同棲を始めるカップルか。
[2011年 8月 8日]
「ここが俺の家。とりあえず上がって」
「…お邪魔します」
旅団のホームから3つぐらい離れた町の一角。
オートロックのマンションへと入るシャルに俺はびびった。
ちょ、すごい高そうなんだけどここ。え、家賃とか払ってんの?盗賊なのに?
それとも何か裏での取引があるんだろうか…いやいや、深く考えまい。考えたら負けだ、俺。
シャルの案内でドアをくぐると、すっきりとしたリビング。
大きなテレビとふかふかの長椅子があり、テーブルの上にはノートパソコン。
キッチンもすぐそこにあり、使いやすそうだ。
「俺の部屋はそっちのドアね。はこっち使っていいから」
「………広いな」
「そう?風呂とトイレはここから行ける。奥にも部屋あるけど、そこは俺のコレクションルームだから」
「わかった、勝手に入らないようにする」
「話が速くて助かる。必要なら家具も買っとくけど、どうする?」
「いや、それは俺が自分で準備するから」
「まあの好みもあるだろうしねー。じゃあこれから買いに行く?」
近くに大型のデパートがあるらしく、大抵のものは揃うらしい。
特に用事もないし、甘えることにした。付近の地理も把握しておきたいし。
歩いてすぐのところにそのデパートはあり、本当に広くて迷いそうだった。
案内をじっと睨み、とりあえずは家具を買いに。
えーとベッドとか置けそうな広さはあったよな。けど仮住まいだし、邪魔にならないような…。
お、この折り畳み式とかよくね?掃除にも楽そうだ。
家具といっても必要なのは本棚ぐらいだよなー。本置ける場所が一番欲しい。
「、この本棚とかよくない?開くと奥にも収納できる」
「………本当だ」
「それに鍵つき。防犯もしっかりしてるし」
「シャルの家に盗難が入るなんて想像つかないけど」
「はは、確かにそれは笑い話にしかならないや」
服とか荷物を収納するクローゼットは部屋にあったし、いまのところ他に必要なものはない。
俺は目をつけた折り畳み式ベッドと、シャルが見つけてくれた本棚を買うことにした。
明日届けてもらうことになり、先に支払は済ませておく。
「他に必要なものある?」
「…ちょっと服見てもいいか」
「オッケー」
ジンに巻き込まれたせいで、お気に入りのコートだめにしたからな。
新しい上着を買いたいのと、この手の甲の爛れを隠すために手袋が欲しい。
いらっしゃいませーと愛想よく声をかけてくれる店員さんに、コートの売り場を教えてもらう。
向かった先にはけっこうな種類のコートや上着があって、ちょっと迷った。
「どんなのがいいとかある?」
「着心地と機能性」
「汚れが目立たないヤツも選んだ方がいいかもね」
まあ…よく騒動に巻き込まれるからな、いつだって汚れてばっかりだよ。
「ん。これポケット多くていいな」
「着てみたら?」
「………………どう」
「いいと思うよ。カーキ色って色々と紛れるのに便利だし」
「これなら汚れても問題ないしな」
「フードがついてて愛嬌あるね」
「…こら、勝手に頭にかぶせるな」
でもフードあるとちょっとした雨のときは助かるんだよな。
折り畳み傘とか持つタイプじゃないし、咄嗟のときにはフードぐらいあればなんとかなる。
よし、じゃあこれで決定で。あとは手袋だ手袋。
作業するのに便利だから、指先が出るタイプの手袋が欲しいんだよなー。
「そういえばその傷」
「…この間のでついた」
「あぁ、クート盗賊団ね。あれはびっくりした、の名前が引っ掛かったから」
「俺は完全に巻き込まれただけなんだが」
「ぴんぴんしてよく言うよ」
いや、死にかけたんですけど!?
「これは?水につけても平気だって」
「ん」
「そういえば」
「?」
「、帰ったら携帯触らして。カスタマイズしたいから」
「カスタマイズ…?」
「いまじゃだいぶ旧式になってきてるから。機能追加しておくよ」
そういえば使ってる携帯、買ってから何年だっけ。
シャルと初めて会ったときだから…二年ぐらい?まあ、そら旧式っちゃ旧式だろうけど。
前の世界なら二年ぐらい普通に使ってたけどなー。
やっぱメカオタクからすると、最新鋭機器でないと納得いかないんだろうか。
何を追加するのか聞いてみたら、翻訳言語が増えたとのこと。
なるほど、それはありがたいかもしれない。
「じゃあ、頼もうかな」
「任せといて。防水加工もしておくから」
至れり尽くせりだよなーシャルって。
俺も何か返せてるといいんだけど、とちょっと不安になったりするぐらいだ。
とりあえず食品売り場に行って、食材を買って帰る。
お礼にもならないかもしれないけど、せめて食事だけでも作ろうかと思って。
そう申し出れば、目を瞠ったシャルはなんだかぎこちなく笑った。
慣れてないからどういう顔すればいいかわからないや、と静かな声。
それがちょっと、出会ったばかりの頃のキルアを思い出させて。
これはとびっきりおいしいものを作らなくては、と俺は気合を入れた。
同棲を始めるカップルか。
[2011年 8月 8日]