第61話

「…そりゃ、災難だったな」

酒の入ったグラスを傾けながら、カイトは喉の奥で笑った。

ジンの話を聞かせてくれと言われ、俺はまず出会いについてぽつぽつと話し始めた。
するとカイトは俺が届けることになったピザを食べてみたい、と言い出して。
なら食べに行こうということで、現在そのピザをおいしくいただいているところである。
カイトは昼間から酒だけど、俺はコーラ。いいんだよ、炭酸のがうまい。

「あのひとは周りを巻き込む名人だからな」
「…いい迷惑だ」
「それだけ認められてるってことだろ。俺もさっさと追いつかないと」
「………カイトもハンターなんだろ?」
「あぁ。ジンを見つけるまでは、一人前と認めてもらえないけどな」
「…あれを追いかけるのは大変そうだ」
「だからこそ面白い」

カイトはもうゴンとは会ったんだろうか。
けど俺がゴンのこと知ってるのは不自然だし、くじら島のこともなー。聞いていいものかどうか。
うーん、と考え込んでいると、カイトがグラスを机にとんと置いた。

はハンターではないのか」
「…あぁ」
「受けてみる気は?」

俺に死ねと!?

「………興味がないわけじゃない、けど」
「あんたなら問題ないだろ」

えー…。そりゃ念っていうズルがあるけどさ。
けど一年に一人とかしか合格者が出ないこともある試験だろ?
無理無理、毎年どんな試験が出るかわからないのなんて対処のしようがない。
死んでも文句も言えないような試験、俺は絶対にごめんだ。

…でも、あのライセンスがあれば身分証明書には十分なわけで。
いろんな区域にも無料で立ち入りできるようになるし、欲しいといえば欲しい。

「…気が向いたら、受ける」
「はは、らしいな」

俺の勇気が少しでも出たら、受けるかもしんない。
やっぱほら、定住地は欲しいし。まっとうな仕事つきたいし!(ここ重要)

それにしてもカイトって話しやすいな。
俺初対面だと緊張してろくに言葉出てこないんだけど、割と普通に喋れる。
やっぱあれか、動物と接することに慣れてるひとだから…って、これじゃ俺動物扱い。
なんか頼れる感じするんだよな、安心するっていうか。
ジンに散々振り回された後だから、俺はものすごーくほっとした。

それからは、クート盗賊団のアジトにも足を運んで。
壊滅状態のそこを見て、相当暴れたんだなぁ…とカイトは感心していた。
うん、すごかったよジンの本気は。俺も巻き込まれて死ぬかと思った。

瓦礫の山をひょいひょいと乗り越えていきながら、俺はよく生きてたもんだと溜め息が出る。
シャンキーがいてくれなかったら死んでたよな、確実に。
いくら俺の念能力で毒が止まっていたとはいえ、止まってただけなんだし。中和はできない。
ジンの知り合いに腕の良い医者がいてよかった、と焼け爛れたような痕の残る手の甲を見る。
さすがにこれは消えないらしい。五体満足で帰ってこれたのだから、十分だけど。

「あんたももちろん、ジンの連絡先は知らないんだよな?」
「ああ。……俺も?」
「ジンの知り合いはみんなそう言うんだよ。いまどこで何してるかはさっぱりだって」
「…ジンらしい」
「俺もそう思う。やれやれ、次はどこを探したもんかな」
「ご愁傷様」
「ま、気長にやるさ」

どかりと瓦礫のひとつに腰を下ろしたカイトは、次の行動について考えているようだった。
肩すかしをくらっても落ち込むわけでもなく、じゃあ次はどうするかと考えられる。
優秀な人間なんだなやっぱり。俺だったら一日は打ちひしがれそうだ。

はこれから何か予定はあるのか」
「俺はー…」

って、携帯が鳴ってる。
なんだなんだ、と取り出すとメールじゃなくて電話だった。
悪い、と目で合図して通話ボタンを押す。
もしもし、と俺が声を発するのとほぼ同時で響く明るい声。

、近いうちにどっかで会わない?』
「…シャル、いきなり用件から入られると訳がわからない」
『ごめんごめん。あ、そういえばクート盗賊団をつぶしたんだって?おめでとー』
「いや、やりたくてやったわけじゃ…」
『そのときの話も聞きたいし。あ、前に一緒に行った蕎麦屋とかどう?』

ど、どんどん勝手に話が進められていく。

「………いつも以上に強引だな」
『そう?じゃあ三日後に蕎麦屋で。よろしくー』

って返事も待たずに切るなよ!
あーもー、俺の周りってマイペースすぎるヤツらしかいないのか。

「忙しそうだな」
「…不本意ながら」
「じゃあこれ渡しとく」
「?」
「俺の連絡先。ジンのことで何かわかったらよろしく」
「…わかった」

おお…!カイトの連絡先とか超レアじゃね!?
後で俺もメールを送ることを約束して、そのままカイトとは別れた。
もうちょっとゆっくり話してたかったなー。久々の癒し要員だったのに…。

名残惜しくもありながら、俺は携帯にカイトの連絡先を登録した。
早速よろしくとメールを送れば、「おう」と短い返信。

なんだかカイトらしいな、と笑みがこぼれた。

カイトのアドレスゲットだぜ!





カイトさん、登場短くてすみません。

[2011年 7月 19日]