第84話

グリードアイランドに入って、軽く半年過ぎたぜいえーい。
その間に何回サルベージ手伝わされたかわからなくなってきたぜいえーい。
といっても、契約破棄のメンバーを集める以外じゃ仕事なくて暇なんだぜいえーい。

………うん、ごめん変なテンションで。
けどさ、帰りたいのに帰れず半年以上…俺が壊れるのも仕方ないと思っていただきたい。

「クプー?」
「……うん、まだ平気だ。ありがとな」
「クプ!」

ベッドでごろごろ寝転がる俺の傍によちよちやってきて、小さな舌で舐めてくれるチビ。
あーこいつが唯一の癒しだ。天空闘技場でキルアと過ごしたことを思い出すなぁ。
……っていうか俺、ゲームの外じゃ音信不通になって半年ってことだよな。
一応、イルミに別件の仕事が入ってるからってメールしたけど。それから半年だもんな。

イルミから仕事がくるのは突然。
だから別に仕事を請け負ってるときはメールで知らせる。
そんでその仕事が終わったらまたメールして、フリーになったことを伝えとくんだ。
俺から任務終了のメールが入らないってことは仕事が終わってないということ。
そう理解してもらってると思うけど、半年はさすがになぁ。
死んだ、とか思われてそうな気も…しなくもない。

他にもこの世界での知り合いはちらほらできたから、その人達から連絡入ってたらどうしよう。
もともと音信不通気味ではあるけど(携帯をとにかく放置する癖がある)

「……このままは、マズイよな」
「クー?」
「よし」

やっぱり一度、ゲームの外に出させてもらおう。







ツェズゲラに外に出させてもらえないかと聞いてみたら、意外にもOKが出た。
次のサルベージまでには時間があるらしく、そのときになったら連絡をくれるとのこと。
やったー!ゲームの外に出れるー!また戻らないといけないんだけど!
渡されたのはまさかの離脱(リーブ)で。入手難度がBなのにいいんだろうか。
思わず沈黙すると、仲間内にはこれを使ってもらってるとツェズゲラが笑った。

「…ありがとう。あ、それと」
「何だ?」
「チビなんだが、預けてもいいか」
「お前の手乗りドラゴンをか?」
「ゲームの外に出るとカード情報がリセットされるだろ。それは困る」
「クプー?」
「せっかくここまで懐いてくれたし」

顎の下をちょいちょいと撫でてやれば、気持ち良さそうに目を細めるチビ。
可愛いよなー。こいつがいなくなっちゃうのは困るんだ、ホント。
なんともいえない顔で俺を見ていたツェズゲラはそれでも頷いてくれた。
ケス―に預けておく、という言葉に俺も頷く。チビ、けっこうケス―に懐いてるからな。

「じゃあ、日取りが決まったら連絡をくれ」
「了解した」
「<離脱>使用(リーブオン)!」

手にしたカードが光を放ち俺を包み込む。
強い浮遊感を覚え、視界が真っ白に染まった。

「おかえりなさいませ」

そして目を開けば並ぶグリードアイランドのゲーム機たち。
俺を出迎えた使用人のひとりに指輪を差し出す。
これは俺用にと譲られたものだけど、やっぱりアイザックに悪いし。
それになくしたりしたら困るから、ここの人達に預けておいた方がいいだろう。
また入るときに渡してほしいと話せば、かしこまりましたと受け取ってくれた。

とりあえずバッテラの屋敷を出るために部屋を出て、長い廊下を歩きだす。
ずっと荷物に入れっぱなしだった携帯を取り出し電源をつける。
溜まっているメールを確認すれば、シャルやイルミから安否確認のものが何通か。
………まあ「何してる?」とか「生きてる?」とか短いメールばっかりだけど。

「生きてるっつーの」

シャルには後でメールするとして、イルミには事情説明しないとな。
えーと、仕事が長引いて…しかも長期契約になりそうだ、って送っておこ。
屋敷から出る頃、今度は着信履歴を確認。………って、キルアから何回もきてるじゃん!
慌てて履歴からキルアの電話へかけてみる。

呼び出し音が何度も鳴るけど、応答はない。
んー…いまなんか用事してるとこかなー。

『………もしもし?』
「キルア、連絡つかなくて悪い」
『…………?』

あれ、俺の名前表示されてるはずなのにキルア驚いてるぞ。
というかぼんやりしてる?

「寝てたのか。起こしたんなら…」
『…あ、ち、違う。起きてたよ』
「…ならいいが」
『なぁ
「ん?」
『いま、どこにいる?』
「…ヨークシンからそう遠くない場所だけど」

なんでわざわざそんなことを聞いてくるんだろうか、と不思議に思っていると。

『………会いたい』

かすれたキルアの声が、耳に届いた。







いつもと違う声だった。
あんなに消え入りそうな声で「会いたい」と言われたことなんてない。
俺はキルアがいまどこにいるかを確認して、すぐさま電話を切った。
そのまま凝を使ってオーラを足にまとい、できうる限りの速さで地面を蹴る。

どうしたんだよ、何があったんだキルア。
会いたいと言ってくるのは珍しくない。キルアは甘えん坊だ。
だけど、あんな声は初めてで。嫌な予感が胸を締め付ける。

俺がいる場所とは違う大陸にキルアはいるみたいで、飛行船を使わないといけない。
そうなるとどうしたって数日はかかる。あーくそ!
携帯でチケットの手配を済ませてから、俺はスピードを落とさないままふと履歴を見る。
そうだ、キルアの異変なんてイルミならとっくに知ってるんじゃないか?
聞いてみよう、と電話をかけてみる。

『死んだと思ってたんだけど』
「開口一番それか」
『長期契約って何それ。俺に断りもなしに何やってんの』
「お前に断る必要は…って、いまはそれはいい」
『何』
「キルア。何かあったか」

すると返ってくるのは沈黙。げ、やっぱり何かあったのか。

『………反抗期?』
「疑問形で言われても」
に何か言ったの』
「いや、電話したら様子がおかしかったから。これから会いに行くところだ」
『ふーん。それであんなこと言い出したんだ』
「あんなこと?」
『いまキル仕事で外にいるんだけど。泊まってく、なんて言うから』

いきなりどうしたかと思ったんだよね、と淡々とイルミの声。
そうか、なんでゾルディックの家にいないんだろうって不思議だったけど仕事か。
………仕事ってあれだよな?その、暗殺。

が合流するんならいいや。キルのことよろしく』
「…あぁ、それは構わないけど」
『あと、反抗期をなんとかして』
「それは家族の仕事だろうが」
『それもそうか』

素直に納得して、「じゃ」と切られてしまう。
反抗期って…まあ、もともと背伸びしてたというか大人びた言動は多かったけど。
キルアが何かを抱えているというのは確からしい。
あーもう、何度も電話くれてたのにそれに出られなかったなんて。
どうしようもなかった、と頭ではわかるけど。それでも。

キルアがSOSを出したそのときに。
すぐに応えてあげられなかった自分が、悔しかった。







久しぶりに現実世界へ仮出所。

[2011年 11月 13日]