激しい求愛にも見えますが、多分微妙に違う。
[2011年 6月 11日]
ずっとずっと探してた。
艶やかな黒髪、不思議な色合いを浮かべる焦げ茶の瞳。
汚れた世界の中にあって、どうしてだか綺麗な彼を、ずっとずっと。
急に姿を消してしまったの行方はなかなかつかめなくて。
でもいつか絶対に見つける、と思いながら二年以上。
まさかまた出会えるとは思わなかった。こんなに早く。
会ったら何をしようと思ってたんだっけ、それすらも思い出せないほど高揚しちゃって。
相変わらずあんまり変化しない顔だけど、それがまた綺麗なの。
「はいままで何してたの?」
「…何と言われても」
これまでの期間を振り返るように遠くを見つめる。
うん、やっぱりこの横顔がお気に入り。
「ただ、なんとか生きてただけだ」
楽しくもなく、辛くもない。ただ生きているだけ。
それって面白い?楽しい?焦げ茶色の瞳は、ただ不思議な色合いを浮かべるだけで。
いつだってが何を考えているのか、あたしにはわからない。
悔しい、とぎゅっと彼の腕にすがりつけば、何だと問うようにが身体を揺らした。
「うちの子になれば、楽しく生活できるよ?」
だからうちに来ればいいのに。
そう思ったけど、は肌を震えさせて。それはまるで、拒絶するような反応。
「……ネオンの望む答えは言えない」
「えーなんでー」
「ここに世話になるつもりはない。これまでも、これからも」
「ええー!やだやだがいないとやだー!」
「…っ…こら、ネオ…!」
の硬い声を聞くのが嫌で、そのまま抱きつく。
なんだかんだで優しいは、あたしに乱暴なことは絶対にしない。
いまも抵抗せず押し倒されるがままで、逃がさないようにその上に乗りあがる。
そんなあたしを、どこか呆れた目でが見てるけど。気にしないもーん。
「ね、ね、うちに住もうよ」
「………ネオン」
がいてくれるなら、何でもあげるのに。
だからまたいなくなることなんてしないで。あたしのものでいて欲しい。
あたしを見上げるは少しだけ眉を下げて。多分これは、困ったときの顔。
そっと伸ばされた手が優しくあたしの頬を撫でてくれる。
優しくされればされるほど、どこかで無理なのだとわかってしまう。
でもどうしてもと離れたくなくて。
「………ここにいてくれるでしょ?」
「悪いが、無理だ」
「そんなのやだ」
「ネオン。俺とお前じゃ、住む世界が違う」
違うって何が?あたしだってマフィアのボスの娘なんだよ。
皆が怖いっていうものは怖くないし、汚いっていうものを汚いと感じることもない。
だからがどんなに真っ暗な道を歩いてても、大丈夫。
あたしはそんなだからこそ、欲しいと思うのに。
「聞き分けてくれ」
じっと見上げてくる焦げ茶色の瞳。
とてもとても澄んだ色の中で、わずかに揺れる濁った色。
誰にも出せないその瞳の色が大好き。
大好きなのに、はあたしのものになってはくれない。
パパにお願いしたら、きっとを殺しちゃう。それはダメ、死んじゃったら意味がない。
じゃあどうすればいいんだろう。それが分からなくて。
の胸に顔を埋めて、ばかばか!と文句を言ってみる。
でもやっぱり彼は怒らない。大きな手で頭を撫でてくれるだけ。
いつか絶対、あたしのコレクションにしてみせるんだから。
そう改めて決意して、あたしはの服をぎゅっと握った。
暗くなる前には帰っちゃって。
でも彼が運び屋をやってることはわかったし、前よりは情報を集めやすいかも。
今度はこっちから遊びに行ってやるんだから、と窓べりに頬杖をつきながら思う。
一応見送りに出ていたダルちゃんが部屋に戻って来る。
「ボス」
「なにー」
「ボスはあの男と、どういうご関係で?」
「ずーっと欲しいって言ってるのに断られてるの。もー、いつになったらコレクションにできるんだろ」
「…コレクション。ノストラード氏に頼めばすぐに手に入れてくださるのでは?」
「だめだめ。パパじゃ殺しちゃうもん」
それじゃダメー。生きてないと、ダメ。
「あ、だから運び屋さんがだったことはパパには内緒ね」
「はあ」
「あたしと住む世界が違うなんて、変なの」
「彼は自分のことをよく分かっているように思えましたが」
「えー?」
「ボスを思えばこそ、断られたのかもしれません。…まあ、俺の勝手な憶測ですが」
「何それ変なの」
本当に、変なの。
パパよりもずっと危ないことしてるひとなのかもしれない。
なのには優しい。とっても。
それに。
しばらく会わないうちに、なんだかちょっと逞しくなったかも?
乗っかったときに確かめた身体を思い出して、鼻歌が出る。
あたしの理想に近い、綺麗な筋肉をしてた。やっぱりちゃんと見てみたい。
次に会ったときは、絶対に見せてもらおーっと。
激しい求愛にも見えますが、多分微妙に違う。
[2011年 6月 11日]