第46話−ネオン視点

ずっとずっと探してた。
艶やかな黒髪、不思議な色合いを浮かべる焦げ茶の瞳。
汚れた世界の中にあって、どうしてだか綺麗な彼を、ずっとずっと。

急に姿を消してしまったの行方はなかなかつかめなくて。
でもいつか絶対に見つける、と思いながら二年以上。
まさかまた出会えるとは思わなかった。こんなに早く。
会ったら何をしようと思ってたんだっけ、それすらも思い出せないほど高揚しちゃって。
相変わらずあんまり変化しない顔だけど、それがまた綺麗なの。

はいままで何してたの?」
「…何と言われても」

これまでの期間を振り返るように遠くを見つめる。
うん、やっぱりこの横顔がお気に入り。

「ただ、なんとか生きてただけだ」

楽しくもなく、辛くもない。ただ生きているだけ。
それって面白い?楽しい?焦げ茶色の瞳は、ただ不思議な色合いを浮かべるだけで。
いつだってが何を考えているのか、あたしにはわからない。
悔しい、とぎゅっと彼の腕にすがりつけば、何だと問うようにが身体を揺らした。

「うちの子になれば、楽しく生活できるよ?」

だからうちに来ればいいのに。
そう思ったけど、は肌を震えさせて。それはまるで、拒絶するような反応。

「……ネオンの望む答えは言えない」
「えーなんでー」
「ここに世話になるつもりはない。これまでも、これからも」
「ええー!やだやだがいないとやだー!」
「…っ…こら、ネオ…!」

の硬い声を聞くのが嫌で、そのまま抱きつく。
なんだかんだで優しいは、あたしに乱暴なことは絶対にしない。
いまも抵抗せず押し倒されるがままで、逃がさないようにその上に乗りあがる。
そんなあたしを、どこか呆れた目でが見てるけど。気にしないもーん。

「ね、ね、うちに住もうよ
「………ネオン」

がいてくれるなら、何でもあげるのに。
だからまたいなくなることなんてしないで。あたしのものでいて欲しい。

あたしを見上げるは少しだけ眉を下げて。多分これは、困ったときの顔。
そっと伸ばされた手が優しくあたしの頬を撫でてくれる。
優しくされればされるほど、どこかで無理なのだとわかってしまう。
でもどうしてもと離れたくなくて。

「………ここにいてくれるでしょ?
「悪いが、無理だ」
「そんなのやだ」
「ネオン。俺とお前じゃ、住む世界が違う」

違うって何が?あたしだってマフィアのボスの娘なんだよ。
皆が怖いっていうものは怖くないし、汚いっていうものを汚いと感じることもない。
だからがどんなに真っ暗な道を歩いてても、大丈夫。
あたしはそんなだからこそ、欲しいと思うのに。

「聞き分けてくれ」

じっと見上げてくる焦げ茶色の瞳。
とてもとても澄んだ色の中で、わずかに揺れる濁った色。
誰にも出せないその瞳の色が大好き。
大好きなのに、はあたしのものになってはくれない。

パパにお願いしたら、きっとを殺しちゃう。それはダメ、死んじゃったら意味がない。
じゃあどうすればいいんだろう。それが分からなくて。

の胸に顔を埋めて、ばかばか!と文句を言ってみる。
でもやっぱり彼は怒らない。大きな手で頭を撫でてくれるだけ。
いつか絶対、あたしのコレクションにしてみせるんだから。
そう改めて決意して、あたしはの服をぎゅっと握った。







暗くなる前には帰っちゃって。
でも彼が運び屋をやってることはわかったし、前よりは情報を集めやすいかも。
今度はこっちから遊びに行ってやるんだから、と窓べりに頬杖をつきながら思う。
一応見送りに出ていたダルちゃんが部屋に戻って来る。

「ボス」
「なにー」
「ボスはあの男と、どういうご関係で?」
「ずーっと欲しいって言ってるのに断られてるの。もー、いつになったらコレクションにできるんだろ」
「…コレクション。ノストラード氏に頼めばすぐに手に入れてくださるのでは?」
「だめだめ。パパじゃ殺しちゃうもん」

それじゃダメー。生きてないと、ダメ。

「あ、だから運び屋さんがだったことはパパには内緒ね」
「はあ」
「あたしと住む世界が違うなんて、変なの」
「彼は自分のことをよく分かっているように思えましたが」
「えー?」
「ボスを思えばこそ、断られたのかもしれません。…まあ、俺の勝手な憶測ですが」
「何それ変なの」

本当に、変なの。
パパよりもずっと危ないことしてるひとなのかもしれない。
なのには優しい。とっても。

それに。

しばらく会わないうちに、なんだかちょっと逞しくなったかも?
乗っかったときに確かめた身体を思い出して、鼻歌が出る。
あたしの理想に近い、綺麗な筋肉をしてた。やっぱりちゃんと見てみたい。
次に会ったときは、絶対に見せてもらおーっと。




激しい求愛にも見えますが、多分微妙に違う。

[2011年 6月 11日]