第82話

なかなかに快適な一室。グリードアイランドでの俺の部屋だ。
誰かの侵入を恐れる必要もない、唯一の安全地帯。
え、そんな場所があるのかって?あるんだなーこれが。

指定ポケットナンバー057「隠れ家不動産」

この部屋の存在を誰にも話さず、誰もこの部屋に入れない。
それを条件に俺の秘密の部屋を造ってくれるカードだ。
重複してるカードでツェズゲラが譲ってくれるものの中にそれがあり、俺が選んだもの。
やっぱ安眠できる場所欲しいもんなー。
ゲームクリアが目的じゃないから、俺は躊躇うことなくカードを使わせてもらった。

「クプー」
「ん?なんだ、腹減ったか」
「クア!」
「なんか食うもんあったかな…」

そんでもっていまは同居人が一人…いや一匹いる。
ソファから起き上がった俺の肩によちよちと小さな足で登ってくる小さなドラゴン。
実はこれも指定ポケットのカード。ナンバー051の「手乗りドラゴン」だったりする。

いやさ、現実で絶対に見れないじゃん?ドラゴンって。
だからどうせなら見てみたいなーと思って。ランクSのカードなんだけどもらってしまった。
手乗りサイズでまだ生まれたばっかり(俺がゲインしてまだ二週間ぐらいだ)
愛情こめて育てると人語も話すらしいから、ちょっとそれは楽しみだ。
………そんだけ長期間グリードアイランドに滞在するのは勘弁なんだけど。

俺の肩に乗って満足げにクプーと鳴くチビの鼻先をちょんちょんとくすぐってやる。
くすぐったいのか、クキュウ!と前足で鼻先を隠す。か、かわいい…!

「んー、とりあえずプチトマト食べてろチビ」
「クゥ」
「ほら、ヘタとったから」
「クプ―!」

あむあむとおいしそうにミニトマトを食べている間に食事の準備。
俺ひとりだとろくなもん食べないんだけど、小さな同居人のおかげでそれなりに作る。
人間の食べ物でも問題ないらしく、チビと俺の食事メニューはいつも一緒だ。
といっても小さいから、俺の半分ぐらいしかこいつは食べないんだけど。

ピンポーン

「…ん?」
『他のプレイヤーがあなたに対し<交信>を使用しました』

勝手にバインダーが出現し、女性のアナウンスが流れる。
誰だろうか、と応対すればツェズゲラからで。
なんか仕事の打ち合わせだかで一旦ゲーム外に出てたんだよな。帰ってきたのか。

『バッテラ氏と打ち合わせが済んだ。それで、お前に正式に仕事を依頼したい』
「……報酬は?」
『先日譲ったカード…といいたいところだが、別に出すそうだ。前払いで一千万ジェニー』
「………」
『そのまま契約するに値すると判断された場合は、一回につきさらに一千万ジェニー』

………えーとちょっと待ってください?
一回につき、ってなんですかね。え、これ何回もやらされる仕事なの?

「具体的な仕事内容を聞いていないが」
『それは直接説明しよう。磁力(マグネティックフォース)は持っていたな』
「…あぁ、俺がそちらに飛べばいいのか」
『よろしく頼む』
「………食事を済ませてからで構わないか」

いま作りかけなんだよ、もったいない。
でも失礼かな、急げとか言われるかなとびくびくだったんだけど。
かすかに笑う声が聞こえて、こちらも食事を済ませておくと応じてくれた。
よ、よかった…!なんだかんだ、けっこう優しいよなツェズゲラって。

一度通信を切って、俺は料理を再開。
お腹が空いてしまったチビは、耐え切れず俺の肩をさっきからうろうろ歩いている。
待て待て、いま作るから。ってこら、頭に乗るな髪がぐしゃぐしゃになるだろうが!






「それでは今回の依頼についてだが」

ツェズゲラと合流した俺は人目のつかない森の中で説明を受けていた。
なんでも近いうちにバッテラはプレイヤーの選考会を行うそうで。
今回はちょっと大がかりなものにしたいとのことだった。

すでにバッテラは三十本のゲームを手に入れている。
けれどひとつの本体に対してプレイ可能人数は八人。セーブしないでいいなら無制限。
バッテラはカードこそを欲しがっているから、セーブは大前提になる。
そうなると、いまプレイしてる人数は二百四十人ほどということに。
あと俺がこの間届けた荷物が、新しいグリードアイランドだったそうで。
その選考会と別に、新たにできた穴を埋めるための選考会もやるらしい。

「…新たにできた枠ってのは?」
「お前も知る通り、このゲームは簡単に死ぬ。そうなればメモリーカードに空きができるだろう」
「……あぁ、なるほど」
「その場合は別に問題はない。新しく人員を募ればいいだけのこと」
「?じゃあ…」
「今回は、プレイする意欲を失った者を探して契約を破棄するのが目的だ」
「契約を破棄…」

あまりに難易度が高いために、そもそもゲームから出ることすらできない者も多い。
そして最終的にはグリードアイランドに定住してしまうプレイヤーも出ているのだ。

「バッテラ氏の契約は、グリードアイランドをクリアすることが大前提。すでにそれを諦めているものに渡すメモリーカードなどない」
「…確かに」
「いまプレイしている者たちのリストはここにある。現在プレイ中断を希望している者の目星もついているから、お前にはそいつらを回収して港まで誘導してほしい」
「ゲームの外に出してやるってことか」
「あぁ。いま所有しているカードを俺たちに譲るのが条件だがな」

ゲームから出たいと思ってるなら、カードなんていくらでも渡してくれるだろう。
っていうか俺が一番出たいんですけどね…?なんでこんなことに。
まあ、カードと人を運ぶ仕事ってことで納得するしかないか。

渡されたリストを確認すると、確かにけっこうな数いる。これ皆、諦めかけてる人達かー。
俺も前情報なしでここに来たら絶望してるだろうしな。なんつーか、ホント難しいよ。
説明もなしに身体で覚えろ、って感じのゲームだもんな。昔のRPGって感じ。
最近のゲームはホント親切設計で、行く先まで矢印で教えてくれたりするもんなぁ。

「クプ、クプー」
「…随分と懐いているな」
「賢いよ、こいつ」

何やら鼻息荒くリストを覗き込むチビ。
ゲームを放棄しているプレイヤーたちに対して怒ってもいるようだった。
よしよし、と人差し指で眉間のあたりを撫でてやると気持ち良さそうに目を細める。

「…動物が好きなのか」
「人間といるよりは楽。緊張せずに済む」

そりゃ猛獣と一緒にいるのは嫌だけどさー。
動物って素直だからわかりやすくていいよな。人間て怖い。
何考えてるかわからないし、何よりこの世界物騒すぎるし。そんでもって俺人見知り。
キルアやシャルみたいに親しい相手ならいいけど、そうでないとなると。
もうちょっと自然体で誰とも話せるようになればいいんだけどな、なかなか…。

「では、契約成立で構わないかな」
「…わかった」

戦わないといけないわけじゃないし、まあいっか。
しっかし人数多いな…。………って。

「一回につき一千万って言ったな」
「あぁ」
「…つまり、定期的にこういうサルベージを行うってことか」
「察しがいいな」

うそん、マジで一回じゃ終わらない依頼なのこれー!?







指定ポケットのカードを躊躇いなく使いまくる主人公。

[2011年 11月 6日]