第63話―クロロ視点

団員の8番がやられた。
相手はゾルディック家とのことで、それなら確かにありえないことではなく。
ただ依頼されて仕事をしただけの暗殺一家に手を出すようなことはせず。
その依頼主に報復することを済ませた俺たちは、新たな団員探しを始めた。

そう急ぐようなことでもないが、割とすぐに声をかけてきたのがシャルナーク。
珍しいと団員の誰もが思った。しかしその名前を聞いて納得した者も多い。



あまり人間に関心を払わないシャルの、数少ない友人だ。
俺も一度だけ会ったことがあるが、確かに常人とは違う気配を漂わせていたように思う。
また会う機会があれば楽しそうだと思ってもいたから、シャルの言葉にひとつ返事で頷いた。

そうして俺たちの前に姿を見せたは、相変わらずの無表情。
俺が声をかけても、ただその焦げ茶色の瞳をじっと投げかけてくるだけ。

「あのときはサンドイッチをありがとう」
「………………」

ぱちぱちと何度か瞬きしたは、少し意表を突かれた様子。
まさかあのことでまた礼を言われるとは思わなかった、といわんばかりだ。
まあ、気持ちなんてこもってるんだかわからないような感謝の言葉だったが。

「おいシャルナーク、本当にこいつ強いのか?」
「さあ?念を使っての戦闘はろくに見たことないし。体術だけならかなりいけると思うよ」
「…いや待てシャル。俺は」
「フィンクスも一度手合せしたいって言ってたしねー」
「はーん?あいつがねぇ」

確かにぱっと見た印象は細身の青年。ノブナガが訝しむのも当然だ。
しかし不躾な視線に苛立つでもなく、は興味がない様子で視線を外す。
そしてじっと俺を見つめる。
なるほど、全ての決定権は俺にあることを悟っているらしい。
ここは流石だと言っておいてやるべきだろうか。

「…買い被ってるみたいだが、俺は蜘蛛には入れない」
「ほう?なぜそう思う。シャルが推薦してくるというのは珍しいが」
「あんた達の足を引っ張るだけだ。わかってるだろ」

淡々とした言葉から、誰かと慣れあう気はないという意思が感じられる。
旅団とてそれほど仲良しこよしではないが、ひとつの団体であるということに違いはない。
それすらもこの男は厭うのだろうか。

「それに」
「ん?」
「俺は奪い取るのは好きじゃない」
「興味があるな。お前が好むものはどんなことだ」

濁った色を見せる瞳は、裏の世界を知る証拠。
だというのに奪い取ることを好まないとは、不思議な男だ。

「…探し出して、見つかったそれを調べるのが好きなんだ」
「俺たちとやってることは似てるように思うが」
「俺は壊すことはしたくない。壊れそうなものこそが、好きだから」

これまた面白いことを言う。
壊れそうなもの、それに魅力を感じるというのは何となくわかる。
完璧なまでに美しい何かよりも、わずかに綻びや歪みがある方が愛しいこともあるものだ。
そしてそれは人間にも言えること。完璧な聖人君子より、俺はここにいる連中の方が好ましい。

「やはり、蜘蛛に馴染めそうだが」
「……だから足を引っ張るだけだと」
「どうかな?」

実力も申し分ないことを確認するため、手元にあったナイフを軽く投げつけてみる。
何の戦闘態勢もとっていなかったは瞬きすることもなく、無造作にそれを叩き飛ばした。

そして方向を変えられたナイフがひとつの瓦礫の山に突き立てられる。
視線はこちらに向けたまま、やや不機嫌そうな唸るような声ではじわりとオーラを滲ませる。
ぞわりと肌が泡立つような殺気は、俺というよりは瓦礫の山に潜んでいる者に向けたものだろう。

「不意打ちも好みじゃない」

やっぱり気づいてたか、と俺はおかしくなって自然笑う。

「挨拶だ、あまり気にするな」

そう口添えしてもは納得がいかない、といった様子で眉を寄せる。
仕方なく俺は瓦礫の向こうにいる仲間へと声をかけた。

「少しは満足したか」

俺の問いかけに、仏頂面のフェイタンが音もなく姿を見せる。
新しい団員候補をよく思っていないフェイタンは、ずっと攻撃の機会を窺っていた。
それを感じていたのだろう、無視していたではあるが不機嫌さは消えない。
憮然とした声でが先に口を開いた。

「するわけがないだろう」
「だ、そうだが。どうする?フェイタン」

ここで二人がぶつかっても、面白いかもしれない。
俺が笑いながらフェイタンに尋ねると、そこでようやくも視線を動かした。
静かなその視線を受けて、フェイタンは切れ長の目をさらに細める。

「異論はないね。これぐらいで満足するわけないよ」
「ちょっと待ってくれよクロロ、フェイタンも。が旅団に入るなら、団員同士のマジ切れご法度だろ」
「まだこいつ団員じゃない。問題ないね」
「どうする?団員になればフェイタンはとりあえず黙るが」
「………団員になったとしても、喧嘩吹っかけられそうだけど」

いまだざわつくオーラをは意図しておさえたようだった。

「シャル」
「ん?」
「悪いけど、断らせてもらう」
「えー」

不満げなシャルに身体を向け、俺たちに向けるとは違う少し穏やかな声を発する。
恐らくシャルのことは信頼しているのだろう、声音からもそれがわかった。
シャルのことは友人と思っているが、旅団に入りたくはない理由。それは。

「縛られず、動きたいんだ」

ぽつりと静かな声が告げる。
孤独を孤独とも思わない俺たちだが、その声は妙に心に重く落ちた。

「…俺みたいな異分子、旅団を思うなら入れない方がいい」

そう言ってしまえるほどのどんな経験を、この男はしてきたんだ。

誰かと深く関わりあうことを望まず、ひとり気ままに生きていく。
いったい何を思い、何を求め行動しているのか。それら一切が読めない。

やはり、面白い男だと。改めて思った。





団員の皆様では到底想像できないような思考回路です、ええ。

[2011年 7月 30日]