酔っぱらってる上に寝ぼけてるんで、思考が滅茶苦茶なことに。
[2011年 11月 30日]
痛い。
頭、痛い。
なんかもう、ぼーっとする。
ごちゃごちゃ騒がれたような気もするけど、よく覚えてない。
身体が火照ってきたし、外の風を受けたくて。
足は正直にホテルの外に出て、近くの公園に向かっていた。
このホテルに来るまでに通った場所だ、とぼんやり思い出す。
「ここならよさそうだな」
この声、フィンクスだっけ?頭が、ぐらぐらして判断ができない。
やべ、痛い。吐きそうな気もして、ちょっと下を向く。
「行かせてもらうぜ!」
何かが一瞬で近づく気配と、耳元で唸る風。
ふらついてバランスを保てない俺の頬の横をそれは薙いだ。
……あ、ダメだもう吐く。何かつかまってないと立てない。
何かないかと手を伸ばして、すぐ傍にあった誰かの腕をつかむ。
逞しい腕だ。そう頭が感じるものの、足がもつれて俺の重心は後ろに傾いた。
「おおっと!」
俺が吐きそうなのを察知したのか、腕を振り払われてしまう。
あー気持ち悪い、頭痛い、熱い、だるい、眠い。
もうこのまま地べたでもいいから寝転がりたい。
ふらふら、と後退したら目の前の石畳が爆発したかのように飛び散った。
手足やら顔やらを破片がかすめる。けど、感覚がない。
……でも、ちょっとじんじんする?
頬をぬぐってみると、どろりと赤い血。う、また眩暈が。
「おらおらぁ!かかってこいって!!」
「………うるさい」
ほんと、うるさい。
もう寝たいんだよ、俺は。気持ち悪いし。
これ以上煩わせるのはやめてほしい。さっさと解放してくれ。
目の前の騒音を、どうにかして黙らせたくて。
この騒音、なんだっけ。なんかに似てる。
ずっと耳元でうるさく響いてるような………あーそうそう。うん。
目覚まし時計だ。
俺あんま寝起きよくないから、いつも目覚まし時計いくつもかけててさ。
時間ずらしてそれぞれかけてて、止めるのが学生時代の日常だった。
よし、止めよう。もう学校なんてないし、仕事も入ってないし。
目覚まし時計をかけておく必要なんてない。
「…そうそう、そうこなくっちゃな。本気でいくぜ」
「………」
なんか、やたらでかいけど。俺あんな目覚まし時計買ったっけ?
まあいいや。
一瞬で俺の前に迫ってくる時計。
あれー、最近の時計って動くのか?じーちゃんそんなの買ったんだっけ。
外国のお土産かなぁ。んー……どうでもいいや。
「黙れ」
スイッチどこかわかんないけど、とりあえず脳天めがけてチョップ。
あ、避けられた。ちょっとかすったのに惜しい。
…すごいな最近の時計って避けるのか。寝起き悪いひと多いんだなー。
けど俺は寝たいんだ、いますぐ。だから電池抜いてでも止めるぞ。
止まれ、うるさい、さっさと静かになれ。
俺がそう念じたと同時に、時計が動きを止めた。
よーし、チャンス!
「ぐおっ!!」
脳天はスイッチじゃないらしいから、とりあえず胴体をどついてみる。
時計が吹っ飛んでいき、木々が倒れた。あー、壊れたかなぁ。
「………ペッ。いまのは効いたぜ」
ん、起きてきた。随分頑丈だ。
さっきよりも強く叩かないと止まらないのか?仕方ない。
「ストップ、ストーップ!!二人ともいい加減にしろよ!!」
「うっせえ、邪魔すんなシャル」
「邪魔してんのはどっちだよ。せっかくバーで楽しんでたのに滅茶苦茶にしてさ」
ぎゃいぎゃいと騒音が増える。
でもまあ、俺に対して音がしてるわけじゃないみたいだ。
うー、もう立ってんの限界。座っていい?寝転がっていい?
つーかむしろ、吐いていい?
「、大丈夫かい?」
割と近くで高い声が聞こえる。
淡々としてるけど労わるような気配のする声は心地よくて。
ゆっくりと顔を上げると、美少女。視界がぼんやりしてるけど、それはわかる。
「………マチ」
「こんなとこで何暴れてんのさ」
「……眠くて」
「は?」
「このまま、寝かせてくれ」
「ちょ、ちょっとあんた!」
立ってられなくて倒れそうな身体を受け止めてくれる温もり。
やばい、柔らかい、なんか安心する、もう寝たい。
なんか背中ばしばし叩かれてるけど、それも睡眠を誘うようにしか思えない。
布団を抱き寄せるように腕を回すと、なんかちょっと温もりが強張った。
うーん…?これじゃ寝心地よくないぞ。
「……力、抜いて」
「…っ…」
「ちょ、!?マチと何してんの!?」
「イチャついてんじゃねえよてめえら!!」
目覚ましがうるさいけど、聞こえない聞こえない。
「このまま…」
「あ、あんたとどうこうするつもりはないから…!」
あー……布団が逃げた。
せっかく眠れそうだったのに。残念。
「シャル」
「な、何」
「眠い」
「は、え」
「部屋、帰るぞ
熱さはちょっと落ち着いたから、もう寝よう。
布団もなしに外は寒いし、部屋に行こう部屋に。
帰って、寝る。
俺の思考にはもうそれしかなくて。
なんかごちゃごちゃ後ろから声が聞こえたような気もしたけど。
全部それはスルーすることにした。
酔っぱらってる上に寝ぼけてるんで、思考が滅茶苦茶なことに。
[2011年 11月 30日]