第81話

到着したのは魔法都市マサドラ。
俺が使わせてもらった再来(リターン)含め、呪文カードを入手できる唯一の場所だ。
魔法を使いたいと思ったら、ここでカードを入手しないといけない。
まあ、クリアが目的じゃない俺には不要なんだけど…。ツェズゲラに会わないとな。
そのためにはコンタクトをとるのが一番なんだけど、それに必要なカードがない。

うー、どうすっかなぁ。カードを買うにはこの世界でのお金となるカードが必要。
紙幣カードを入手するには、モンスターカードとかをゲットして換金しないといけない。

「………結局、自力でカードを手に入れないといけないわけだよな」

はあ、入手しやすいのに当たるといいんだけどな。
とりあえず町の外に出て、モンスターがいそうなとこを歩いてみるか。
えーと、マサドラに来るまでの途中にあった地帯が初心者向けなんだっけ?
初心者向けって言っても、ゴンとキルアが最初難儀してたし…俺、生き残れるといいな。
あーあ、溜め息しか出てこない。でもやるしかない。

「何か欲しいカードでもあるのか?」

よし、気合入れろ俺。仕事終わらして、帰って、寝るんだ!
今日一日でってのは確実に無理だろうけど、帰ったら何するかを考えて乗り切ろう。
まずはいつものケーキ屋行ってー、古本巡りしてー、家でごろごろしてー。

「いきなり無視とはひどいんじゃないか」
「………」

あ、え、俺に声かけてたの?
ゲーム内に知り合いなんていないと思ってたからスルーしちゃったよ………って。

振り返ればそこにいたのは、メガネをかけた長身の男性。

ってこいつ、ゲンスルーじゃねえかあああぁぁぁぁ!!!?
他プレイヤーを爆破して殺しながら、その脅威から逃れるためとかいってグループ作って。
そんで仲間たちにカード集めさせて数が揃ったら皆殺しにした……通称・ボマー。
なんでそんなひとが俺に声かけてくんだよー!?

「おっと、警戒しないでくれ。交渉したいと思っただけなんだ」
「……交渉?」
「俺たちはグループでこのゲームをプレイしている。おかげで重複してるカードもかなりの数があってね。もしよければ、そちらのカードと交換させてもらえないかと思っただけだ」

まともな交渉っぽいけど、受けない方がいいに決まってる。
相手は人を殺すことをなんとも思ってないし、俺が持ってるカードは全て依頼主のもの。
勝手にこちらがトレードしていいはずもない。

「悪いが、断る」
「…そうか、それは残念だ。俺はゲンスルー、何かあれば声をかけてくれ」
「………………その機会はないと思う」
「はは、そうか?ああそうそう、最近この世界も物騒だ。気をつけた方がいい」
「…?」
「噂に聞いてないか?ボマーという…」

ゲンスルーの手が俺に伸びてくる。
ひいいいぃぃぃ、爆弾取り付けられるのだけは勘弁!!!

「俺に触るな」

咄嗟に飛びのいてゲンスルーから視線を逸らさないように注意する。
そういやゲンスルーって仲間が他に二人いたよな?どっかに紛れてんのか。
ある意味でヒソカより危険人物だ、これ以上関わりたくはない。
俺はそのまま後ろに距離をとって、人ごみの中に紛れた。
一応円を使って、周囲に不審な追跡者がいないことを確認して逃げる。

こ、こわかった…!爆弾取り付けられるか、もしくは直接爆破されるか。
どっちにしろ死亡フラグだったわけで。早々に危険に遭遇しすぎだろ俺…!

なんかもう町中にいる方が怖くなって、俺は森林へと入っていく。
うん、まあ、そうすると遭遇するよな、こう色々なものにさ。
だからって、いきなり狼の群れに遭遇するって、運なさすぎじゃないかな俺…!!







