第80話

「グリードアイランドへようこそ」

俺を迎えてくれたのは可愛らしい女の子。
いま俺が立つ場所は、バーチャル空間といった雰囲気の部屋。
SF映画とかに登場しそうな、人工的な光に包まれた無機質な部屋である。

「それでは様、ゲームの説明を聞きますか?」

どうして俺がこんなところにいるのかというと。
話はちょっと……うん、遡る。






マチと旅団のアジトに戻った俺は強制的に女装させられた。
いったいなんでこんな辱めを受けにゃならんのだ、と泣きたくなったけれど。
パクやシズク相手に強く出ることもできず、なんでかマチまで楽しそうにしはじめて抵抗できず。
色々な服の中から、着物がチョイスされた。いや、まあ、スカートとかよりマシ…か?
でもやっぱり化粧までされるのは落ち着かない。肌が、苦しい。

そんで悪乗りしたクロロがお代官ごっことか始めようとして(何でそんなこと知ってるか謎だ)
さすがにそれはないって、とシャルが呆れた顔してた。
最終的にはマチの念糸に縛り上げられ、ようやく諦めてもらえたのである。

という経緯があり、俺はすぐさま男の姿を取り戻すとアジトを後にした。
あそこ行くとろくなことない、本当に。
遺跡巡りを続けようかと思ったんだけど、イルミから仕事の依頼が入って。
とりあえずシャルとはそこで別行動をとって仕事を請けた。それが終わるのに一週間。
その後にまた別口の仕事が入ったのが今回だ。

依頼主はイルミとは全く関係のないところで。最近はそういう顧客も増えた。
んで依頼っていうのが、ただ単に荷物をある個人の所有地まで運ぶっていうものだったんだけど。

「依頼のものを届けに来ました、です」
『入れ』

広ーい塀に囲まれた私有地に足を踏み込むと、見渡す限りの草原。
そして遠くに見えるのは屋敷というよりは城だ城。どんな大金持ちだよ、と思ったんだけど。
お届け先の名前がね、バッテラっていうんですよ。
あれーなんか聞いたことあるよなーまさかなーと思いながら城のような建物の中へ。
そんで現れた使用人らしきひとに包みを渡して、報酬を振り込んでもらえば仕事終了。
手続きをとってもらっていると、「大変だ!」という声に俺と男は顔を上げた。

何だ一体と思えば、バタバタと血相変えてやって来る別の男。

「戻ってきたヤツが重傷だ!このままだと死んじまうっ」
「指輪は外したのか?」
「ああ、それは」
「カードデータが残ってるなら最悪な状態ではないな。すぐに治療を」
「わかった…!」

なんか大変なことになってるみたいだけど、早く振り込んでくれないかなー。
俺はさっさとここを出たい。早く家でのんびりしたいんだけど。

「しかしどうする、指輪のデータが残るのは十日間だろ」
「あぁ。次の選考会の予定は立っていないし、急いで集めたとしても間に合うかどうか」
「せっかくの指定ポケットのデータが………ん、そういえばこの運び屋」

え、俺?

「お前、念能力者だったな」
「………だとしたら?」
「グリードアイランドの中まで、運んでほしいものがある」

えええええぇぇぇぇぇえええええ?

ちょ、それってまさか、いまの会話の流れ的にあれか?
指定ポケットに入ってるカードを、データが消える前に誰かに届けろってこと?
つまり俺にゲームをプレイしろってことだよね?ちょ、無理無理!
キルアとゴンがあんなに最初苦戦してたゲームだぞ。
俺なんてすぐゲームオーバーになるに決まってんじゃん!

「…一度入ったら、出てくるのは難しいはずだが?」
「よく知ってるな。大丈夫、依頼物を渡してくれれば、脱出方法を仲間が伝える」
「会ってほしいのはこのツェズゲラという男」
「渡すのは指定ポケットのカードか」
「なんだ、もしかしてプレイヤーか?」
「いや」

やったことあるわけないじゃんかー!!
しかもツェズゲラって……あれだよな?バッテラお抱えの一ツ星ハンター。
そっかー、もうプレイしてるのかー大変だなぁ。

「それじゃ、頼んだぞ」

って、俺まだ返事してないんですけどー!!?







