悲劇の幕開けか、喜劇の幕開けか。
[2011年 11月 20日]
「あら、も参加するの」
「あれ、まだパクだけ?」
「ノブナガとフィンクスはまず食事ですって。お酒はその後」
「あぁ、あいつらはむしろバーには来てほしくないよなー」
確かに、ものすごくお店に迷惑かけそうだよな。せめて飲み屋行け、って感じだ。
というかお酒買ってアジトで飲めばいいんじゃね?と思う。
鬱々とした気分でテーブルに腰を下ろすと、何飲む?とメニューを渡された。
……俺、酒ダメなんだけど。こういうとこでもアルコールなしのって頼めるんだっけ?
あ、ノンアルコールカクテルとかあるんだ。へー。
「早いな、お前たち」
「あ、クロロ。久しぶり」
ちゃんとしたホテルのバーだから、割ときっちりした格好でクロロが姿を見せた。
髪はいつものように下ろしていて、またもイケメンオーラを垂れ流している。
興味を引かれたノンアルコールカクテルを注文していると、クロロが向かいに座った。
「も来たのか、楽しめそうだ」
「…こういう場は得意じゃないんだが。それより、シャルとクロロは会うの久しぶりなのか?」
「俺たちいつも一緒にいるわけじゃないし。年末の<一年お疲れ吐き出し会>以降会ってない」
…何そのソーゼツそうな会。
「基本は自由だからな。仕事にしたって、強制参加のことはほぼない」
「ヒソカとかまだ一度もまともに参加したことないんじゃない?」
「いいんじゃないかしら。マチの機嫌が悪くならなくてすむし」
「そういえばマチはどうした?」
「仕事らしいわ。後から来るとは言ってたけど」
マチとはちょっと会いたいなー。ヒソカにはまったくもって会いたくない。
ウボォーとかフェイタンにも会いたくないんだけど。怖い。
フランクリンは見た目怖いけど、実はけっこうまともで落ち着くんだよなー、来るといいな。
あれ、そういえばここのお勘定ってどうするんだろうか。
幻影旅団だから払うことはしない、って言われたら困るんだけど。無銭飲食はちょっと。
「なんだ?珍しい顔がいるじゃねえか」
「つったか…シャルも本当にそいつ気に入ってるな」
フィンクスとノブナガがスーツ姿でやって来た。
…って、はっはっは!髪下ろしたノブナガ落ち武者みてえ!!
かっこいい、かっこいいけどさ、なんか結ってる姿見慣れてるから変な感じ。
それぞれ適当に注文してテーブルを囲む。
……すごいな、ここにA級首がごろごろしてるってのは。
ここに賞金稼ぎが来ちゃったらどうしよう、と乾いた喉をカクテルで潤す。
お、ノンアルコールだけど十分おいしい。
ソフトドリンク頼むしかないかなーと思ってたから、ちょっと嬉しいぞ。
団員の皆はそれぞれ短く近況を話した後、ばらばらと散っていく。
え、あれ?とびっくりしたが、本当に顔を見るのが目的だったらしい。
あとは自由行動になるようで、カウンターに移動したり夜景を眺めたり。
テーブルに残ってるのは結局は最初にいたメンバーだけ。
………というかあの短い時間でどんだけ飲んだんだこいつら。グラスがごろごろ。
「これも甘くておいしいよ」
「いや、俺は」
「おいてめえ、スーツが汚れたじゃねえかよ」
なんだか厳つい声が聞こえてきて、俺たちはバーの入口へ目を向ける。
どうやら外へ出ようとしていたフィンクスが、バーに入ってきた客とぶつかったらしい。
ぶつかった相手は随分と体格もよくて強面だ。多分そのヤバイ仕事のひとなんだろう。
なんだろうけど、もっとヤバイ職業してひといるから!逃げておじさん!!
「あぁ?もともと大したもんじゃねえだろ、気にすんな」
「なんだとぉ?おいおい、なめた口利いてくれるじゃねぇか」
「ちょっと、こんなとこでやめてよ」
「うっせえ、お前は黙ってろ!」
「きゃっ」
あーあ、連れてきた女のひと突き飛ばしちゃって。
いやだから喧嘩売る相手間違ってるってば、ホントやめとけよー!
「…あいつらは騒ぎが好きだな」
「止めないのか」
自己責任だろ、とひょいと肩をすくめるクロロ。
パクノダとシャルナークも我関せずといった表情で、マイペースに酒を飲んでる。
いやいや、だいぶ店内がざわついてんだけど?店の人達慌ててるけど!?
フィンクスに手を伸ばそうとしたおじさんは、次の瞬間吹っ飛んでいた。
自分よりもはるかに大きい身体を、フィンクスが片手で放り投げたんだ。
凄まじい音を響かせて男はカウンターの方へと突っ込んでしまう。
グラスが割れる音がして、客や店員が悲鳴を上げて逃げる。
ちょ、ちょっと、酒とかもダメになってんじゃないのあれ。
「ちょっとクロロ―、あれじゃ新しい酒頼めないじゃん」
「…勝手に好きなのをもらってくればいいさ。誰も見てない」
「プロが入れるからうまいのに。、おかわりは?」
「………アルコールじゃないならなんでもいい」
「えーと、これウーロン茶かな」
「ありがとう」
適当に散らかってる瓶の中からシャルが拾ってくる。
それどころじゃない俺はフィンクスと男のやり取りをはらはら眺めていた。
ちょ、ちょっとおじさん、諦めなよ、立ち上がらなくていいから…!
ほら、連れの女のひと怖くて泣きそうになってるじゃん!
新しいグラスを渡され、中身を確認しないままとりあえずひと口。
「ぶっ!!」
「ちょ、どうしたの」
「おまっ………これ、ウーロン茶じゃな…」
「え、そう?カンジとかいうので書いてあったから、そうだと思ったんだけど」
のどが、のどが焼ける…!!
こんなお茶があってまるか!生姜湯とかこんなのに近いのあるけど!!
シャルが手にしてる瓶のラベルを見て、俺は硬直してしまった。
泡盛。
A・WA・MO・RI
「茶」って字なんかひとつもねえじゃんかよおおおおお!!!!?
え、うそっ、この世界にも泡盛とかあんの!?沖縄とかそれに近い場所があるのか!
そうだよなジャポンがあるんだしな、リューキューとかあったって驚かん。
にしたって、よりによって泡盛…こ、こんな度数強いもんを。
ヤバイ、くらっくらしてきた。
悲劇の幕開けか、喜劇の幕開けか。
[2011年 11月 20日]