第92話

ゲーム初プレイだろうと再開するときだろうと、最初に辿り着く場所は一緒。
ゲームスタート地点であるシソの木。
そこからグリードアイランドの地を踏みしめ、久々の広大な景色に目を細める。
あぁ…来ちゃったよ。また来ちゃったよ、俺。えーとツェズゲラたちとどう合流すれば。

「クプー!!」
「…わぷっ!!」

小さな影が視界に入り、そのまま顔にべたっと貼りついてきた。
聞き覚えのある鳴き声にそれが何かすぐにわかり、俺は顔面にくっつく物体を両手で包む。

「久しぶりだな、チビ」
「クップ!!」
「元気そうで安心した」

俺の両手の上に移動したチビは嬉しそうに小さな翼をぱたぱたと動かしている。
うわー、やっぱり可愛いなぁ。ちびっ子時代のキルアといるときの感覚に近い。
あ、いや、いまもキルアは可愛いけどさ。でも最近は少年って感じに成長しちゃったからなぁ。
ひとの成長は早い、と噛みしめていると近づいてくる人影。
チビを預けた相手、ケス―だ。

「本当に来るとはな」
「?」
「ちょっと前に、突然こいつが騒ぎだしたんだ。いったい何事かと思ったが、が来たのかもしれないってことで一応確認に来たんだが…ビンゴだったわけだな」
「…チビ、俺のこと迎えに来てくれたのか?」
「クプー!」

……っ……なんて可愛いんだ!ちょ、現実世界に持って帰りたい!!
よしよしと人差し指で頭を撫でてやると、気持ちよさそうに細められる目がまた。
あー、なんか俺いま幸せ感じてるぞ。現金だとは思うけど。
グリードアイランドに戻ってきてちょっとよかったかな、って思うぐらい。…できれば来たくないが。

ケス―とも無事合流できたことだし、ツェズゲラのもとへ案内してもらう。
定位置である俺の肩に移動したチビと一緒に、同行<アカンパニー>でマサドラへ。
よっし、さっさと仕事終わらせよう。

「変わりないようだな」

宿屋で俺を迎えたツェズゲラも変わらず。相変わらずの貫録だ。
俺の肩から頭上へ移動し、そのままわしわしと髪を前足でいじって丸くなるチビ。
そのまま眠る態勢に入っているチビを見て、ちょっと苦笑したみたいだった。

「今回のリストはこれだ。それほど多くはないから、すぐに終えられるだろう」
「………確かに、予想より少ないな」
「ボマーにやられるヤツも増えてるからな、プレイヤーの入れ替わり自体が激しい」
「…ボマーか。噂は他でも聞いた」

ゲームマスターたちが気にしてるぐらいだもんなー。
プレイヤーである俺たちからすれば死活問題でもあるわけだし。
…つか俺はボマーであるゲンスルーとちょっとだけ会話したこともあるんだけど。
ホントになんであんなのに遭遇しちゃったんだか。あれ以降は見かけてないからよかった。
さっさとサルベージ終わらせてゲームから出よう、うん。
チビとまた離れ離れになっちゃうのは寂しいけど。命かかってるし。

ごめんよー、と俺の頭で眠るチビに謝りながらリストを眺める。
その俺の横で、ツェズゲラたちはコーヒー片手に打ち合わせを始めた。

「そろそろ目途もつきそうだ。ようやく俺たちもカード回収に乗り込めそうだな」
「あぁ、随分と時間を食ってしまった。…あぁ、だが来年はまた大仕事があるぞ」
「来年?」
「ジェイトサリの指定した期限が過ぎるはずだ。そうなった場合、グリードアイランド7本がオークションに提出されることになる」
「なるほど。バッテラ氏なら何がなんでも落札するだろうな」
「そうなった場合、新たなプレイヤーを選考する試験を行うことになる」

ゲームをやりながら、他のプレイヤーの管理もしないといけないって大変だよなー。
ツェズゲラは一ツ星ハンターだから、十分な実力があるんだろうけど。

「…じゃあ、俺は行かせてもらう」
「よろしく頼む」
「チビはどうするんだ?仕事に差し障るなら俺が預かっておくが」

クププ、といびきをかいてるチビを見上げてケス―が申し出てくれる。
それに感謝して、大丈夫だと断らせてもらった。
なんだかんだでとっても賢い子だから、邪魔にはならない。
俺よりもよっぽど危険に敏感だし、何かあったらすぐに目を覚ますだろう。

というわけで、とりあえずいってきます!






順調に仕事を終えた俺は、一か月ぐらい滞在したのみでゲームの外へ。
チビを置いていくのは毎度忍びないんだけど、駄々をこねずにいつも見送ってくれる。
それがまた申し訳なさを感じさせるわけだが。
チビがいてくれるおかげで、俺はグリードアイランドで仕事ができてるんだと思う。うん。

そんなわけで、俺は仕事をひとつ片付けた流れで久々の場所へと足を運んでいた。
ちょっと緊張しつつぐるりと庭を回っていくと、ちょうど掃き掃除をしている知り合いの姿。
俺に気づいたらしく、箒の手を止めて驚きに目を瞠った。

さん…!」
「久しぶり、アン」

そう、シャンキーの診療所へ俺はやって来たのだった。





本編では久しぶりー!

[2011年 12月 23日]