また妙なことに関わっちゃって。
[2011年 12月 11日]
「なんだ、お前もこの店好きなのか。わかってるじゃねぇか」
「紹介したのは俺だけどねー」
「………ノブナガはともかくとして、なんでクロロまでついてきてるんだ」
「いまは暇だからな、気にするな」
気になる、気になるよ!
シャルに紹介してもらった蕎麦屋にいまいるわけだけど、ノブナガとクロロまでついてきた。
パクはホテルで別れて、俺もシャルもまたのんびり遺跡でも回ろうかと言ってたんだけど。
その前に落ち着いて和食の食べたくなった俺はここへ。…余計なオマケが二人もついてきた。
「は箸の使い方が様になってるな。よく食うのか?」
「…あぁ、こういう食事の方が馴染みがある」
ノブナガも普通に箸を使ってる。
シャルとクロロもなんとか箸で食事をしてるけど、やっぱりぎこちない。
頼めばフォークも出てくるんだけど、なんというか悔しいらしい。
やっぱりここの蕎麦うまい。ちゃんとした和食だ。
ハンター世界って俺の世界と似てるようで違うから、変なアレンジの料理も多い。
でもこれは蕎麦そのもの。シャルに紹介してもらえて本当よかった。
しっかり腹を満たして、甘味も頼む。よくそんな甘いもん食えるな、とノブナガはしかめっ面。
俺だけじゃなくてシャルやクロロもあんみつ頼んだもんだから、気持ち悪そうにしてた。
ええー、おいしいのになー。餡子って甘すぎなくていいと思うんだけど。
あ、でもシャルもあんまりに濃い餡子は苦手って言ってたっけ。クリームとはまた違うらしい。
「故郷がジャポンなのか?」
「近いけど…ちょっと違う」
「の故郷はもうない、と言ってたな」
そりゃ別の世界の国だもんよ、ないに決まってる。
クロロにはその辺り話したんだっけ、よく覚えてたなー。
「故郷の手がかりが呪いの石版なんだっけ?」
「そんなところ」
「石版を探してるそうだが、見つけてどうする?」
「………見つけてみないことには、なんとも」
見つかるかもわからないし、見つけたところで元の世界に帰れるかもわからない。
けど、それが俺がこの世界に来てしまった原因か否かは判明させておきたい。
……もし石版が関係ないのだとしたら、別の原因なんだろうし。そうなったらお手上げだけど。
蕎麦屋を出たところで携帯に着信があって。
確認してみたらどうやら仕事の依頼らしかった。やれやれ、のんびりしてる暇もない。
シャルたちと別れて、いつものように仕事を片付けていく。
普通に運び屋の仕事なら楽なんだけどなー、こういうのばっかりだといいのに。
そうしてようやく戻ってきた日常だったんだけど。
…まあ、そう長くは続かないわけで。わかってた、わかってたよ。
「平穏なんて、俺からは遠いものなんだ…」
げっそりとしながら、俺はあんまり久しぶりな気のしないゲーム機の前にいた。
そう、またサルベージ依頼が来たのである。ああ、さよなら現実世界、こんにちはG・Iの世界。
リアルすぎて恐ろしいゲーム世界には入りたくないけど、チビの様子は見たい。
ここは根性据えていくしかないか、とゲームの中へ。
いつものようにナビゲーターが俺を迎えてくれた。
「おお、あなたはもしやアイザック様では?」
あ、そっかいまだにアイザックの名前のままなんだよな。
ここはに登録し直すべきか?いやでもいまさらなぁ…いいやこのままで。
こくりと頷くと、ナビゲーターの女の子は一瞬沈黙した。え、何?
「アイザック様に、裏ミッションが依頼されています。受けますか?」
「………裏ミッション?」
何それ。そんなシステムあったっけ、このゲーム。
にこにこと笑顔でこっちを見るナビゲーター(彼女はこのゲームを作った人間の一人だ)
その笑顔が、もちろん受けるよね?と語っているようで圧力がすごい。
え、えええええ、これ受けないといけないの?俺にこなせるようなもの?
ものすごく怖いんだけど、でも俺というかアイザックに来た依頼…なんだよな?
「そのミッション、失敗した場合は」
「特にペナルティーはございません」
ならまあ…いいか。
「わかった」
「承知いたしました、ミッションを開始します。それではまずはじめに」
いつものように流暢に語り出すナビゲーター。
彼女は笑顔のまま、ミッションの内容について説明してくれる…と思いきや。
「あなたは様ですね?」
「………………」
なんで登録してる名前じゃない方を知っているー!?
