、明日ここ出るから」
夕飯を食べながらジンが突然さらりと告げた。
シャンキーは特に驚いた様子もなく、ようやく静かにならぁとメガネを押し上げる。
給仕をしてくれてたアンは目を瞬いており、俺もさすがにスプーンを止めた。
らしいっちゃらしいけど、突然だよなこいつ…。
ああ、年上相手なのになんの敬意も払わなくなってきたぞ俺。ジンも気にしてないだろうけど。
じっと見つめる俺へと顔を上げたジンは、お前も治ったろ?と首を傾げた。
うん、毒も完全に中和されたし身体の違和感もない。明日もう一度検査してOKなら退院だ。
「もしかしてさんも、ここを出られるんですか?」
「……随分世話になったし」
「健康な人間はこんなとこに用はないからねぇ。また何かあったらおいで、払うもん払ってくれさえすりゃ治療してやっから」
「はは、次は自腹ってことだな」
「…シャンキーの腕は確かだし、何かあったら頼るよ」
「…っ…聞いた!?聞いたかジン!ようやく俺の名前をちゃんと呼んでくれるヤツが!」
「おーおー、聞いたぜジャンク」
「もうそれ完全に別人だろうがこのヤロー。ひとの名前も憶えられんのか、ばーかばーか」
「んだとぉ!?」
「食事は静かにとれ二人とも」
俺が睨むと、二人はすんなり上げていた腰を下ろした。うむ、よし。
じーちゃんがけっこう作法にうるさいひとだったから、食事中は厳しいぞ俺。
といっても、賑やかなぶんには全然かまわないけどな。楽しくとりたいじゃん、食事。
ひとりで食べるときは、新聞広げながら行儀悪く食べたりもするけどな。
「寂しくなります、本当に」
アンが少しだけ曇った笑顔を見せる。
俺もジンもいなくなったら、確かに急に静かになりそうだよな。
けどきっと、ここで働いていくうちに沢山の交友の輪が広がっていくんだろう。
「大丈夫。アンならすぐ、友達も恋人もできるよ」
「恋人は、どうでしょう?」
「俺と違って、魅力的だし」
「………それ、ずるいです」
え、何が?
「色男は最後まで罪な男だーねぇ」
え、だから何が?
「よっしゃ、じゃあ今日は送別会だな!飲むぞー!!」
「…ジン、俺は酒は…」
「え、飲めないの色男。ちょっと意外」
これ以上酔っぱらって悲惨なことになりたくはない。
けどジンはこちらにはかまわず、がんがん飲みはじめるし。
結局、俺とアンで酔いつぶれるジンとシャンキーを介抱する羽目になった。
色々判明中。
[2011年 7月 12日]