第73話

というわけで、やってきました遺跡巡り。
まずはシャルと一緒に有名なルルカ遺跡に行って。その保存状態に感動した。
これをあのジンが発見してこんな風に良質な保存状態を作り上げたのだと思うと信じられない。
……だってあのジンだぞ?(微妙に失礼)

遺跡には多くの財宝も眠っていることが多いから、やっぱり荒らされることがほとんどだ。
でもジンは逆に私財を投げ打って遺跡を守ったんだから、本当にすごい。

「今回はまた随分奥地に行くんだ」
「…だから言っただろ、楽しめるとは思えないって」
「というか、暑い」
「怪我と虫刺され防止のためだ、我慢しろ」

シャルは慣れない長袖に眉を寄せてる。
虫刺されを甘く見るなよー。こういう奥地だとどんな虫いるかわからないんだからな。
それに遺跡内部には未知の物質もあるかもしれないわけで、怪我は避けるべきだ。
下手すると空気すら汚染されてる可能性もあるんだからな。

「で、
「ん?」
「さっきから何してんの」
「植物のチェック」

この地方の気候とか地質とか、どんな生物がいるのかとか。自然は情報の宝庫だ。
でもこの世界の植物ってよく知らないものも多いんだよなー。
葉の形とか色で毒草っぽいのはわかることもあるけど。でも携帯は手放せない。
シャルと同じシリーズの携帯はこんな奥地でも圏外になることはない。
おかげで植物図鑑を閲覧することもできるわけだ。超便利。

うーん…。なんかここ、危ない植物多いんですけ、ど。
こんな場所に遺跡が残るような大きな国が存在していたのだろうか。
まあ、昔は気候が違ったっていう可能性もある。

「とりあえず中入ってみるけど、気をつけろよ」
「何に気をつけたらいいかわからないからなー」
「むやみやたらに触るな。古いものだから、ちょっと力を入れただけで崩れるかもしれないし、何かトラップが仕掛けられてることもありうる」
「あ、そっか。トラップね」

面白そうだな、と思考を巡らせる友人に俺は溜め息を吐いた。
あ、あのねシャルさん。命にかかわることだから、本当に余計なことしないでね?
やだよ、巨大な岩に追われて遺跡の中を走るとか。

ま、そんな映画のような出来事は現実的にはありえないわけだけど。
………ここハンター世界だからな。油断はできない。

奥へとゆっくり入っていく。一歩、一歩、安全を確認しながら。
この遺跡は発見されてけっこう経つんだけど、調査の手があまり入っていないそうだ。
財宝がほとんど残されていないせいもあるし、一般の学者が立ち入るには奥地すぎる。
歴史的価値もあんまりない、ってことだったけど。
どのぐらいの地層にあった遺跡なのか俺は確認してないけど、それほど古くもないそうだ。
あ、古くないといっても他の遺跡と比較してだからな?十分、昔の建物だよ。

「何この壁画」
「だいたい遺跡には歴史を記した壁画とか、もしくはその国の信仰に関係した絵が刻まれるんだ。そのうちのひとつだと思う」
「ふーん。けっこういい趣味してるね、これなんて生首で柱つくってる絵じゃない?」
「………アッシリアみたいな残酷さだな」

シャルが指さした壁画は、人間が人間を狩っている姿が刻まれている。
侵略している姿なのか、それとも娯楽として人間狩りが行われていたのか。
詳細はわからないものの、こうしたことが刻まれているということは。
それなりに力の強い国だったのだろう。殺戮をこれほどに行えるほど、軍事力があった。

アッシリア?と不思議そうに首を傾げるシャルを曖昧に誤魔化し奥へ。
メソポタミア北部にあった世界帝国だよ、なんて言ってもわかるまい。俺の世界の話だ。

「………シャル、そこおかしくないか」
「ん?………あ、本当だ」

行き止まりというか、崩れて道が瓦礫で埋まってる。
けどそのちょっと手前に妙な壁があった。
古い遺跡だから壁には植物のツタが走ってるんだけど。
変なとこで途切れてるんだよな、縦一直線に。真っ直ぐに線が入ってる。

「ここに扉があるってことかな。蹴破っていい?」
「力技をやめろ。その衝撃で遺跡が崩れたらどうするんだ」
「えー」

とりあえず扉と思われる壁を撫でる。
うん、石造りだから壁に紛れてるけどやっぱり扉っぽいな。
あとはこれをどう開けるかだけど。
もしこの遺跡が墓の役割を持ってるなら外側から閉じられて開かないかもしれない。
けど本来の扉は行き止まりの先にあったはずなんだよな。てことはここは隠し扉。

なんでわざわざ隠し扉なんて作ったんだろう。
つまりは隠れて出入りする必要があった、ってことだよな?
じゃあこの遺跡は神殿としての用途があったのだろうか。

神官とか、王族とか。そういった類のひとが出入りしていた道なのかもしれない。

がこん。

「ん?」

どうしたもんかなー、と扉とは向かいの壁に背中を預けたら何か音が。
そんでもって、ごごごと音を響かせて扉が下に下がっていきますが!

「なんでそんなとこにスイッチ?面倒なことするねー」
「………」

もう一回押してみると、また扉が上がって壁になる。
これは…あれかな、たぶん開閉はついてきた人間が担当してたんだろうな。
王族はもちろん、こういった文明では神官もかなりの高位に当たる。
そういった人間は自分で扉を開いたりとかしない。
恐らくはここに部下を控えさせて、自分たちだけこの奥に進んだんだ。

「とりあえず、行ってみるか」
「了解ー」

少し狭くなってる通路を進むのは勇気がいるけど。
この先に何があるのだろうかと思うと、自然気持ちが逸る。

なんだか久しぶりだ、こんな風にわくわくするのは。

じーちゃんにも、見せてやりたかったなぁ。




しまった、遺跡探索をエンジョイしすぎた。

[2011年 9月 10日]