というわけで、いきなりランクCの<群狼の長>というカードをゲットしました。
いやあ、倒しても倒しても際限なく狼が出てくるからどうしようかと思ったよ…。
ボスを倒さないと終わらないわけね、それに気づくのに時間かかりすぎだ。
このゲームに存在するカードは全部で10段階のランクがある。
一番高いのがSSランク。そんで一番下がHランクだ。それ考えるとCランクはまあまあ。

「…これなら、売ればそれなりになるだろ」

マサドラに戻って換金して、呪文カードを買ってみるかー。
トレーディングカードみたいな感じで、購入するときはカードを選べない。
ランダムに入ってるカードは決まるから、良いのが出てくれない場合もある。
俺、こういう運ってよくないんだよなー……。

マサドラへ戻る道すがらも、ちょいちょい色んなものをカード化してみる。
すごいよな、石ころだってカードになるんだから。

そんで群狼の長を換金してみたら、なんと百万ジェニー以上になった。
これはなかなかありがたい。呪文カードが一袋三枚入りで一万だもんな。
とりあえずどうしよう、三袋ぐらい買ってみるか。
あとは食糧と地図も一応買っておこう。全部カードだから荷物にならないのは便利だ。

なんのカードがきたかなー。
えーと………解析(アナリシス)とかいらねえよ!!カードの説明なんぞいらん!
移動系、移動系……ははは左遷(レルゲイト)とか嫌がらせか。
グリードアイランド内のどこかにランダムに飛ばされるなんて、博打すぎる。
他も防御系か攻撃系か。…あのー、移動したいんですけど俺。
って、おお!交信(コンタクト)きたー!!これでツェズゲラと連絡できる!

えーとカードをバインダーに嵌めて、ツェズゲラ…うんリストにあるな。

「<交信>使用(コンタクトオン)ツェズゲラ」

ちゃんと繋がるかな、と緊張しながら応答を待つ。
するとちょっとだけの間を置いて、落ち着いた渋い声がバインダーから響いた。

『アイザックか?』
「悪いが、代理の者だ」
『……どういうことだ』

声だけなのに迫力あるなー、ちょっと圧倒される。

「現実世界に戻った彼は重傷で、いまは治療を受けている」
『何?』
「十日以内に戻れるとは思えないと判断された為、彼が持っていた指定カードを預けるため俺に依頼が来た。…自己紹介していなかったな、運び屋のだ」
『運び屋…なるほど。いまどこにいる?』
「マサドラ。そこが集合地点だと聞いたが」
『ああ、ではそちらに向かおう。待っていてくれ』
「了解」

通信を切って、なんとか依頼は果たせそうだと胸を撫で下ろす。
なんかもう、常に緊張状態でもうへとへと。早くこのゲームから出たい。

溜め息を吐いて待つこと一分。ツェズゲラが仲間と共に空からやって来た。
複数で対象の場所へ飛ぶカード、同行(アカンパニー)を使ったんだろう。
壁に寄りかかっていた背を離して「ブック」と唱える。
そうして出したバインダーをどうぞと俺は差し出した。

バインダーを覗きこむツェズゲラたちからちょっと距離を置く。
中身の確認が済むのを待っていると、しっかりと頷いているのが見えた。OKかな?

「ああ、全てあるようだ。カードを抜かせてもらっても?」
「俺のカードじゃないし、あんたに届けろと依頼を受けたものだ。ご自由に」
「このゲームの経験は?」
「ない。今日来たばかりだ」
「今日!?」

ツェズゲラの仲間の一人が素っ頓狂な声を上げた。
え、なんか俺いけないこと言った?初心者に何仕事依頼してんだよみたいな?
けど俺のせいじゃないし。むしろ強引に押し付けられた仕事だしなー。

「報酬はどうなっている?」
「これとは別件でバッテラ氏のもとに来たんだが、その依頼料はもらってる。今回の依頼料はツェズゲラとの交渉に任せると、バッテラ氏が」
「…そうか。とりあえず、いま君が所有している指輪はそのまま預けよう」
「………何だって?」
「重傷ということはすぐにゲーム復帰は無理だろう。その間空きができるのは避けたい」

だったら他に希望者を募ればいいのに何で俺!?

「名前も君の好きなように登録し直してくれ」
「………けど俺、プレイするための契約をバッテラ氏と交わしてない」
「運び屋としての契約があるんだろう?その延長と思ってくれ」

いやいやいや、俺は断りたいんですけどー!?
こんな危険なゲームに参加したくないし!現実世界でのんびりしたいし!
………まあ、日常に戻ったところで平和とは程遠いんだけどさ。

「あとは重複しているカードの中から、何枚か好きなものを持っていくといい」
「……随分と大盤振る舞いだな」
「それだけの価値が、君にあると思ったまでのこと」

お、俺はどうしたらいいんでしょうかね……?
現実世界に帰れる離脱(リーブ)のカードが………ない!!
あとは通行チケット……もないってどういうことですかー!!!!

これじゃ、すぐに帰れないじゃん…っ…!





そう簡単に帰らせるわけないじゃまいか。

[2011年 11月 3日]