………というわけで、俺はいまグリードアイランドの大地を踏みしめております。
どうしよう、マジでどうしよう。生きて帰ってこれんの俺?
最初のゲームの説明なんて頭ぐるぐるしててろくに聞いてなかったよ!
いや、だいたいは知ってるからいいけどさっ。どうしよう、ホントどうしよう。

俺がいまいるのはゲームのスタート地点、シソの木と呼ばれる大樹。
おーおー、大草原だー、これゲームだと思って来たら感動すんだろうなぁ。
ゲーム世界に入って遊べる、なんて俺のいた現代世界じゃ夢のまた夢。

………それにしても、視線痛い。

ふたつぐらいの方向から視線を感じる。これは、他のプレイヤーのものだろう。
新しく現れたプレイヤーを見張ってるんだろうけど。
新規プレイヤーだった場合は、有利に行動できるよう呪文をかけようとしているはず。
ずっとここを見張ってるヤツらなら、俺が新顔だってバレてっかなー。
でも進まないことには依頼は達成できないし、俺は帰れない。

んでもツェズゲラってどうやって見つけりゃいいんだ。

指輪がデータとして保存しているのは指定ポケットのカードのみ。
つまりはフリーポケットのカードは全部リセットされてない状態だ。
だからリストを見ることもできないし、瞬間移動するためのカードもない。
……え、これって自力で歩いていけってこと?
集合地点は魔法都市マサドラらしいけ、ど。あそこって辿り着くのも大変なんじゃ…?

いやいやいや、考えててもしょうがない。
とりあえずマサドラに行くために、近い町に行かないと。
えーと原作でキルアが言ってたよな。視線を感じる方向に町があるって。
んじゃとりあえず北に……。

「………ん?」

空から降ってくる何かがある。って、人だ人!
わ、いきなり他プレイヤーが来た!ど、どどどうしよう。
いま俺のバインダーには貴重なカードが入ってる。これを無事届けるのが仕事。
バインダーの中身を調べられる呪文を受けたらヤバイ。
中身を奪われる呪文はもっとヤバイ。さらには殺される危険だってある。

「お前、ゲーム初心者か?」

突然現れたプレイヤーはすでにバインダーを開いてる。
あれだよな、まず俺がすべきなのは。

「ブック!」

その一言で、俺のバインダーが出現。
それだけで相手は少し警戒心を強めたようだった。
カードを取り出した男がそれを自分のバインダーに嵌めるのが見える。
もしかして俺のバインダーの中身を見ようとしてるのか?ライブラ的なカードがあるはず。
すると男の表情が変わった。あーあ、中身バレたっぽい。早速かよ…!

「こりゃあ掘り出しもんだな。にーちゃん、その貴重なカードもらってくぜ」
「それは困る。こっちも仕事なんでな」

カードに手をかけようとするプレイヤー。
俺は心の中で相手に謝罪した。ごめん、ちょっと反則技使わせてもらいます。

≪瞬きの時間(タイムラグ)≫

俺が瞬きを止めたと同時に、相手の動きが遅くなる。
これはいままで使ってきた念だけど、地道に修行を続けたり仕事の経験値もあって。
前よりも段違いに精度が上がり、こちらの速さも上がった。
相手が俺の名前を呼ぼうと口を動かしている間に、後ろに回り込んで手刀を叩き込む。

「ぐあっ…!?」
「………悪いな」

気絶してもらって、相手のバインダーを覗かせてもらう。
えーと、磁力(マグネティックフォース)とかあれば一発でツェズゲラに会えるんだけど。
………ないな。同行(アカンパニー)もない、か。

あ、えーといま俺が探してたカードはリストにある対象のもとへ飛んで行けるもの。
つまりは瞬間移動みたいなものだ。これは会ったことのある相手にしか使えない。
でも俺はデータを引き継いでるから、ツェズゲラの名前もリストにあるはず。
んー、せめて相手と会話できる交信(コンタクト)とか………ない……。
つかこのバインダー、対象からカードを奪うとか情報を盗む系のしかない!

簡単に移動できそうなカードはっと……再来(リターン)だけか。
これは指定した街へ飛ぶ、っていうカード。これでマサドラまで行くかなー。
すいません、カード一枚だけもらってきます。襲撃料と思って勘弁して下さい。
使い方は確か。

「<再来>使用(リターンオン)マサドラへ!」

俺の身体が光に包まれ、両足が地面から離れ空を舞う。
うおおお、俺いま空飛んでるよ!すげえ、これはちょっと感動ものだぞ!

眼下に広がるのはグリードアイランドの広大な地。

緑豊かな、青い海に囲まれた地図にはない島。



俺は無事にここから、抜け出せるんだろーか。





まさかのGI突入。生きて帰ってこい。

[2011年 11月 3日]