第95話

「お兄さんみたいなひとがハンターにねぇ。志望理由はなぁに?」
「………………」

すみませんハンターになんてなりたくないんです俺間違いなく死んじゃいます勘弁して!

「言いづらいこと?それともはっきりした理由なんてないのかしら」
「………」

そもそも俺、ハンター試験を受けるつもりなんて全くないわけですよ。
ねえお姉さん聞いてる?俺いまどうやってこの気持ち伝えようか必死なの。
だからひとりで勝手に喋るのやめてぇ!俺にも喋らせてええぇぇぇぇ!

「とりあえず名前を教えてちょうだいよ」
「………
「それで、志望理由は?」

………………………。
………………………………………。

「仕事で必要だから」

そう、俺の嫌な予感はやっぱり当たってしまったわけだ。
なんでいま俺はこんなことになっているのかというと。





話は、ツェズゲラに契約内容の変更について説明されたところに戻る。
宿についた俺は、しばらくはサルベージがないことを伝えられた。
まあ、それはわかってたことで。
今度からプレイヤーは厳選な試験によってふるい分けられることになった。
だからやる気を喪失するプレイヤーなんてほとんどいなくなるだろうと思われる。

「つまり、お前との契約はほとんど意味のないものとなるわけだ」

前回のサルベージで俺の仕事は終わり、ってこと。
俺としては喜んで!って感じだったんだけど、ツェズゲラは腕を組んでにやり。

にはサルベージではなく、別口の仕事を頼みたい」
「………これ以上拘束されるのは嫌なんだが」
「わかっている。お前には俺とバッテラ氏の連絡係を務めてもらいたい」
「…連絡係?」
「俺たちもそろそろゲーム攻略に集中したい。いちいちバッテラ氏との連絡のためにゲーム外に出るのは手間だ。バッテラ氏から俺へ連絡があった場合、お前にゲーム内に入ってほしい」

つまり、俺がグリードアイランドに最初に入った仕事と似たようなものってことか。
サルベージの仕事は色んな街を飛び回ってプレイヤーを探さないといけなかったから、骨で。
でも次からはツェズゲラにバッテラからの伝言を伝えればいいだけ。
………楽っちゃ楽なんだけどさー。

「それにあたって、一時的なものでなく完全にバッテラ氏とお前の雇用契約が結ばれる」
「………」
「プレイヤーとしての契約とは形態が少し違う。そのため、条件がひとつ」
「…条件?」
「あぁ。お前の実力は俺はよくわかってるが、それだけでは納得しない連中もいる。だから、誰から見ても能力があるとわかる肩書きが必要だ」

ええー、俺の実力なんて逃げ足だけだってばー。
別に危険な仕事したくないから肩書きとかいらないよ!

「お前には資格を取得してもらう」
「………資格?」
「次のハンター試験、ぱっと受けてこい」

うんうん、ハンターの資格かそれは確かにいい肩書き……。

………………………。

ハンターっていま言ったああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?






と、いうわけで。俺は色々思い出して、またがっくり肩を落とす。
あーもう、ツェズゲラってば俺が受けるものとして話進めるんだもんなぁ、断れなかった。
おかげで俺はハンター試験を受けることになってしまったわけで。

………ハンター試験だぜ?

俺、生きて帰れないかもしれない。
念を習得してるから、多分大丈夫だとは思うんだけど。でも怖い。
バッテラとの契約なんてどうでもいいから試験受けたくない。
………あれだよな、試験受けてさっさとリタイアしよう、うん。俺にはダメだったって。
そうだよ、試験に不合格となればバッテラとも契約しなくていいんだし?

「残ったのは、お兄さんだけね」

俺の隣でグラスを揺らしてる女のひとが赤い唇を吊り上げた。

えーといま俺は試験会場に向かう汽車の中なんだけど。
ものすごい混雑してた車内が、いまは閑散としてる。
…俺が仮眠してる間になんでかひとがいなくなってたんだよ。ホラーかと思った。
寝台車があるぐらいの汽車だから、レストランとかまである。
とりあえず空腹を満たそうと足を運んでみたら、そこにいたのは美人なお姉さん。

俺はとりあえず一番離れたテーブルに座ったんだけど、いまはなんでか隣に彼女が。
あの…俺いまご飯食べてるんで、できれば話しかけないでもらえると。

「仕事ってだけで試験を受けるなんて、よっぽどね」
「……そんなことはない」
「理由はそれだけ?あなたならそんな依頼、断りそうだけど」

いや、断りたかったんですけどね。でもそんな隙もなかったというか。
………正直なところ、取得できるなら欲しいと思わないでもなかったんだ。ハンター資格。

「……合格すれば、まともな仕事もできるだろうし。堂々と歩けるかも…とは考えた」
「ふふ、そうね。公共施設はほとんど無料で使用できるし」
「交通費用もかからない、各地への立ち入りも許可される。…まあ、おいしいとは思う」

そうなんだよ、合格すればようやく俺に公式の身分証明書ができるわけで。
しかも交通費がかからず、世界各地を見て回れる。…遺跡巡りできるってことだよ!
いまも十分だけど、やっぱり一般人じゃ入れない場所っていうのは多い。
特に考古学に関する研究所にはそう簡単に入れない。
でもそういう場所にこそ、俺の探してるものはあるかもしれないわけだ。

…と、そこまで考えると。意外と試験を受けるメリットは多い。
あれだ。危ないと思ったらすぐリタイアすることにして、とりあえず受けてみるか。

「これだけテンションの低い受験者は初めてよ」

くすくすとお姉さんが笑う。
仕方ないだろー、俺受ける気なかったんだ。っていうか怖いんだよ!
命の危険が迫ってきているっていうのに、楽しみだーなんて言えるわけもない。

「お兄さんなら、きっと合格できるわ」
「………それはどうも」

お世辞でも嬉しいです勇気づけられます…。
ぱくり、とムニエルを口にしても味がほとんどわからない。…おいしいんだろうに。

あと十分ぐらいで着くわよ、とお姉さんが魅力たっぷりに微笑んだ。

……あれ?そういえばお姉さんって受験者?
俺みたいな受験者は初めてだ、って言ってたから何人も受験者を見てるわけだよな。
試験常連メンバーの可能性もあるけど、なんか違う気も。

ついじーっと見つめてしまうと、お姉さんはまたふふと笑った。
あ、凝視しちゃってすみません。

「お兄さんの考えてる通りよ」

あ、じゃあやっぱり受験者さんで。

「私は、試験会場へのナビゲーター」
「………………」

そんなこと思いつきもしなかったんですけどおおおぉぉぉ!!?





というわけでついに試験へ。

[2011年 12月 25日]