初めてじゃない、初めてじゃないんだよ主人公!
[2011年 7月 19日]
というわけで、やって参りましたシャルとの待ち合わせ場所。
以前紹介してもらった蕎麦屋に到着した俺は、シャルが来るのを待つ間に昼食。
ここの蕎麦ほんとうまい。麺だけでも甘くておいしいんだよなー、本格的。
日本食を食べられる機会はあんまないから、俺はのんびりと満喫する。
「お待たせ」
暖簾をくぐって姿を見せた金髪に、俺は顔を上げた。
ひらひらと手を振ったシャルナークは店員さんに知り合いだから、と断って向かいに座る。
出されたお茶に口をつけながら、俺と同じものを注文して一息ついた。
額に貼りついた前髪を払う。わずかに汗ばんでいる姿に、急いできたらしいとわかった。
なんだ?どっか寄ってから来たんだろうか。
「」
「…ん?」
「単刀直入に言うけど」
すっと真面目な表情を見せるシャルナークに俺はずるずると蕎麦をすする。
まったくもって失礼な態度なわけだが、シャルがそれを気にする素振りはなかった。
机に肘をついて、童顔なその顔をずいっと寄せる。な、なんだなんだ。
「付き合ってほしいんだ」
「ぶっ!!!」
…蕎麦が喉に詰まったんですけどぉ…!!?
げっほごっほと俺がむせている間に、シャルの注文した蕎麦が運ばれてきた。
涙目になってる俺に気配りのできる店員さんが、新しいお茶を出してきてくれる。
それをなんとか喉に流し込み、どんどんと胸を叩いて机に突っ伏した。
よ、よかった、死ぬかと思ったよ俺。
「………シャル、付き合うって」
「俺たちに?まあ細かい話は後でするけど」
「……俺たち、って」
幻影旅団に付き合えってことですか!?
ちょ、しばらくは盗賊とは関わり合いになりたくないんですがっ!!
つか紛らわしい言い方しないでくれよほんと!おいしい蕎麦の味を楽しみ損なった!
まさか仕事を手伝えとか言うんじゃないだろーな。
俺お前たちのこと止めはしないけど、肯定してるわけでもないんだぞ。
盗むためにひとの命を奪うなんて、そんなこと許されることではない。
ただ彼らには彼らのルールがあり生き方があり。俺はそれに口を挟めない。
何も言わないでいるからこそ、こうしてシャルとも友人でいられるんだろうと思うし。
「…けど、珍しいな」
「?何が」
「シャルがそんな風に真剣な顔すんの」
店に入ってきたときも、俺に付き合えと言ったときも。
瞳には真剣な色が浮かんでいて、俺は気圧されそうになった。
と同時に、いやーな予感も覚えている。
ぱちくりと目を瞬いたシャルは、真剣な顔してたんだ俺、と無自覚な様子。
「…うん、まあそれなりにショックだったのかも」
「……ショック…?」
「それも後で話すよ。いただきまーす」
俺が前にやってた手を合わせて食べる仕草。それをシャルも真似して蕎麦をすする。
どうやらここでそれ以上に話すつもりはないらしい。
仕方なく俺は追及を諦めて、店員さんを呼んだ。
すぐに近づいてきてくれた店員さんに、あんみつを頼む。食後のデザートだ。
するとシャルもすかさず、あ俺も、とふくらんだ頬で顔を上げたのであった。
「ふー、食べた食べた」
「これからどこ行くんだ?」
「前に来たことあるよね、俺たちのホーム」
………げ、やっぱ幻影旅団のアジト行くわけ?
「詳しい話はその道すがらするから」
「………わかった」
どうか恐ろしい内容じゃありませんよーに!と祈って歩き出す。
街中から出れば途端にシャルは移動の速度を上げた。ちょ、待て待て!
慌てて俺もスピードを上げ、少し後ろにつく。
するとシャルは前を見つめたまま、淡々と話し始めた。
「俺たちの8番がやられた」
「………え」
「ま、力不足だったんだからしょうがない。そのことはケリがついてる」
旅団の団員が殺されたってことか?
………そういえば、シルバか誰かが旅団の団員を暗殺したことがあったような。
えーと、その後でシズクが新しく仲間に入るんだったはず。
すごいよな、団員を圧倒できるシルバって。どんだけ強いんだ…ゾルディック怖い。
そんで俺とどういう関係が。
あ、あれか!ゾルディックと縁があることがバレて、復讐に付き合えとか!?
無理無理、俺それ死ぬから。ゾルディックには逆らえないから!…旅団にも逆らえんがっ。
「欠けた足は補充しないといけない。ってことで」
「?」
「俺はを新しい団員に推薦しようと思ってる」
「………は」
「そういうわけで、よろしく」
よろしくって何がですかシャルさあああん!!!!
俺が心の中で大絶叫し、声も出せずにいると。
すでに到着していたアジトの奥へとシャルは入っていき、連れてきたよーと中に声をかけている。
に、逃げたい。逃げていい?ねえ逃げていいこれ!?
逃げないと俺死んじゃうー!!ショック死で多分死ぬうううぅぅぅ!!
「何してんの。さっさと入ってよ」
ひょっこりと顔だけ出したシャルに、俺は涙が溢れそうだった。
アジトへの一歩が、死へのカウントダウンにしか思えない。
ざりっと重い一歩を踏みしめ、奥へと入っていく。
相変わらずの瓦礫が転がるそこには、マチやパクら知ってる連中が待っていた。
そして一番奥。山のように積まれた瓦礫の前に陣取り腰を下ろしている青年。
黒いコートに身を包んだ、額に十字を刻んだ男がゆっくりと顔を上げる。
「連れてきたよ、クロロ」
「…ああ。また会ったな、シャルのオトモダチ」
低い声は甘く、笑みを含んでいて。
優しいテノールが、俺には不気味なレクイエムにしか聞こえない。
幻影旅団の団長。
クロロ=ルシルフルとの、初めての対面に声も出なかった。
初めてじゃない、初めてじゃないんだよ主人公!
[2011年 7月 19日]