第85話

キルアがいる町から一番近い空港に降り立ち、そこからまたダッシュ。
飛行船の中では休養をとったし、オーラを遠慮なく足にまとって駆け出す。
これで電車とかよりも速く走れるんだよな。それを教えてくれたのはシャル達だったっけ。
ものすごくオーラも消費するんだけど、念の使い方にもだいぶ慣れてきた。
前よりも「凝」や「堅」をしてられる時間は格段に伸びている。
うんうん、死線彷徨ってるだけのことはあるよな。

俺の念能力のひとつ≪瞬きの時間(タイムラグ)≫も使って時間短縮。
オーラが尽きようが構わない。一刻も早くキルアのもとへ行きたくて。

久しぶりに息切れしてきたぞ…!

キルアが教えてくれたホテルに入って、念を使ってロビーの受付を抜ける。
完全に侵入に近いけど、部屋番号も教えてもらってるしさっさと行きたかったんだ。
エレベーターなんて待ってられないから階段を駆け上がっていく。
ちょ、ちょっと関節と筋肉が悲鳴上げてるかもしんないけど…!が、頑張れ俺っ。

部屋の前まで来て、キルアの携帯に電話。
ついたら電話するとメールしておいたから、すぐに鍵が開く音がした。

「……?」

ひょっこりとのぞいた白銀の髪。
少し不安げに揺れる猫のような目。前に見たときよりも大きくなってる。
子供の成長って本当に早い、と妙なことに感心してしまった。

………っていうか、けっこう元気そう?

あんまりに頼りない声だったからすごく心配してたんだけど。
まあ、いつもよりはおとなしいけどひどく落ち込んでる様子もない。
どうやら心配のしすぎだったらしい、と安心して身体の力が抜けた。

「………はぁー………」
「ちょ、おい!!?」

どっと疲れが出てきて、そのまま目の前のキルアに寄りかかる。
身長差からいって圧し掛かるに近い気もするが、俺はぐてーとキルアに体重を預けた。
ゾルディック家の子供だ、俺の体重ぐらいじゃ別にびくともしない。
けど慌てた様子で俺の背中に腕を回して、大丈夫かよ?としきりに心配してきた。

「悪い…ちょっと疲れた」
「無理して来たんだろ。………ごめん」

あれ、やっぱりちょっと落ち込み気味?
しゅんとした声に俺はキルアの肩に顎をのせたまま、ぽんぽんと柔らかい髪を撫でた。
別に妙な遠慮はするなよー、甘えられるのって嬉しいんだしさー。

「謝るな。いくらでも呼んでくれていい」
「けど」
「キルアが呼ぶなら、飛んで来るから。…電話、とれなくてごめん」
「仕事だったんだろ、仕方ねーじゃん」

それはそうなんだけど、でもさ。
って、廊下でこのまま話してんのもなんだな。
なんとかだるい身体を離して部屋に入っていいか尋ねる。
小さく頷いたキルアは俺の手を引いて中に入った。
どうやらオートロック式らしく、扉が閉じると同時に鍵も閉まる。

あー、つっかれた。だめだ、一気に疲労が。
どかりとソファに腰を下ろす。やべ、このまま寝そう。

?」
「……ごめん、キルア。ちょっと…寝かせてくれ」
「え」
「せっかく会えたのに、悪い」

こんなに長時間オーラを使ってたことはなくて。
俺はそのままあっという間に意識を失ってしまった。






熟睡した俺が目を覚ますと、キルアが目の前にいて。
安心したように笑ったから、俺は寝ぼけた頭で心配かけたのかもなと思った。
やって来た客が目の前でいきなり寝こけたらびっくりするよな、ごめんごめん。
わしゃわしゃとキルアの頭を撫でてから、俺はシャワーを借りるため立ち上がった。
ここまで全力疾走だったから、汗とかすごくて。気持ち悪い。

俺がシャワーを浴びてる間にキルアはルームサービスを頼んだらしく。
バスルームから出ればおいしそうなご馳走がずらりと並んでいた。は、早い。

「………けっこう頼んだな」
「えー、これでも足りなくね?つか早く服着ろよ!」
「んー…面倒臭い」
「はああ?」

まだ身体重いんだよー。少し寝てちょっとマシになったけどさ。
そんでもってシャワー浴びたら余計に力が抜けたというか。あー、髪乾かすのも面倒。
とりあえずなんとかズボンは穿いてるけど、上の服に袖を通すのが…うん、疲れすぎた。
そのままソファに腰を下ろすと、キルアはぶちぶち文句を言いながら食事に口をつける。
ものぐさな大人でごめんよー、あともう少し休んだらちゃんと着るから。

