カイトさん、登場短くてすみません。
[2011年 7月 19日]
「…そりゃ、災難だったな」
酒の入ったグラスを傾けながら、カイトは喉の奥で笑った。
ジンの話を聞かせてくれと言われ、俺はまず出会いについてぽつぽつと話し始めた。
するとカイトは俺が届けることになったピザを食べてみたい、と言い出して。
なら食べに行こうということで、現在そのピザをおいしくいただいているところである。
カイトは昼間から酒だけど、俺はコーラ。いいんだよ、炭酸のがうまい。
「あのひとは周りを巻き込む名人だからな」
「…いい迷惑だ」
「それだけ認められてるってことだろ。俺もさっさと追いつかないと」
「………カイトもハンターなんだろ?」
「あぁ。ジンを見つけるまでは、一人前と認めてもらえないけどな」
「…あれを追いかけるのは大変そうだ」
「だからこそ面白い」
カイトはもうゴンとは会ったんだろうか。
けど俺がゴンのこと知ってるのは不自然だし、くじら島のこともなー。聞いていいものかどうか。
うーん、と考え込んでいると、カイトがグラスを机にとんと置いた。
「はハンターではないのか」
「…あぁ」
「受けてみる気は?」
俺に死ねと!?
「………興味がないわけじゃない、けど」
「あんたなら問題ないだろ」
えー…。そりゃ念っていうズルがあるけどさ。
けど一年に一人とかしか合格者が出ないこともある試験だろ?
無理無理、毎年どんな試験が出るかわからないのなんて対処のしようがない。
死んでも文句も言えないような試験、俺は絶対にごめんだ。
…でも、あのライセンスがあれば身分証明書には十分なわけで。
いろんな区域にも無料で立ち入りできるようになるし、欲しいといえば欲しい。
「…気が向いたら、受ける」
「はは、らしいな」
俺の勇気が少しでも出たら、受けるかもしんない。
やっぱほら、定住地は欲しいし。まっとうな仕事つきたいし!(ここ重要)
それにしてもカイトって話しやすいな。
俺初対面だと緊張してろくに言葉出てこないんだけど、割と普通に喋れる。
やっぱあれか、動物と接することに慣れてるひとだから…って、これじゃ俺動物扱い。
なんか頼れる感じするんだよな、安心するっていうか。
ジンに散々振り回された後だから、俺はものすごーくほっとした。
それからは、クート盗賊団のアジトにも足を運んで。
壊滅状態のそこを見て、相当暴れたんだなぁ…とカイトは感心していた。
うん、すごかったよジンの本気は。俺も巻き込まれて死ぬかと思った。
瓦礫の山をひょいひょいと乗り越えていきながら、俺はよく生きてたもんだと溜め息が出る。
シャンキーがいてくれなかったら死んでたよな、確実に。
いくら俺の念能力で毒が止まっていたとはいえ、止まってただけなんだし。中和はできない。
ジンの知り合いに腕の良い医者がいてよかった、と焼け爛れたような痕の残る手の甲を見る。
さすがにこれは消えないらしい。五体満足で帰ってこれたのだから、十分だけど。
「あんたももちろん、ジンの連絡先は知らないんだよな?」
「ああ。……俺も?」
「ジンの知り合いはみんなそう言うんだよ。いまどこで何してるかはさっぱりだって」
「…ジンらしい」
「俺もそう思う。やれやれ、次はどこを探したもんかな」
「ご愁傷様」
「ま、気長にやるさ」
どかりと瓦礫のひとつに腰を下ろしたカイトは、次の行動について考えているようだった。
肩すかしをくらっても落ち込むわけでもなく、じゃあ次はどうするかと考えられる。
優秀な人間なんだなやっぱり。俺だったら一日は打ちひしがれそうだ。
「はこれから何か予定はあるのか」
「俺はー…」
って、携帯が鳴ってる。
なんだなんだ、と取り出すとメールじゃなくて電話だった。
悪い、と目で合図して通話ボタンを押す。
もしもし、と俺が声を発するのとほぼ同時で響く明るい声。
『、近いうちにどっかで会わない?』
「…シャル、いきなり用件から入られると訳がわからない」
『ごめんごめん。あ、そういえばクート盗賊団をつぶしたんだって?おめでとー』
「いや、やりたくてやったわけじゃ…」
『そのときの話も聞きたいし。あ、前に一緒に行った蕎麦屋とかどう?』
ど、どんどん勝手に話が進められていく。
「………いつも以上に強引だな」
『そう?じゃあ三日後に蕎麦屋で。よろしくー』
って返事も待たずに切るなよ!
あーもー、俺の周りってマイペースすぎるヤツらしかいないのか。
「忙しそうだな」
「…不本意ながら」
「じゃあこれ渡しとく」
「?」
「俺の連絡先。ジンのことで何かわかったらよろしく」
「…わかった」
おお…!カイトの連絡先とか超レアじゃね!?
後で俺もメールを送ることを約束して、そのままカイトとは別れた。
もうちょっとゆっくり話してたかったなー。久々の癒し要員だったのに…。
名残惜しくもありながら、俺は携帯にカイトの連絡先を登録した。
早速よろしくとメールを送れば、「おう」と短い返信。
なんだかカイトらしいな、と笑みがこぼれた。
カイトのアドレスゲットだぜ!
カイトさん、登場短くてすみません。
[2011年 7月 19日]