第86話

えー、ぷんすか怒るキルアくんに服を着せられました。
いかんいかん、俺が弱ってどうするよ。いまさらな壁にぶち当たったぐらいで。
とりあえず気を取り直して食事再開。
せっかく久しぶりに会えたんだし、一緒に数日は過ごそうということになって。

一応イルミに連絡して、俺はキルアと共に天空闘技場へ向かった。

「いらっしゃいま………あ、さん!」
「久しぶり、イリカ」

馴染みのケーキ屋に足を運ぶと、笑顔で迎えてくれた店員のイリカ。
この店に来るのも半年以上ぶりだもんなー、くー早く食べたい。
久しぶりに来たせいかちょっと落ち着かないらしく、キルアはなんでか俺の後ろにいる。
天空闘技場にいた頃は数日に一回ぐらいの頻度で来てたのに、シャイだな。

「二人揃っては久しぶりだね」
「店長」
「ゆっくりしていって」
「ありがとうございます。イリカ、いつもの席座らしてもらうけど」
「はい、もちろんどうぞ」

キルアの背中を押して奥のテーブルへ。
メニューを見てみれば、食べたことのない新作がけっこうあった。
わー、きっと俺が来てない間の期間限定メニューもあったんだろうなぁ、悔しいぞ。
どれにする?とキルアに聞いてみると、食べたことないの全部!と笑顔全開だ。
キルアも甘いもん大好きだもんなー。

ゾルディックに行くときはこの店の品をお土産にしたりしてたけど。
やっぱり現地で食べるのが一番だよな、うんうん。

「イリカ、注文いい?」
「あ、はい」
「ほらキルア」
「えっとー、これとこれとこれとこれと…」

遠慮なく凄まじい量を注文するキルア。
俺はいつも通り店長のおすすめを頼んで、新作ケーキはキルアのをひと口もらうつもりだ。

馴染んだ席、ここから見える外の通り。
落ち着いた店内の空気と、ふわりと香るケーキと紅茶の匂い。
ああようやく現実の世界に戻ってきたんだな、と実感する。
いや、グリードアイランドも現実に存在する島なんだけどさ。なんかもうあそこはな。

「お待たせいたしました」
「ありがとう。沢山頼んでごめん」
「いいえ、どれもおいしいですから楽しみにしていてください」
「………確かに、おいしそうだ」
「うわー、どれから食べよっかな」

フォークを手に並んだケーキを眺めるキルア。
口からどころか目からもよだれが出そうな勢いだ。
くすくすと笑うイリカと共に俺も苦笑してしまう。無邪気な顔見れるのは嬉しいけどな。
食後の歯磨きもちゃんとさせないと、虫歯になりそうだ。

「キルア」
「んー?」
「ひと口もらうぞ」
「あー!」
「うん、うまい」
「なんだよ自分で頼めよな!」
「さすがに全部を食べきる自信はないから、お前のをひと口ずつもらおうかと」
「やだよ俺だって全部食いてーもん」
「油断大敵」
「ああー!!!」

まったりほのぼのな時間を満喫。
どこか行きたい場所はあるかとキルアに確認して、今後の予定を計画。
なんだかんだで家業のことで煮詰まってはいるみたいだし、気分転換にはいいだろ。

あ、けどケーキ食べたらすぐ出発するからな。ここはあのピエロがいる可能性がある。
出来るだけ危険は避けたいので、退避だ退避。






キルアとゲーセン行ったり、買い物したり。
数日は本当にひたすら遊んで過ごした。お兄さんちょっと疲れたよ、ってぐらいに。
でもキルアの顔がどんどん明るくなっていったから、もうそれだけでいいかって思えて。
ゾルディックに送り届けるときには寂しくなってしまったりもした。

、寄ってかねーの?」
「俺がいたら、キキョウさん達がキルアとの再会に集中できないだろ」
「別にいーよあんなん。過保護すぎだっつーの」
「家族の愛情を無碍にするな。愛してもらえてるって、幸せなことなんだから」

ぽんと頭に手を置いて撫でてやればおとなしくなるキルア。
口は尖らせてるけど、とりあえずは帰宅してくれる気になったらしい。
よ、よかった、このままじゃ俺キキョウさんに切り刻まれるフラグが立つところだった。
仕事入るときは俺にもメールしろよな!と怒った顔で試しの門をくぐっていく。
えーと、いまキルア門を越えた、ってイルミにメールっと。

よーし、これで俺の任務というかすべきことは終了だ。
キルアと久々に遊べて楽しかったなー。ゾルディック家だとのんびりできないし。

ピルルルルルル

「もしもし?」
『あ、久しぶりー』
「……すごいタイミングだなシャル」
『何が?』

ひと段落したところで掛けてくるからだよ。

いったい何の用事かと思えば、石版の情報について伝えたいことがあるそうだ。
あ、そうだよな。半年も音信普通だったから色々と溜まってそうだ。
俺がいまパドキア共和国にいることを伝えると、シャルも同じ大陸にはいるとのことで。
じゃあ中間地点で落ち合おう、と打ち合わせて電話を切る。

俺はこの世界の人間じゃない。だから元の世界に帰らないといけない。
そのことを最近じゃ忘れかけていて、愕然とした。
キルアに会うまでほとんど考えてなかったもんな、帰る方法。

それだけこの世界での生活に慣れてきたんだろうけど。
やっぱり俺はここじゃ異分子なんじゃないか、って思う。キルアとかシャルは好きだけど。
でもじーちゃんに会いたいし、この世界は危険が溢れすぎてて。俺には生き辛いわけだ。
うう、平和な日本に帰りたいよ…!!そもそもなんでここ来ちゃったの俺!

悶々とそんなことを考えているうちに、シャルと待ち合わせした駅に到着。
すでに着いてたシャルは相変わらずの笑顔で手を挙げてやって来た。

「グリードアイランドやってんだって?」
「…相変わらずの情報の速さで」
「面白い?」
「仕事で入ってるだけだから、そういうのは感じない」

むしろ、命の危機に瀕してるんで楽しくないです。

「ちょっと行ったところにホテルあるんだ。そこに部屋とってるから行こう」
「わかった」

近況とか伝え合ったりしながらホテルへと向かう。
俺がゲームの世界にいるうちにすでに新しい年を迎えていたらしく。
…そういえば新年のどーたらこーたら、ってイベントがグリードアイランドであった気も。
日本式の年越しなんてできないから、完全に寝て過ごしたけどな。残念すぎる。

シャルが宿泊するホテルに入り、持参してたらしいパソコンで石版の情報を見せてもらう。
俺の記憶もここ数年の間にだいぶ曖昧になってて。
じーちゃんに触らせられた石版ってどんなだったっけーって感じになりつつある。
明らかに見て違うものはいいんだけど、微妙なとこのもけっこうあるんだよなー。
判断がつかないものは情報を控えさせてもらって、シャルにお礼。
今回の報酬はどうするかと確認すれば、この後の食事に付き合ってよと笑顔。

「…なんかいつもそれで悪い気がする」
「いいって。それに今回はが嫌がるかもしれないメンツだし」
「は」
「旅団の連中、上のバーに集まる予定」

は?

「もう年越ししてけっこう経つけど、顔合わせしてないし。集まれるヤツは集合って」
「………このホテルのバーに?」
「うん。パクはもう来てたよ、確か」
「…それに俺も参加しろと」
「うん」

ぎゃあああああああああああああああ!!!!






旅団に関わりたくないと思っても無理です、そろそろ諦めましょう。

[2011年 11月 20日]