あれ、予定と違ってシャルも同行することに…あれ。
[2011年 8月 31日]
いまにも抹消したい黒歴史を俺が築いてから一か月。
………実は浮上してくるまでに一か月かかったんだよ、女装事件から。
だって、だってさ、女装ってだけでも穴掘って入りたいぐらいだったのに…!
何が悲しくておじーちゃんに迫られなきゃいけなかったんだ…。
もうさ、あれは人生に絶望したね。俺って男でいる意味あんのかって。
いや、性別を変えることなんて普通はできないわけだから、俺が男であることは不変だ。
ならなぜ、綺麗なお姉さんとか可愛い女の子ではなく、あんなじーさんに迫られるんだ俺。
いままでにないほどに荒んだ俺を慰めてくれたのは、ゾルディックのちびっ子たちだった。
おかえりと駆け寄ってきてくれたキルアとカルトの可愛いこと。
一緒にケーキ食べて、風呂入って、ベッドの上でごろごろして一泊。
非常に心洗われる一夜でありました。……うん、あのおかげで俺一か月で浮上できたんだ。
でなけりゃ自暴自棄になってたかもしんない。いや、半分なってたけど。
「ー、まだー?」
「もうできる」
リビングから聞こえてきた声に返事をして、俺はフライパンから目玉焼きを皿に移した。
うん、まあ食べられるレベルにはなってるだろ。
キッチンから出るとパソコンを適当に横にずらし待機するシャル。
マンションに顔を出したシャルが開口一番「お腹減っててさー」と言ったため俺は調理に。
ちょうど昼飯まだだったから、いいんだけど。
サラダと、目玉焼きとベーコンとトースト。大したもんじゃなくてごめん。
「うまそー」
「…そうか?」
「いっただっきまーす」
可愛い顔してかなりの大食漢であるシャルは、すぐにかぶりつく。
…これはもっとパン焼いといた方がいいかもしれないな。
「あ、さっきの携帯にメールきてたっぽいよ」
「ん」
テーブルに放置していた携帯をとってメールを確認。
………え、カイトからだ。うわ、アドレス交換後から初めてのメールだよ。
何かあったんだろうか、と開いてみて驚いた。
ジン、見つけたぞ。
短い文章だけど、それだけにカイトの達成感を伝えるような気がして。
そっかぁ、ついにジンを見つけて捕まえたのかぁ。つまりは最終試験クリアだ。
これで一人前ってことだよな、それはめでたい。
おめでとう、と返信して。目的を成し遂げたカイトに尊敬の念を覚える。
俺も負けてられないよな。
きちんと元の世界に戻る方法を見つけないと。
「シャル、しばらく留守にするから」
「あ、そうなの?なんだ残念、クロロが暇そうなら顔出せって言ってたのに」
「………クロロが?」
「の女装姿が見た…」
「どこからの情報だそれは」
なんでクロロが俺の女装について知ってんのー!?
あ、それともただ単に嫌がらせで女装させようとかそういう、たまたまの偶然?
どっちにしろ俺に対して喧嘩を売っているとしか思えない。ふっ、バカにするなよ。
誰が買うかそんな喧嘩!!(超チキン)
「とにかく、ちょっと色んなところ巡ってくるから」
「?仕事とはまた違うわけ」
「遺跡巡り」
「あぁ…。呪われた石版のことといい、そういうの好きなの?」
「もともと考古学は好きだ。大学に行こうとしてたし」
「してた」
「そう、してた」
過去形なんだ?とパンをかじりながらシャルが首を傾げた。
それに小さく頷いて、通うはずだった大学を思い浮かべる。ああ、懐かしいな。
なんかもうすでに記憶から薄れはじめてるけど、じーちゃんの研究室は思い出せる。
…くっそう、あの土産に触りさえしなければ。いや原因があれかは確定してないけど。
「この世界に引きずり込まれて、その夢は断たれたわけだけど。別に独学でもいいかって」
「…ふーん」
「いつも石版の情報ありがとう、シャル」
「俺は対して苦労してないよ。ね、が嫌じゃなかったらだけど」
「?」
「俺もついていっていい?」
何ですと!?
「旅団の仕事もしばらくなさそうだしさー。これといって用事があるわけでもないし」
「…ただの遺跡巡りだぞ?シャルが楽しめるとは思えないけど」
「それを決めるのは俺」
けどなぁ…観光地として整備されてる遺跡ならともかくとして。
人の手がロクに入ってない遺跡だと、汚いし危ないし、ガラクタしかない可能性もある。
骨折り損の確率の方が高いんだけど、いいのかな。
いきなりマイナー所に行くつもりはないけど、それでも楽しめるんだろうか。
迷う俺をじっと見つめるシャルは、断らせないといった空気で。
…シャルが一緒に来てくれるのは正直心強いんだけど。でも、その。
また賞金稼ぎとかに狙われるのだけは、勘弁デス。
あれ、予定と違ってシャルも同行することに…あれ。
[2011年 8月 31日]