第77話

ケーキ屋でしばらくのんびりして、俺とシャルは店を出た。
そろそろ日も暮れるし、今日の宿を探さないとだなー。
あれ、もしかして店にいる間に雨降ったのかな。地面が濡れてるぞ。
いまは止んでるからよかった。傘なんてもってないもんな。

「シャル」
「ん?」

車が横を通ろうとしてる。けど車道の端には水たまりが。
このままだと水しぶきを浴びるかもしれない、と俺は車道側を歩いてたシャルの腕を引いた。
そのまま車が通り過ぎていくけど、ちゃんと減速してたみたいで水はそれほど跳ねない。
よかった、これで服とか汚れたら面倒だからな。
運転手のひと、ちゃんと気にしてくれてありがとー。

んじゃ俺たちもホテルに…。

「こんなとこで何してんの」

怪訝そうなシャルの声が聞こえてきて、俺は動かそうとしていた足を止める。
え、誰に言ってんの?と背後を振り返れば。

トランプのジョーカーを彷彿とさせる男が。

…………。
……………………………。

みみみみみみ見てない。俺は何も見てない!
夕焼けに赤く染まるピエロの姿なんて見てないから!!!

「やあ。こんなところで会うとは思わなかったよ」
「俺に声かけてくるようなヤツじゃないよね。何、のこと知ってるの?」

シャルー!そんなのと話してないで逃げようよー!!

「モチロン。ずっと探し続けてたんだよネ」
「へー」
「急にいなくなるから、残念だったよ。どうだい?今夜ボクと」
「断る」

ああくっそ、こういうタイプには無視が一番だってのに返事しちゃったじゃないか!!
即答する俺に、変態ピエロはそれはもう嬉しそうに笑った。
ニイ、と吊り上る唇が怖い。つかキモイ。うわ、鳥肌立ってきた…!!

「俺に関わるな、声をかけるな、視界に入るな」
「うわー、すごい嫌われよう。何したの」
「んー?ボクとヤろうよって誘っただけなんだけど」
「お前の変態プレイに付き合うつもりはない。ひとりでやっててくれ」
「そう言わずにさ。いいだろ?こういう刺激も」

ってトランプが飛んできたんですけどおおぉぉぉぉぉ!?

天下の往来で何してくれてんだこいつっ…!!
とにかく襲いくるトランプをよけて、俺は路地裏に逃げ込む。
周りの人間巻き込むわけにいかないし、障害物があった方が逃げやすい。
シャルは置いてきちゃったけど、あいつなら一人でも余裕だろうし。

…っていうか俺が余裕じゃないんだったー!!
しまった、シャルに手伝ってもらえばよかった…!!

角を曲がろうとしてずべっと体勢を崩す。あ、あぶねえ…!
なんとか手をついてバランスをとり、さらに奥へ。
この辺りは天空闘技場にいた頃によく歩いたから、路地裏も把握している。
だから逃げることは可能だと思うんだけど、背後から迫るオーラがマジで怖い。

ひいいぃ、無理、絶対無理ー!!
俺は出来うる限り最大のオーラを身にまとう。そして瞬きを止めた。

全ての時間が停滞する中、脇目も振らず逃れるために駆け抜ける。
最後に凝でバンジーガムをつけられてないか確認して、そのまま脱出。
ヒソカのオーラを完全に感じなくなるまで、俺は足を止めることはなかった。





「さ、最悪だ…」
とヒソカが知り合いだとは思わなかった」
「…知り合いたくなかったけどな」

なんとか無事シャルと合流し、俺はぐったりしながら宿屋へと向かう。
生きてる、俺生きてるよ…!寿命が十年ぐらい縮まった気はするけどっ。

「………あれ、シャルもヒソカのこと知ってるのか?」
「うん。新しい団員だから」

………………。
なんですとおおぉぉぉぉぉ!!?

あ、そっか、そうだよな、ヒソカって団員を殺して自分が旅団入りしたんだっけ。
げっ、そうなると旅団のアジトにヒソカがいる可能性も今後は出てくるのか。
…ますます遊びに行くのが怖い場所になったな。
まあ、ヒソカは滅多に旅団の活動には参加しないらしいんだけど。

「そういえば、俺が誘われたときの空きは」
「クロロが推薦したのが入った。いまはとりあえず番号全部そろってる」
「そうか」
「あーあ、ヒソカみたいなのが入るぐらいならがよかったなー」

確かにあんな変態を仲間にはしたくないだろうけど。

「明日からの予定は決まってる?」
「…特別なにも」
「じゃあ俺たちのホームにおいでよ。新入り紹介するから」
「いや俺は」
「クロロも会いたがってるし」

いや、女装という嫌がらせをさせようとしてるだけだろ!?
っていうかついさっき、旅団には関わりたくない怖いと思ったところなのに!

決まり、と笑顔で言い切られてしまって俺は断れなかった。

…まあ、ヒソカは天空闘技場にいるんだろうし。
新入りってあれだよな…シズク。ならまだ大丈夫かなー。

………明日の俺も、生き残れるよう祈っておこう。





久々の登場なのにすぐログアウト。

[2011年 9月 19日]