シャルが絡むと、ほのぼのなんだかグロイんだかわからない…。
[2011年 9月 10日]
「…地震か?」
壁面に刻まれた文字を解読してた俺は、地面が揺れて顔を上げた。
高い高い天井からは小石やら埃やらがぱらぱらと落ちてきている。
同じく上を見上げたシャルが、違う気がするなぁと首を捻った。
「爆薬でも使ったんじゃない?」
「………爆薬」
え、なんで爆薬。つか誰が。
疑問を口にする前にもう一度振動。さっきよりも大きい。
つまりは震源が近づいてきている、というわけで。やっぱりこれは人為的なものなんだろうか。
さらにはしっかりと爆発音っぽいものまで聞こえてくるようになってきた。
え、ちょっと待てよ。遺跡を爆破して進んでる連中がいるってことか?
なんつーことしてくれてんだ。
ドオン、という一際大きな音と共に祭壇のある最奥の壁が吹き飛ばされた。
もうもうと上がる土煙の先には、明らかにガラの悪そうな男たちがいて。
あれはどう見ても盗掘に来たんだろうな、という出で立ちである。
「ああ?先客がいるな」
「にーちゃん達二人だけか?ここは俺たちの獲物だからよ、さっさと消えな」
「財宝見つけたなら、置いてけよ」
がらがらと爆破された壁面が崩れていく。そこに刻まれた絵が、形をなくしていく。
長い時間そこにあった歴史が、無遠慮に破壊されていく。
それを見て、俺の中でぷつんと何かが切れる音を聞いた。
じーちゃんがさ、墓場泥棒とか盗掘は許せないってよく怒ってて。
俺もひどいことするんだな、と話を聞きながら思ってはいたけど。
こうして実際に遺跡を壊されるのを目撃すれば、凄まじい苛立ちを感じた。
そりゃじーちゃんも般若みたいな顔するよな。あんとき怖いと思ってごめん。
「………おい、お前ら。自分が何したかわかってるのか」
「ああ?」
普段だったらこんな強面のおにーさん達には関わるまいとする。
だけど、ずっとずっと歴史を守り続けてきた場所を、いとも簡単に砕く連中が許せなくて。
こんな風に踏みにじっていい場所じゃない。
ここには、生きていた人達がいて。生きてきた時間があって。
「お前たちこそ、さっさと帰れ。ここはお前たちがいていい場所じゃない」
「言ってくれるじゃねえか」
「喧嘩売ろうってのか?」
「たった二人で何ができるってんだ」
「かわいがってやろうかぁ、兄ちゃん」
あーもー!!
だからさっ、そもそもさっ、こんな場所で戦おうとするなよな!
いま俺たちが立ってる場所そのものが、歴史的価値のある場所かもしれないんだぞ!
足元に転がってる石だって、下手したら何かの器の破片かもしれない。
ここで戦闘になれば、確実にまたどこかを破壊されそうだ。
その前に何とかせねば。
「」
どうしたもんかと考えていると、不意にシャルに声をかけられた。
襲いかかってきそうな男たちを警戒しながら、視線だけを友人に向ける。
特に緊張した様子もない彼はさすがというべきだろうか。
シャルにとっては目の前の男たちは敵にすらならないんだろう。
お、俺これでも頑張って喧嘩売ってるところなのに。なんで自然体なんだよシャル。
なんでも何も、強いからなんだろうけど。
「がそんな風に怒るの、初めて見た」
「………怒るだろ。こんなに腹立たしいことされたら」
「うん、まあわかってないよね連中。自分たちが何したのかなんてさ」
にっこりと爽やかな笑顔で、シャルの姿が掻き消えた。
えっ、と俺が瞬けば。次の瞬間にはシャルは盗掘集団のど真ん中にいて。
「てめえ!?」
「えーと、多分こいつがリーダーかなっと」
呑気に呟いたかと思うと、手にしていた何かをリーダー格の首にぶすっと刺す。
周囲の男たちがシャルに襲いかかるけど、その前にまたも姿を消す。
あんまりの移動の速さに、消えたように見えるだけだ。
俺も念も何も使わない状態だと、シャルの影をかすかに追うぐらいしかできない。
こういうとき、ああやっぱり幻影旅団の団員なんだなと思う。レベルが、違う。
俺の隣に飄々とした顔で戻ってきたシャルは、取り出した愛用の携帯を手早くいじった。
すると何かを刺されたリーダー格の男が、突然仲間たちを撃ち殺しはじめる。
手にした銃で、ナイフで。次々と仲間を攻撃していく。
シャルが手にした携帯の画面には、シューティングゲームのような映像が映し出されている。
よく見れば、その配置は目の前の男たちを表したものだとわかる。
シャルの駒として操作されているのは、先ほど何かを刺された男だ。
ちなみにその刺さった何かというのはアンテナ。操作系のシャルに必須のアイテム。
あのアンテナに刺された者はシャルの支配下に置かれ、操作されてしまう。
効果はアンテナが抜けるか対象が死ぬまで続く。
「ぎゃああああ!!」
「な、なにすん…ひぎゃあ!!!」
「た、たすけっ…!」
仲間によって惨殺されていく。その光景は、あの壁画のように残酷なもので。
俺はなんだかもう…こう、疲れたというか現実逃避に走りたくなるというか。
結局、血で遺跡が汚れるし。そもそもこの遺体の処理どうすんだよ。
っていうか俺、こんな虐殺現場に立ち会いたくなかったんですけどシャルさん!
………なんかさ、こういうの見ても昔のような嫌悪感を覚えなくなった自分にショックだ。
いや、もちろん気持ち悪いし胸の悪くなる光景なんだけど。
それでも耐えられるようになってきてるのがわかって。俺、おかしいのかもと思う。
「………イルミとかシャルたちと過ごしてる弊害か」
「俺が何?」
「なんでもない。それよりもシャル、後片付けどうするんだ」
「え、別にここに放置すればいいんじゃないの。誰が来るわけでもなし」
「遺跡に余計なものを置くな」
「じゃあ自動操縦で片付けさせるよ」
もう操作している男以外に生き残りはいない。
シャルが手早く携帯を操作すると、男は無言のまま倒れた仲間たちを片付けはじめた。
…………すんげーホラーだけど見なかったことにしよう。絶対、夢に見そうだけどな!
「…シャル、帰るぞ」
「もう?」
「これ以上ここにいる気になれない」
うう、血の臭いが充満して気持ち悪い。
こんなとこで調査とかとてもする気になれないよ。
でも実際、遺跡調査って危険が伴うものだってじーちゃん言ってたよな。
そうか、だからじーちゃん護身術とかもばっちりやってたのか。異様な強さだったけど。
空き巣を一瞬で気絶させた早業を見たときは、何者だこのじじい、とか思ったけど。
どんな危険に遭遇するかわからないってことだよな。今回はシャルがいたからよかった。
「シャル、ありがとな」
「お礼言われるようなことでもないでしょ」
「いや。…俺じゃもっとこの遺跡を荒らしてたかもしれない」
操作系って便利だよな。
俺も念で戦えるようになってきたけど、どうしたって反撃は受けるし。
そうなると壁面とか銃弾が撃ち込まれたりしてさらに被害がいきそうだもんな。
手早く片付けてくれて助かったよ。………その、人殺しはしてほしくなかったけど。
いや、もう言うまい。深く考えちゃいけない。
無責任と言われようが、俺は俺の精神衛生のためにいまのことは忘れるぞ、うん。
………平穏って、どうしてこんなにも遠いんだろう。
シャルが絡むと、ほのぼのなんだかグロイんだかわからない…。
[2011年 9月 10日]