第63話

また会ったな、というクロロの言葉はどういう意味だろうか。
確かに俺は紙面でクロロとは数えきれないほど対面させていただいていますが?
こうやってリアルに会うのは初めてのはずだ。前にアジトに来たときだってクロロ不在だったし。
あれ、それともどっかで会ってた?いやいや、こんな物騒な人間気づかないはずが。

「あのときはサンドイッチをありがとう」
「………………」

感謝する気ある?って聞きたくなるぐらいの棒読みですねクロロさん。
まあそれはいいとして、サンドイッチー?サンドイッチでお礼言われるようなことって…。

………………。
………………………………?
………………!………………………!!!!

ちょ、まさかあの雨宿りを一緒にしたイケメン兄さん…!?
ああそういえばあのイケメン、おでこバンダナで隠してたもんなっ。
あんまりに爽やかオーラが眩しすぎて全く気付いてなかったよ俺…!!

「おいシャルナーク、本当にこいつ強いのか?」
「さあ?念を使っての戦闘はろくに見たことないし。体術だけならかなりいけると思うよ」
「…いや待てシャル。俺は」
「フィンクスも一度手合せしたいって言ってたしねー」

それを了承した憶えはないがな!!

「はーん?あいつがねぇ」

興味があるんだかないんだか微妙な表情でこっちを見るのは、ノブナガだろう。
いかにも日本人っぽい出で立ちで、刀を下げている。
着物の合わせ部分から片腕を出し顎をこすりながら、じろじろと見られて緊張した。
やめてー、こっち見ないでー、俺そんな大した人間じゃないからああぁぁぁ…。

じっと見られると目を逸らしたくなるのが本能というもの。
そんでもって逸らした方向には、またも俺を楽しげに見ているクロロさんが。

「…買い被ってるみたいだが、俺は蜘蛛には入れない」
「ほう?なぜそう思う。シャルが推薦してくるというのは珍しいが」
「あんた達の足を引っ張るだけだ。わかってるだろ」

俺みたいな一般人に毛が生えた程度の実力じゃ、盗賊活動なんて無理。
運び屋だってひぃひぃ言いながらやってるってのに、そんな難易度の高い仕事。

「それに」
「ん?」
「俺は奪い取るのは好きじゃない」
「興味があるな。お前が好むものはどんなことだ」

頬杖をついて唇に笑みをのせるクロロはいつだって余裕そう。
俺はこんなに緊張して立ってるのもやっとなのに…!
ひとのものを奪うのも、ひとを傷つけたり殺すのも俺は嫌だ。でもそれは普通のことだろ?
もっと平穏にのんびりと俺は趣味に没頭したいだけなのに。

「…探し出して、見つかったそれを調べるのが好きなんだ」
「俺たちとやってることは似てるように思うが」

ぜんっぜん違ぇえよ!!

「俺は壊すことはしたくない。壊れそうなものこそが、好きだから」

長い長い歴史を伝える遺物たちは、それはもう脆くて危ういものばかりだ。
重ねた年月をその身に刻む遺跡、見てきたものを語る石碑や書簡。
それらから悠久の時間をそっと教えてもらう。
けれど大切にそっと扱わないと、あっという間に壊れてしまう宝物なのだ。

お前ら盗賊ならそれぐらいの価値わかれよ!
…と言ってやりたいところだが、下手に刺激して殺されても嫌だから言えないチキンな俺。

「やはり、蜘蛛に馴染めそうだが」
「……だから足を引っ張るだけだと」
「どうかな?」

クロロの手元が一瞬ぶれた。え、何いまの。
と瞬きを止めた俺が見たものは、眼前に迫る鋭いナイフの刃。

ちょ、目と鼻の先にきてるんですけどおおおぉぉぉぉ!!?

何してくれてんだあんたー!!と思わず俺はナイフをはたき飛ばした。
瞬き止めるのがあとちょっと遅ければ、俺さっくりナイフ刺さって死んでんじゃねーか!
これだから旅団とは関わりたくないんだよ…っ…物騒すぎるっ。
一刻も早くここを出たい、帰りたい、ホント旅団入るとかマジ無理だから。

「不意打ちも好みじゃない」
「挨拶だ、あまり気にするな」

気にするよ!?命かかってっただろ明らかに!!

「少しは満足したか」
「するわけがないだろう」
「だ、そうだが。どうする?フェイタン」

は、え、フェイタン?
クロロが視線を向けている先に俺も顔を向けると、そこには小さな影。
黒いコートに身を包み、口元をうずめた男性。旅団の中でもかなり好戦的な性格の。

「異論はないね。これぐらいで満足するわけないよ」
「ちょっと待ってくれよクロロ、フェイタンも。が旅団に入るなら、団員同士のマジ切れご法度だろ」
「まだこいつ団員じゃない。問題ないね」
「どうする?団員になればフェイタンはとりあえず黙るが」
「………団員になったとしても、喧嘩吹っかけられそうだけど」

マジ切れじゃなくたって襲いかかってきそうだもん、フェイタン。
拷問が好きなんだよな確か。無理無理、そんなひとと一緒に仕事とかできまっせん!

「シャル」
「ん?」
「悪いけど、断らせてもらう」
「えー」

よく考えてもみろ。俺が旅団に入ったらだぞ?(絶対入らないけどな!)
後々ヒソカだって加わってくる。あれには二度と会いたくないんだ、俺。
んでもって次にクラピカに会ったとき、俺はどうすればいいんだって話になる。
やだよ、クラピカに命狙われるとか…!!

「縛られず、動きたいんだ」

これから原作に俺が絡むことがあるのかないのか、それはわからないけど。
ひとつの勢力に属することは避けたい。だって俺、どのキャラクターも大好きなんだ。
けれどそれぞれに譲れない思いがあって、ぶつかって命を奪い合うこともあって。
そこに俺がどう関わってくるのか、関わっていいのかもわからない。

俺という存在が、何かを壊してしまうのではないかという不安もある。
よくよく考えれば俺って、ホント微妙な存在だよな。

「…俺みたいな異分子、旅団を思うなら入れない方がいい」

原作にない俺という存在が、吉と出るか凶と出るか。
それは全くわからないんだからさ。





小心者でも、それなりに意志を伝えようと頑張っております。

[2011年 7月 30日]