そりゃツェズゲラたちは俺の本名知ってて、それでやり取りしてるけど。
こういうゲーム内で名前を名乗るときは全部アイザックで通してるはずなのに。
戸惑う俺に、ナビゲーターはにっこり。
「運び屋の様で、よろしいですね?」
「………あぁ」
なんだよー、俺の仕事まで知ってんのかよー。怖いようー。
「ということは、あなたはジンのことも知ってるのよね?」
あ、急に口調が変わった。
ナビゲーター仕様のものではなく、これは彼女本来の素の喋り方なんだろう。
………って、ここでジンの名前が出てくるとは思わなかった。
そりゃグリードアイランドを作った中心人物はジンなんだから、おかしくはない。
おかしくはないんだけど…なんで俺にその話を振ってくるのか。
「知ってはいるが」
「連絡先は?」
「それは知らない」
「…まあ、期待はしてなかったけど。実は裏ミッションというより、お願いがあるの」
「お願い?」
「場所を移すわね」
一瞬にして俺と彼女を包む景色が真っ白に染まり、そして次の瞬間にはごちゃっとした部屋へ。
物が積みあがって、お世辞にも綺麗とはいえない。
だいぶ豪勢な部屋っぽいのに、これはまた…なんというか。
「ドゥーン、リスト。連れてきたわ」
「おお、お前がか」
「助かるよイータ」
ナビゲーターのお姉さんの名前はイータというらしい。
そして俺たちを迎えたのは二人の男性。
ぼさぼさの頭をかく男ドゥーンと、童顔でにこやかな笑顔を浮かべたリスト。
どちらもイータと同じ、このグリードアイランド製作者。つまりゲームマスターだ。
ちょ、ええええ!?なんで俺こんなメンツに囲まれてんの!?
「お前がジンと一緒にクート盗賊団をぶっつぶした、ってヤツか」
「……いや、俺は巻き込まれただけで別に何も」
「ジンはそういう天才だからね」
「ったく、俺らのことまで巻き込みやがってよ」
「二人とも、昔話はいいから依頼」
イータが話を戻すと、そうだったとドゥーンが膝を叩いた。
「お前もプレイヤーなら知ってるだろ、いまのゲームの状態」
「………というと?」
「膠着状態が限界にきて、随分と殺伐としてる。これを予期してなかったわけじゃないけど」
「最近じゃボマーや、他にも怪しげな動きがあるのよね。それを放置しておくかどうかで、私たちの間でも意見が分かれてるの」
プレイヤー狩りが頻発し、それに対抗するために様々な勢力ができはじめている。
グループを作ってクリアを目指すのは悪いことではないが、その規模の大きさが問題だ。
純粋にゲームを楽しんでいる者がプレイヤーの中にはたしてどれだけ残っているか。
「ジンの意見で私たちの対応を決めよう、ってことになって」
「けどあいつの居場所なんて誰も知らねぇからな。一番最近接触した人間に頼むか、ってことになったわけだ」
「…それで俺」
「ジンの決定を運んでくれることが依頼、というのはダメかな?」
「………俺もジンにすぐ会える自信はないし、別口での仕事もある」
「もちろんわかってるわ。だから、期限はつくらないし、あくまでついでで構わない」
「そもそも、あいつを見つけること自体が大仕事だ。もし見つけたら、ってことでいいさ」
「そのときには、きちんと報酬を出すつもりだからよろしく」
………なんつーかさ、さすがジンとゲームを作る連中なだけあって。
割と他の面々も適当というかアバウトだよな?ジンに会えたら聞いておいて、って感じだろ?
ジンかぁ…あんなにもひとを振り回す人間に会ったのは初めてだったなぁ。
旅団とかゾルディック家とか、この世界は俺の常識なんて関係ない人間ばっかりで。
その中にあってもジンという男は印象深い。………というより奇天烈だった。
あの男に再会したいか、と聞かれると微妙である。
会いたくないわけじゃないけど、また新しいことに巻き込まれやしないかと怖い。
でもゲームを運営する側からすると、やっぱり頭の痛い状況なんだろうな。
「……もし会えたら、聞いておく」
とりあえずそう頷くと、ありがとうとイータがとびっきりの笑顔を見せてくれた。
また妙なことに関わっちゃって。
[2011年 12月 11日]