ゾルディック家に再訪。
[2011年 8月 8日]
新たに生まれ変わった携帯に着信が入った。
ちらりと確認すればイルミからで、いよいよ仕事も再開かー…と溜め息がこぼれそうになる。
マンションを出るときにシャルが鍵の登録をしてくれた。
なんでもこの家、鍵を持つというシステムではなく、センサーに手の平をかざす形らしい。
登録された掌紋であれば扉が開く仕掛けで、なんとも進んだ技術である。
めでたく俺も登録され、自由に出入りできるようにしてもらった。
シャルは他にも家があるらしいから、不在のことの方が多いらしい。
その間は自由に使っていいからという言葉に甘えさせてもらおう。
これで本とか集められるし、ちょっと嬉しい。
天空闘技場のお膝元に立ち寄り、お気に入りのケーキ屋でケーキを注文。
なんでだか珍しくゾルディック家に呼び出されたため、キルアへのお土産だ。
カルトも食べるかなー、好み聞いておけばよかった。
いつも素敵な対応をしてくれる店員さんにお礼を言って、さあゾルディック家へ。
試しの門の前に辿り着くと、ゼブロさんが掃除をしているところだった。
………いまの骨じゃね?と思っても見なかった振り。
「おや、いらっしゃい」
「お邪魔します」
ぺこりと頭を下げてから、いざ試しの門。
扉に手を置いて深呼吸。渾身の力で巨大な扉を押してみる。
…おお、おお?なんとか開いてるっぽい!
一応オーラで強化してるとはいえ、まさかトンという単位のものを動かせるとは。
この世界来て、俺もだいぶ人間離れしてきたよな…と切なくなる。
扉の先ではミケが出迎えてくれてめっちゃ怖かった。いや、一定の距離以上は近づいてこないけど。
んでさらに進んでいくと。
「………」
「………」
え、えーと。道の途中で女の子が仁王立ちしてるんだけど。
って、あの特徴的な髪形はカナリアだよな?うわ、まだちょっと幼い。
前に来たときはいなかったけど、そっかゾルディックの使用人になったのかー。
確かカナリアも流星街出身だったよな。てことは念を使えるんだろうか。
…ていうか、俺この先に進んで大丈夫?
ゴンみたいにぼっこぼこにされたりは、しないよな。
「ー!」
「キルア」
ものすごいスピードで走ってくる銀髪が見えて。
そのままダイブしてくる身体を慌てて受け止める。って、重!ずしってきたぞ。
前に会ったときよりも大きくなってるから当然かー、としみじみ子供の成長の速さを思う。
「あ、それ」
「いつものケーキ」
「やりい!」
「一応、他のひとの分もあるけど好みがよくわからなくて」
「へーき、あの店のならなんだってうまいし」
行こうぜ、と腕を引っ張るキルアはふと足を止めた。
くるりと振り返り、静かに控えている少女に声をかける。
「カナリア」
「はい」
「こいつ。俺の客だから、次からも通してやれよな」
「かしこまりました」
深々と頭を下げるカナリアに、キルアは少しだけ複雑そうな顔。
そうだよなー、せっかく同年代の子が家に来たのに友達という間柄にはなれない。
主と使用人という立場が二人を邪魔しているわけで、キルアには寂しいだろう。
キルアの頭を撫でてやると、いきなりなに?と不思議そうな顔をされてしまった。
大丈夫、いつか友達ができる。カナリアとも、友達になれるよ。
そのまま本邸への道を進んでいくと見えてくるのが執事室。
ゴトーさんたちが並んで頭を下げているのが見えた。
「キルア、ちょっといいか」
「?」
「ゴトーさんに土産」
「ゴトーに?」
だってお邪魔するのに何も持たないってのは失礼だろう。俺は命が惜しい。
恐る恐る近づいて、細長めの箱を皆さんで食べてくださいと差し出した。
中身はケーキ屋の店長が気まぐれに作ったクッキー。
これがまたお茶請けに最高で。売られてるときとないときがある、まさに気まぐれメニュー。
今回たまたま売ってたんで、ラッキーと思って買ってきたのだ。
「紅茶と一緒にぜひ。カナリアにもあげてください」
「見習いにまで心を砕いてくださるとは、ありがとうございます」
いや、カナリアにはケーキをあげたいぐらいなんだけどさ。
そこまでするとたぶん過分ってことになっちゃうだろうから、ここは我慢。
それからいよいよ本邸に辿り着く。あーもう、何度来ても緊張するなここ。
キルアは自分の家だから躊躇うことなんてなく、当たり前のように扉を開いて中へ。
俺も足を踏み入れたんだけど、その瞬間。
「覚悟なさい!!」
「!?」
全身が総毛立つような感覚に襲われ、俺は咄嗟にキルアを抱えて横に飛びのいた。
と同時に、俺たちがいた場所にばしゃあ!と液体が降りかかる。
な、なんかシュウシュウ煙が出てんですけどー!?分厚い絨毯が溶けてんですけどおおぉぉ!!
「ちょ、おふくろ!俺だって、俺!」
「……あら、キル?」
「親父と間違えんなよなー」
「おほほほ、ごめんなさいねキル。お父様にそっくりな銀髪だから、つい」
「ついで硫酸かけられたらたまんないってーの」
………硫、酸。
家庭に硫酸があることも驚きだが、いまの会話の流れでいくとえっとー。
………シルバさんに硫酸をかけようとしてたでファイナルアンサー…?
「まあさん、いらっしゃい。騒がしい家ですけれど、ゆっくりしてらしてね」
「………ありがとうございます」
「まったくあの人ったらどこへ行ったのかしら。今日という今日は許しませんからね!」
「……何かあったのか?」
「浮気した、って騒いでたけど。じーちゃんは、親父にそんな度胸ないって言ってた」
「まあ…キキョウさんがいるのに浮気はできないだろうな」
浮気の疑いがあるだけで硫酸かけられるとか。
そんなバイオレンスな嫁は絶対に欲しくないけれども。
ゾルディック家に再訪。
[2011年 8月 8日]