第89話―シャルナーク視点

せっかく酒を楽しんでたのに騒がれたのが気に食わなかったのか。
基本自分から喧嘩を売ることのないが珍しくフィンクスと手合せすることを了承した。
なんか気が立ってるみたいだったけど、ホント珍しい。
静かに過ごすの好きそうだもんなー、確かにフィンクスはうるさいよね。

せっかくクロロやパクと楽しんでたのに、邪魔してくれる。
後で嫌がらせしてやらなきゃ、と考えながら二人の後を追った。

「ここならよさそうだな」

ホテルからそれほど離れてない場所にある公園。
そこに到着した二人はすぐさま始める気満々みたいだった。
拳の骨を鳴らすフィンクスには小さく頷く。
それを見てにやりと笑ったフィンクスは、勢いよく地面を蹴った。

「行かせてもらうぜ!」

まずは小手調べ。
一直線に向かった拳をわずかに身体をずらすことで回避。
そのまま流れるようにフィンクスの腕をつかみ、が身体を投げようとする。

「おおっと!」

けどそれを察知したフィンクスは腕を振り払い、一度距離を置く。
でもまたすぐに地面を蹴ったかと思うと、今度は上段から蹴り。
一歩二歩後退するだけで避けたがさっきまでいた場所に攻撃は当たる。
遠慮なしのフィンクスの一撃で石畳が割れ吹っ飛ぶ。
飛び散った破片がの服だけでなく頬や手足を裂いた。

痛みに頓着しないのか、の顔は変わらない。
ただ頬から流れる血をぬぐってじっと見つめ、ぞわりと殺気を溢れさせた。
どうやら火が点いてきたらしい。見ているだけの俺も、血が興奮にざわめいてきた。
となればフィンクスなんてもう大喜びなわけで。

「おらおらぁ!かかってこいって!!」
「………うるさい」

低く唸るのまとうオーラがどんどん膨らんでいく。
感情をあまり映さない瞳が、眇められていく。

「…そうそう、そうこなくっちゃな。本気でいくぜ」
「………」

フィンクスのスピードがどんどん上がっていくのは、相当楽しんでるんだろうなぁ。
興奮すればするほど力が増すのは強化系の厄介なところ。
普通なら目で追うことも厳しい速さだけど、は焦る様子もなかった。

「黙れ」

一言呟いたかと思うと、正確にフィンクスの頭部めがけて手刀。
それを紙一重でかわしたフィンクスだったけど、わずかに爪先が頬をかすめたらしい。
まるでお返し、といわんばかりにかすっただけの頬から血が一筋流れ出す。
フィンクスだって堅でガードしてただろうに、爪先が触れるだけでも傷をつくるのか。

ってどの系統なんだい」
「…あれ、マチ。いつの間に」
「いま来たとこ。この騒ぎはなんなんだよ」
「フィンクスが悪乗りしてさー」

仕事で遅れて着ることになってたマチは、荷物を肩にかけたまま呆れた顔。
大の男二人がこんな場所で暴れてんだから当然か。

「フィンクスと渡り合ってるし強化系?でも性格的にちょっと違うよね」
「…相手のオーラを無効化する能力か、単純にオーラの総量が違う…のはありだと思うかい?」
「うーん、…フィンクスをあっさり超えるほどのオーラ量なんて化け物だけど」

ま、俺たちが言うのもおかしな話だけどね。
実際、フィンクスの力は化け物並みだし。一番化け物なのはウボォーだけど。
なんてことを考えてたら、に反撃しようとしてたフィンクスが停止した。
何してんの?と思った次の瞬間には、の拳が腹に深く入って吹っ飛ぶ。

「ぐおっ!!」

うわー、いまのはかなり痛そー。
フィンクスが突っ込んだ先の木々が薙ぎ倒されてるよ。
打たれ強いヤツだから、こんなことじゃ諦めないだろうけど。

「………ペッ。いまのは効いたぜ」

やっぱ起きてきた。ていうかさらにやる気満々。
ああもう、このままじゃ終わらない。

「ストップ、ストーップ!!二人ともいい加減にしろよ!!」
「うっせえ、邪魔すんなシャル」
「邪魔してんのはどっちだよ。せっかくバーで楽しんでたのに滅茶苦茶にしてさ」

お前の喧嘩仲間じゃなくて、俺のトモダチなんだからさ。

「フィンクス、知ってると思うけど。俺は自分の気に入ったものを他人に好きにされるのは嫌いなんだ」
「………なんだお前そっちのケでもあるのか?」

あ、そういうこと言っちゃう?
相変わらずフィンクスってバカだよね。
言っていいことと悪いことの区別ぐらいつけようよ。学習しないな。

「って、待て待て。何アンテナ出してんだお前」
「言ってわからないなら、身体で覚えてもらおうかと思ってさ」
「落ち着け、落ち着け。冗談だろ冗談」
「冗談っていうのは空気を読んで言えよ」
「だー!マジになるんじゃねえよ!って、おい!あっち見ろあっち!」

俺の意識を逸らそうとフィンクスが背後を指さす。
そう簡単に許してもらえると思うなよ、と睨みながら振り返って。

フィンクスへの怒りを忘れそうになった。

いつの間にやらとマチが並んでた。っていうか、抱き合ってた。

マチが慌ててるから、厳密にはが抱き着いたんだろうけど。
抵抗してみせるマチをさらに抱き寄せて耳元でが囁く。

「……力、抜いて」
「…っ…」

あのクールなマチが硬直した………って、そうじゃなくて!!

「ちょ、!?マチと何してんの!?」
「イチャついてんじゃねえよてめえら!!」

我に返って俺が叫び、フィンクスがひがむ(違ぇよ!!byフィンクス)
でもこっちの声は無視してはマチを口説き続ける。

「このまま…」
「あ、あんたとどうこうするつもりはないから…!」

真っ赤な顔のマチなんて初めて見たよ。
なけなしの理性というかプライドというか、それでマチはを引き離した。
振られた形になるわけだけど、全然気にした様子もないはなんというか…。
ケーキ屋とかでもさ、思ったんだけど。

って意外に節操ない?

「シャル」

そんなことを考えてたところに声をかけられたから、ちょっとびっくりした。

「な、何」
「眠い」
「は、え」
「部屋、帰るぞ」

淡々と言って、そのままホテルに戻っていく。
さっきまで喧嘩してその上にマチを口説いてたとは思えない、涼しげな様子。

出会ってもう何年にもなるのに、わからないことだらけで。

だから俺は気に入ってるわけだけど。
でも今回はちょっと疲れた、と肩を落とす。
待ってよ、と声をかけて追いかけるけど振り返らない背中。

あーもう、部屋のキー持ってるの俺なんだから待てってば!





ご迷惑をおかけいたしました。

[2011年 11月 30日]