第90話

目が覚めたら朝でした。

………あれ?昨日バーに行って、フィンクスが暴れて……んんん?
そうそう、泡盛を間違って飲んでー………やばいなそれから記憶がないぞ。
いつの間にかベッドにいるし、服はなんでかバスローブになって……って、あれ?
腕とか足とか切り傷がめっちゃあるんですけどこれいかに。

ひりひりする手足に首をひねりながらベッドを出て、洗面所へ。
わー、顔も切れてる。酔っぱらって何やらかしたんだ俺。
しげみにでも飛び込んだんかなぁ、そこで葉っぱで切ったとか?

脱衣所に俺が脱ぎ捨てたらしい服があって、それを見たらかなり切れてる。
こ、これはもう着れないんじゃないだろうか。着替えは一応あるからいいけど。
つーか手足痛い。うーん、こんだけ色んな箇所にあると服が触って痛むだろうなぁ。
鏡を眺めながら、まあ仕方ないかと俺はオーラを身にまとう。
ほぼ「練」の状態だ。すると、みるみるうちに俺の頬にあった傷が消えていく。

「……うん、だいぶ上手く使えるようになってきたかな」

ぺちぺちと肌を叩いて違和感がないことを確認する。
顔にあてた腕、そこに嵌められたままの「秤の腕輪」。
ゾルディック家にもらったその腕輪にある透明な石が、いまはほのかに赤い色を帯びている。
よしよし、腕輪の設定もちゃんとできてるし。使いこなせれば便利だな。

「あれ、もしかして起きてるー?」

部屋の方から声が聞こえて、俺は洗面所から顔を出す。
どうやらとっくに起きていたらしいシャルが俺を見つけておはようと笑った。
そういえばここまで運んでくれたのってシャルなのかな。
酔っぱらって相当迷惑かけたんじゃないかと思うんだけど。

「…おはよう。シャル、あの後フィンクスは」
「あぁ、なんかとマチのやり取り見たらやる気が失せた、っておとなしくなったよ」
「………俺とマチ?」

あれ、マチ?えーとバーにはいなかったよな。後で来るって話だったけど。
……あー、そういえばぼんやりと夢の中でマチっぽい子を見かけたような?
もしかしてあれ夢じゃなくて現実だったのかな。
目覚まし時計を止めようと必死になってたような、変な夢だった。
てことは、マチにも酔いつぶれた俺を見られたわけか。うわ、情けない。

「シャル」
「ん?」
「俺、マチとフィンクスに謝った方がいいと思うか」

殺されるの覚悟すべきだろうか。
よりによって旅団の人間に迷惑かけるとか最悪すぎだろ。

「んー…フィンクスは別にいいんじゃない?マチはどうかしらないけど」

そんなにマチに迷惑かけたの俺ー!?
女の子に迷惑かけるとか、どう謝ったらいいんだろうか。
ごめん、昨日はなんだかよくわからないけど迷惑かけたみたいで……いや、謝罪になってない。
俺にできることあればなんでもするから許してくれ、とか?命乞いレベルだな。

昨日はごめん、って素直に言うのが一番?
いやしかし、自分が何をしでかしたのか覚えてないのが問題なわけで。

「………シャル」
「はいはい?」
「俺、マチに何したっけ」
「え」
「怒らせるようなことか?何か迷惑かけたとか…」
「………ねえ

珍しくぽかーんとした後で、シャルは真剣口を開いた。

って、素でひどいよね」

ええええぇぇぇぇぇ、なんでえぇー!?
本当に俺、何しちゃったのー!!?






マチにどう謝るべきかとぐるぐるしながら、俺はホテルのレストランに移動。
シャルは朝食を一緒にとるために部屋に来たようで、迷うことなくテーブルまで案内してくれた。
その先にはクロロとパクそれからノブナガもいて、まだホテルから出ていなかったらしい。
昨日のバーでの騒ぎはどうなったのかと思ったが、あのフィンクスにやられた男が弁償したとか。

「…あれだけやられた上に金も巻き上げられたのか、不憫だな」
「いやお前が言うことじゃねぇだろ」

え?なんで?

「そうね、昨日のは随分と大胆でびっくりしたわ」
「そうだな、なかなか面白い見世物だった」
「クロロもパクも面白がるだけでさー、こっちの身にもなってくれよ」
「もっと面白いもんが見れたんだろ?あのフィンクスがげっそりして帰ってきたぜ」

特別に用意してもらったのか、完全なる和食を食べているノブナガ。
いいなー、焼き魚いいなー。朝食といったらあとは味噌汁だよなー。

「面白いっていうか…」
「せっかく来たのに、マチったら朝一で出ていっちゃったのよ。赤い顔して」
「ほう、あのマチが」
「……ま、あんなことがあったんじゃ無理ないと思うけど。マチも女だったんだな」
「シャル、それはマチに失礼じゃない?」
「ある意味で一番たくましいからついね」

なんだ、マチもういないのか。謝るタイミング逃した。
メールや電話も知ってはいるけど(前に一緒に甘味食べにいったときに交換した)
でもこういうのって、直接顔を合わせて謝るべきだよな。じゃないと失礼だし。

………で、結局俺は何をしたんだよマチに。

「んで?お前はマチに何したんだ
「何というか…」
「あー、だめだめ。自分のやらかしたことに自覚がないらしいから」
「意外にも天然か。なるほど」

クロロが小さく笑ってココアに口をつける。………朝からココアか、やるな。

「フィンクスがお前に伝言を託していったぞ」
「…?フィンクスももう出たのか」
「あぁ、鬱憤を晴らしてくると言ってたな」
「で?伝言って何。わざわざクロロに残すなんてさ」
「大したことじゃない。『爆発しろ』だと」

え、俺が?
人間が爆発するなんて普通は無理なわけだけど。
えーとそれはつまり、死ねってことだろうか。ほ、本当に迷惑かけたんだろうなきっと。
俺が酔っぱらって潰れたせいで、暴れるの中断になったとか?
けど店内で暴れるのは迷惑だろー。フィンクスはそんなの気にしないだろうけどさ。

「んで、だ。なぁさんよ」
「………何だ改まって」
「フィンクスが喧嘩売るぐらいだ、やれるんだろ?俺ともこれから」
「断る」

ノブナガの場合は得物が得物すぎて無理!つかフィンクスでも無理だし!
刀振り回すようなヤツと戦ったら、あっという間に一刀両断じゃねーか!!

「そういえば、昨日は珍しく少し念を使ったらしいじゃないか。俺にも見せてくれ」
「あ、俺も見たい。昨日のあれ、どんな能力なわけ?」
「………見せろと言われても」
「ふふ、人気者は辛いわね」

旅団ってなんでこんな戦闘狂ばっかりなの!?パク、笑ってないで助けて!

「あれ?そういえば傷がすっかり消えてるけど」
「あぁ…あれぐらいなら、まあ」
「治り早くない?大した大きさの傷じゃないにしても」
「なんだ?じゃあお前も強化系か」
「性格的にはそんな感じはしないが…」

俺のことはいいから、皆ほら食事食事!
このメンバーといると本当に戦うことがいつも日常にあるから疲れる。
俺は平穏がほしい。だからもうそっとしておいてほしいわけで。

あー…でも本当、マチには申し訳ないことしたなぁ。





秤の腕輪の使い道が決まった模様。

[2011年 12月 4日]