それが君の運命なのだよ。
[2011年 12月 25日]
アンの手料理をご馳走になって(女の子の料理ってホントおいしい)
俺は次の日にはシャンキーの診療所を後にしていた。
うん、グリードアイランドにさ。戻ろうと思って。裏ミッションを完遂するために。
………いやほら、さっさと仕事は片づけておきたいじゃん?
ツェズゲラからはいつでも自由にゲームに入っていい、って言われてるし。
えーとイルミにまたメールしとかないと。また仕事で連絡とれなくなるぞ、と。
そうだキルアにも連絡しとくかな。声もちょっと聴きたいかも。
「………出ないな」
うーん、携帯使えないのかないま。残念だけどメールにしておこう。
久しぶり、元気にしてるか?ちょっとまた仕事で連絡つかなくなるけど心配いらない。
……こんな感じでいいかな?次会うときはケーキまた食べよう、と付け加えて。
よっし送信、と。って、おわ!?イルミから電話きた!
「もしもし」
『最近、仕事多くない?』
「……いや、ちょっと継続してる仕事があって」
『ふーん。…一人で?』
「…俺が誰かと組んで仕事をしたのなんて、お前ぐらいだ」
ツェズゲラは仕事の上司って感じだから、組んでるとは言い難い。
他に誰かと組んで仕事したことってあったっけ?
ジンと盗賊団つぶしたのは仕事でもなんでもなく、純粋に巻き込まれただけだし。
運び屋なんて仕事、誰かと組むこと自体あんまりないんだよなー。
荷物が相当多いとか大きい場合はあるのかもしれないけど、そういうのは受けたことない。
奇妙な沈黙があった後で『ならいいや』と相変わらずの一本調子な声。
なんだなんだ?そりゃこの仕事を始めるきっかけはイルミだったけど。
でも別に専属なわけでもないし、俺が他の仕事受けようが自由だと思ってるんだが。
『何かあったら俺に連絡して』
「………何かってなんだ?」
『じゃ』
おいいいい!!ここで切るんじゃねえよおおおおお!!
何かあったらって何!?嫌なフラグ立てないでくれる!?
それでイルミに連絡したところでどうなるっていうんだよー、助けてくれんのかよー。
…でもなんかイルミの様子おかしかったよな?
俺が一人だってことを確認してたみたいだし。何かあったらって。
「………お前の方こそ、何かあったんじゃないのか?」
ツーツーと機械的な音を響かせる携帯に、俺はぽつりと呟いた。
顔パスでバッテラの城に入った俺は、そのまま当たり前のようにゲーム機の前へ。
………本当に仕事じゃなくてもプレイさせてくれるんだ、とちょっと目が遠くを見つめてしまう。
いや、ありがたいんだけどさ。でも俺このゲームをクリアする気は毛頭ないわけで。
まあ、いいや。
いつものようにゲームの世界へと入ると、まず最初に迎えてくれる少女。
グリードアイランドへようこそ、といつもの挨拶からはじまって。
もしやあなたはアイザック様では?と尋ねられ、頷く。もういいんだ、この名前で。
ゲームの説明を聞きますか?と聞かれたんだけどその前に。
「裏ミッションについて、報告したい」
そう言うとゲームマスターであるイータはぱちぱちと目を瞬いた。
「もうジンと連絡とってきたの?」
「運が良かった。返事ももらってきてる」
「これは予想外だわ、すごいわね」
「…ここで報告しても?」
「ふふ、そんなに短い返事だった?ジンらしい」
「…あぁ。予想はついてると思うけど、放っておけって。むしろいまのゲームマスターたちに任せるって言ってた」
ジンはこの件に関わるつもりは全くないらしい。
そう伝えると、やっぱりねといった表情でイータは肩をすくめた。
「ま、これで私たちも責任は果たしたわけだし。あとは好きにさせてもらうつもりよ」
「そう」
「でも本当にありがと。報酬なんだけど」
あ、そういえば具体的にどんな報酬をもらえるか聞いてなかったな。
ジンにこんなに早く会えると思ってなかったし、そもそも接触できないと思ってた。
だから報酬をもらえる状況になることなんてないと考えてたんだけど。
何がくるのか想像もつかなくて黙ってると、イータがにっこりと笑みを浮かべた。
「私たちにできることなら何でも。ひとつだけ、お願いしてOKよ」
「……何でも?」
「えぇ。私たち…ゲームマスターにできることなら。必然的にグリードアイランド絡みでの報酬になってしまいそうだけど」
そう言われても、いきなりお願いが浮かぶわけもない。
ゲームマスターにできることって…何だろう。皆それぞれ念能力者でゲーム管理してて。
きっとそれぞれ凄腕なんだろうけど、俺は詳しく知りあってるわけでもないし。
うーん、やっぱりイータの言う通りゲーム内で有利になれるようなお願いしかないのかなぁ。
すぐに答えないとダメだろうかと尋ねてみれば、いつでも大丈夫とのこと。
決まったら教えてね、という言葉を最後に俺はシソの木へと飛ばされた。
おい、階段を下りていくでもなく大地をすでに踏みしめているぞ俺。
「、」
………そして出会い頭に俺を呼ぶ声があるのはどういうことだ。
子供みたいな甲高い声に視線を動かすと、俺へと一直線に飛んで来る小さな影。
「チビ?」
「クプー!!」
「また迎えに来てくれたのか」
「クプププ」
って、ちょっと待て。もしかしていまの、チビか?
俺の周りをぱたぱた嬉しそうに旋回する手乗りドラゴンを呆然と見つめる。
そんな俺の肩に不思議そうに降りたチビは、こてんと首を傾げた。
「?」
「………俺の名前」
おお、おおおお、喋った!俺の名前呼んだ!!うわ、すっげ嬉しい!!
よく覚えたなー、すごいぞー。
よしよしと頭を撫でてやっていると。近づいてくる気配を感じて顔を上げる。
誰かと思えばツェズゲラだ。個人的に俺が来ただけだから、出迎えはしてもらわなくても…。
チビがきっとまた騒いだんだろう、俺の来訪をツェズゲラは驚いていない。
むしろ俺がいるからここに来たみたいで、何か用でもあるんだろうか。
「まさかお前から来てくれるとはな」
「…?」
「呼ぼうかと思っていたところだった」
え、またサルベージ?でもひと段落したはずじゃ。
「仕事の契約内容について、変更が生じそうでな」
「…変更?」
「あぁ。とりあえずいつもの宿に向かうが、構わないか」
俺の用はもう済んでるから、問題ない。
こくりと頷くとツェズゲラは同行<アカンパニー>を使ってシソの木を後にした。
契約内容の変更って…何だろう?
ものすごーく嫌な予感がするんだけど、気のせいだよね?ね?
…………………。
でもこんなときの嫌な予感って、外れてくれたこと…ないんだよなぁ。
それが君の運命なのだよ。
[2011年 12月 25日]