ネオンに乗っかられるとか、ある意味でおいしい状況。
[2011年 6月 11日]
ケーキは好きだよ?好きなんだけどさ。
マフィアの本拠地で、そのボスの娘と食べる気に誰がなるっちゅーねん!!!
いや、ネオンは可愛い。超可愛い。普通の女の子だったらお付き合いお願いしたいぐらい。
………まあ俺にそんな度胸はないけどな!遠巻きに眺めるのがせいぜいだ。
ってそれはいい。いくらネオンが可愛くてもだ、彼女はマフィアのボスの一人娘であるわけで。
しかも以前俺はここのファミリーに命を狙われたこともある。……主にネオンのせいで。
だからまたいつ攻撃されるかも分からない中で、呑気にケーキを食べる気分にはなれず。
隣りに座ったネオンが切り分けたケーキを無理やり喉に流し込むのが精一杯だ。
「はいままで何してたの?」
「…何と言われても」
旅して、天空闘技場で金稼ぎと修行して。んで仕事も見つけて?
…そのどれも綱渡りみたいな気がするけど、俺はいまこうして元気に過ごしている。
それってとても幸せなことだ。………次の瞬間には蜂の巣になってるかもしれないけど。
「ただ、なんとか生きてただけだ」
キルアと会えたし、シャルやクラピカとも会えたもんなー。
え?ヒソカはどうしたって?しーっ、しーっ、あの変態ピエロの名前は出すな!
なんかあいつ噂しただけで出てきそうだからホントやめてほしい。
俺はあの出会いは記憶から抹消する勢いでいこうと決意してるんだ。うん、俺は誰にも会ってない。
って、あのネオンさん…俺の腕を掴むのはまだいいとしてもですよ。
胸が!胸が当たってますー!!俺には刺激が強すぎるんですけども!!?
「うちの子になれば、楽しく生活できるよ?」
だからコレクションになる気はないってーのに。
そもそもコレクションってなんだよ。承知したが最後、剥製とかにされるんじゃなかろうか。
そんな自分の末路を想像し、俺は震えそうだった。怖い、めっちゃ怖い。
「……ネオンの望む答えは言えない」
「えーなんでー」
「ここに世話になるつもりはない。これまでも、これからも」
「ええー!やだやだがいないとやだー!」
「…っ…こら、ネオ…!」
駄々っ子のように飛びついてきたネオンの体重を支えきれず、俺はソファの上で倒れこんだ。
逃がすまじ、といった様子で馬乗りになるネオン。ちょ、なんて危ない体勢…!
ネオンの長い髪が俺の顔に落ちてきてくすぐったい。
身体に感じるネオンの体重と温もりに、俺はもう失神しそうな勢いだった。
うわあん、だって女の子とこんな体勢なったことないんだよー!!どうすればいいんだこれっ。
俺の気分としては、猫に押さえつけられた鼠。
このままだと確実に捕食される。ネオンのコレクションとして。
はっ!?そういえばここにはダルツォルネさんがいるはず!
視線を移動させれば、いつの間にか書類整理を始めていたらしい護衛と目が合う。
彼もあんまりの事態に硬直していた。…まあ、こんな場面を目撃したら俺もそうなるわな。
でも助けてええぇぇ!!あんたの上司をどけてくれー!
「ね、ね、うちに住もうよ」
「………ネオン」
玩具を欲しがるような、泣きそうな目は小さな子供みたいだ。
親戚のお兄さんお姉さんと別れるのが嫌で、駄々をこねて泣く子供。
それを思い出させるようなネオンの顔に、少しだけ俺は混乱が落ち着いてきた。
なんだよそういう顔されると俺弱いんだよー。ほら泣くなって。
キルアと過ごすうちに身に着いてしまった癖で、ネオンの頭を撫で…ようとしたんだけど。
俺思い切り下敷きになってて届かない。だから仕方なく、ネオンのほっぺに触れてみる。
って、やわらけー!!
え、なに、女の子のほっぺってこんな柔らかいもん!?肌がなんか違うっ。
「………ここにいてくれるでしょ?」
「悪いが、無理だ」
「そんなのやだ」
「ネオン。俺とお前じゃ、住む世界が違う」
マフィアと一般人が一緒にいられるわけがない、主に俺が。
人体収集家と、ただの歴史好きが趣味を分かち合うこともできるはずがない。主に俺が。
納得できないのだろう、大きな瞳を潤ませてネオンが見下ろしてくる。
だ、だからそんな顔するなってばよー。俺は平穏に地味に生きてたいだけなんだって。
金持ちの生活に憧れないわけじゃないけど、ここじゃストレスしかたまらなそうだ。
「聞き分けてくれ」
頼むから。俺の精神衛生のためにも。
誰かに何かを頼むときは、相手の目をしっかりと見て。
そうすれば大抵はなんとかなる、というのはじーちゃんの教えである。
ひとの目を見るのはあんまり得意じゃないんだけど(緊張するから!)
でもこればっかりはネオンに素直に頼むしかない、とじっと見つめ続ける。
うるっとさらに涙を滲ませたネオンは、がばっと隠すように顔をこちらの胸に埋める。
服をぎゅっとつかんで、のばかばか!とくぐもった声で抗議した。
でもその声には力がなくて、諦めてくれるらしいとわかる。
俺はほっとして、ありがとうの意味をこめてネオンの髪を撫でた。
趣味はあれだけど、やっぱり良い子なんだよなぁ。
ネオンに乗っかられるとか、ある意味でおいしい状況。
[2011年 6月 11日]