「元気にしてたか?」
「それはの方だろ。兄貴が死んだかもとか言ってたんだからな」
「イルミ……。ちょっと急に長期の仕事が入って、携帯を使えなかったんだ」
「ふーん」
「怪我とかもしてないし、俺はむしろキルアのが心配」
「俺?」
「電話で声聞いたとき、いつもと違ったから」
「あー…それほど深刻じゃないんだけどさ」

ハムスターのように肉を頬張り、キルアは微妙に視線を泳がせた。
億劫に思いながら俺もとりあえずパンに手を伸ばす。あー噛むのもだるい。

「進路について?なんか迷ってるっていうか」
「…進路?」
「このまんま家継ぐだけでいーのかなって」

キルアくん、まだ小学生の年齢です。
だというのにすでに家を継ぐことについて考えている模様。
…ま、そうだよな。ゾルディック家でもピカイチの才能の持ち主らしいし。
常日頃からきっと優秀な暗殺者になると期待されて育っているんだろう。
イルミとかキキョウはその筆頭で、シルバやゼノだってキルアを跡継ぎと決めてるはず。

はどう思う?」
「何が」
「俺の将来」
「………決めるのはキルアだろ」
「わ、冷てーの」

そりゃ俺だってキルアに人殺しなんかしてほしくないよ。
でもいまここで下手に口出したらイルミに殺されそうじゃないか(まず保身)

それにさ、キルアは俺が何か言わなくても自分で決められるはずだ。
自分で決めて、その先に色々な出会いを重ねて。
そうして大切な仲間と、かけがえのない親友を手に入れることを俺は知ってる。

「キルアが決めたことなら、俺はなんでも応援するよ」
「………なんだよそれ」
「キルアはキルアだ。ゾルディックだろうとそうでなかろうと、大事な存在だよ」
「…っ…、は、ハズイこと言ってんじゃねーよ!」

おお、顔赤くしちゃって。
昔から割と照れ屋なところあったけど、最近じゃますますそれに磨きがかかってきた。
そうだよなー、どんどん成長してくんだもんな。立派な男の子になっていくわけだ。
はあ、こうして甘えてくれんのもあと少しなのかなぁ…ちょっと寂しい。

「………はさ」
「ん?」
「何でいまの仕事してんの」

え。なんでも何も。

「………生きるため、と……なりゆき?」

イルミに殺されたくなかったのが理由です、はい。
そしてそのままいつの間にやら仕事の依頼が続くようになってました、はい。
いまじゃお得意様がかなりの数いらっしゃいます。

………………………。
俺普通の仕事につきたいんですけどもおおおおぉぉぉぉ!!!
むしろ将来とか進路に不安覚えてんの俺じゃん!何運び屋の仕事に馴染んでんの!?
ちょ、いかん、これはいかん、危険な流れだ。やっべ、気づかなかった。
そうだよ、いい加減そろそろ普通の仕事見つけたい。でも身分証ないとそれは無理なわけで。

っていうか、元の世界に早く戻りたい。
………その手がかりはいまだ見つかっていないわけだが。

?」
「…ホント、なんでこの仕事してんだろうな俺」

なんか俺が人生の迷路に迷い込んでいることに気づいてしまったよ、ははは。
深々と溜め息を吐く俺に、キルアが慌てたのか隣にやって来た。
なに暗くなってんだよ?と覗き込むキルアは優しくて良い子だ。
…ああでも、もうちびっ子ってサイズじゃなくなったな。少年だ、少年。

「キルア」
「なに…って、おい!?ちょ!!」
「しばらく抱き枕になっててくれ」
「はあああ!?おま、今日おかしいぞ!!」
「慰められたい気分なんだ」

うえーん、キルアを励ましに来たはずなのに俺が甘えてどうすんだよー。
ホント俺ってダメな大人、ってことを痛感して。

……余計に落ち込むという悪循環に陥っていた。






ぐっだぐだな主人公です。

[2011年 11月 19日]