第65話

「ここが俺の家。とりあえず上がって」
「…お邪魔します」

旅団のホームから3つぐらい離れた町の一角。
オートロックのマンションへと入るシャルに俺はびびった。
ちょ、すごい高そうなんだけどここ。え、家賃とか払ってんの?盗賊なのに?
それとも何か裏での取引があるんだろうか…いやいや、深く考えまい。考えたら負けだ、俺。

シャルの案内でドアをくぐると、すっきりとしたリビング。
大きなテレビとふかふかの長椅子があり、テーブルの上にはノートパソコン。
キッチンもすぐそこにあり、使いやすそうだ。

「俺の部屋はそっちのドアね。はこっち使っていいから」
「………広いな」
「そう?風呂とトイレはここから行ける。奥にも部屋あるけど、そこは俺のコレクションルームだから」
「わかった、勝手に入らないようにする」
「話が速くて助かる。必要なら家具も買っとくけど、どうする?」
「いや、それは俺が自分で準備するから」
「まあの好みもあるだろうしねー。じゃあこれから買いに行く?」

近くに大型のデパートがあるらしく、大抵のものは揃うらしい。
特に用事もないし、甘えることにした。付近の地理も把握しておきたいし。

歩いてすぐのところにそのデパートはあり、本当に広くて迷いそうだった。
案内をじっと睨み、とりあえずは家具を買いに。
えーとベッドとか置けそうな広さはあったよな。けど仮住まいだし、邪魔にならないような…。
お、この折り畳み式とかよくね?掃除にも楽そうだ。
家具といっても必要なのは本棚ぐらいだよなー。本置ける場所が一番欲しい。

、この本棚とかよくない?開くと奥にも収納できる」
「………本当だ」
「それに鍵つき。防犯もしっかりしてるし」
「シャルの家に盗難が入るなんて想像つかないけど」
「はは、確かにそれは笑い話にしかならないや」

服とか荷物を収納するクローゼットは部屋にあったし、いまのところ他に必要なものはない。
俺は目をつけた折り畳み式ベッドと、シャルが見つけてくれた本棚を買うことにした。
明日届けてもらうことになり、先に支払は済ませておく。

「他に必要なものある?」
「…ちょっと服見てもいいか」
「オッケー」

ジンに巻き込まれたせいで、お気に入りのコートだめにしたからな。
新しい上着を買いたいのと、この手の甲の爛れを隠すために手袋が欲しい。
いらっしゃいませーと愛想よく声をかけてくれる店員さんに、コートの売り場を教えてもらう。
向かった先にはけっこうな種類のコートや上着があって、ちょっと迷った。

「どんなのがいいとかある?」
「着心地と機能性」
「汚れが目立たないヤツも選んだ方がいいかもね」

まあ…よく騒動に巻き込まれるからな、いつだって汚れてばっかりだよ。

「ん。これポケット多くていいな」
「着てみたら?」
「………………どう」
「いいと思うよ。カーキ色って色々と紛れるのに便利だし」
「これなら汚れても問題ないしな」
「フードがついてて愛嬌あるね」
「…こら、勝手に頭にかぶせるな」

でもフードあるとちょっとした雨のときは助かるんだよな。
折り畳み傘とか持つタイプじゃないし、咄嗟のときにはフードぐらいあればなんとかなる。
よし、じゃあこれで決定で。あとは手袋だ手袋。
作業するのに便利だから、指先が出るタイプの手袋が欲しいんだよなー。

「そういえばその傷」
「…この間のでついた」
「あぁ、クート盗賊団ね。あれはびっくりした、の名前が引っ掛かったから」
「俺は完全に巻き込まれただけなんだが」
「ぴんぴんしてよく言うよ」

いや、死にかけたんですけど!?

「これは?水につけても平気だって」
「ん」
「そういえば」
「?」
、帰ったら携帯触らして。カスタマイズしたいから」
「カスタマイズ…?」
「いまじゃだいぶ旧式になってきてるから。機能追加しておくよ」

そういえば使ってる携帯、買ってから何年だっけ。
シャルと初めて会ったときだから…二年ぐらい?まあ、そら旧式っちゃ旧式だろうけど。
前の世界なら二年ぐらい普通に使ってたけどなー。
やっぱメカオタクからすると、最新鋭機器でないと納得いかないんだろうか。
何を追加するのか聞いてみたら、翻訳言語が増えたとのこと。
なるほど、それはありがたいかもしれない。

「じゃあ、頼もうかな」
「任せといて。防水加工もしておくから」

至れり尽くせりだよなーシャルって。
俺も何か返せてるといいんだけど、とちょっと不安になったりするぐらいだ。

とりあえず食品売り場に行って、食材を買って帰る。
お礼にもならないかもしれないけど、せめて食事だけでも作ろうかと思って。
そう申し出れば、目を瞠ったシャルはなんだかぎこちなく笑った。
慣れてないからどういう顔すればいいかわからないや、と静かな声。
それがちょっと、出会ったばかりの頃のキルアを思い出させて。

これはとびっきりおいしいものを作らなくては、と俺は気合を入れた。



同棲を始めるカップルか。

[2011年 8月 8日]