第78話

やって来てしまった、旅団のアジト。
あーあーあーああもう!!近寄りたくない場所にどうして何度も来る羽目に…!!

「あら、。久しぶりね」
「……パク」

げっそりと肩を落としていると、何やら化粧品を抱えてパクノダがやって来た。
買い物にでも行っていたのだろうか?……これで盗んできてたらどうしよう。
い、いや、パクノダなら良識ある人間として仕事以外では普通に過ごしてると信じたい…!

俺を見つけたパクはわずかに目を瞬いて、けどすぐに微笑んでくれた。
あー……大人の女性って感じ。癒されると同時にちょっとドキッとするよ。

にそう呼ばれるの新鮮だわ」
「…?………あ、そうかいきなり悪い」
「いいのよ、パクって呼んでちょうだい」

原作読んでるときからパクって呼んでたからつい。
けどそれを怒るでもない彼女に感謝して、俺は意を決して建物に足を踏み入れた。
ちなみにシャルはとっくに中に入ってしまっている。クロロ―連れてきたよーとか言いながら。
俺いつもシャルに連れてこられてる気がすんだけど…。
あれか、旅団と関わりたくなかったらシャルと距離置けってことか。唯一の友達なのに!

、いまコーヒーしかないけどいいかしら」
「いいよ、悪い」
「客自体が珍しいだけだから気にしないで。砂糖とミルクは?」
「いらない」
「あらブラック?大人ね。クロロなんてミルクも砂糖もたっぷりよ」
「………意外だな」
「ブラックでも飲めるけど、誰にも気を遣わなくていいときは甘くするわね」

誰から見ても美形のクロロは、服装のイメージもあってやはりブラックが似合う。
けど実際はプリンが好物だったりするし、甘党なんだろう。
イメージを壊さないように頑張っている様を想像すると、なんだか可愛いというか。
妙なとこ子供っぽいんだよな、とつい笑みが浮かんでしまった。

「…あなたの笑顔、初めて見たわ」
「………そうか?」
「いつも気を張っているようだったから」
「…否定はしない」

旅団のアジトにいて緊張しないわけないじゃん!
シャルやパク相手ならまだなんとか平常心でいられるけどさ。
クロロとかフェイタンが傍にいたら俺はいつ気絶してもおかしくないと思うね。怖いよあいつら。

パクがコーヒーを入れてくれてる間、俺は傍のテーブルで待つ。
まとめていた資料の続きでもやろうかと思っていると、クロロが顔を出した。
お、今日は髪下ろした爽やか青年バージョンだ。オフか、オフだからなのかそれは。
よく来たな、といつもより少し幼く見える笑みを浮かべて腰を下ろす。
そんな彼の後ろからメガネをかけた女の子が姿を見せた。

「新しい団員のシズクだ。シズク、こいつはシャルの友人で
「へえ…友達なんていたんですね」
「面白いだろう?」

のんびり屋さんなシズクは、けっこうな毒舌である。
シャルに対して友達いない発言をできるのはすごいというかなんというか…。
そうかなぁ、友達いなさそうかなぁ…けっこう人当りいいのにシャル。

「はい、どうぞ」
「ん、ありがとうパク」
「クロロも。ミルク入れてよかったかしら」
「あぁ、今日は甘い気分だ」
「シズクは?」
「私はブラックで」

パクも席に着いたところでシャルも戻ってきた。
ちゃんと彼の分も用意してある辺り、パクは本当に気が利く。
自由奔放に生きている団員たちの中、数少ない常識人といえるだろう。
フランクリンとかも意外とこういう細やかな気遣いできそうだけどさ。

やっぱり甘党なのか、ミルクと砂糖をどぼどぼ入れるシャル。
あ、そうそうと顔を上げてクロロに声をかけた。

「天空闘技場あたりでヒソカに会ったよ」
「…そういえばあそこに登録してるんだったな。観戦したのか?」
「まさか。あんな変態の戦いに興味あるわけないでしょ。むしろあっちから声かけてきたんだ」
「シャルに?」
「ううん、に」
「知り合いか」
「………言葉を交わしたのは今回が二回目だ」

どれもこれも通り魔的な出会いで、記憶から抹消したい。

「あのひと…マゾっぽいですよね」
「あらそう?確かに痛めつけられるのも好きそうだけど。マチが殺すのも面倒臭い、って溜め息こぼしてたわね」
「マチ……」
「俺からすれば思い切りサドって感じだけどなー。強いヤツを叩き潰すの好きそう」
「だがウボォーとは違ったタイプの戦闘狂だな」

それぞれのヒソカに対するコメントを聞きながら、俺はずずーっとコーヒーを啜る。
…すごいよな。ある意味で変人の集まりの旅団にあってさえ、ヒソカは変態という括りなんだ。
いや、誰がどう見てもあれは変態だけど。うん、間違いない。

は?」
「………?」
「ヒソカの印象だ」
「変態」

それ以外に表現のしようがあろうか。

「お前にしては随分とはっきりした言い方だな」
「ヒソカと会話しててもすごかったよー。あんなにつんけんしてる初めて見た」
「…あいつに関わっても疲れるだけだろ。何しても喜ぶから始末に負えない」
「例えば?」
「逃げようとすればサド気質を発揮して楽しそうに追ってくる。逆に本気で相手して撃退しようとしても、マゾ気質でそれすらも喜ぶ。………最悪じゃないか」
「あー、そりゃマチもあんだけ嫌うわけだ」

俺いまマチに対して激しく親近感を覚えてる。うんうん、ホント大変だよな…!
今度マチに何か差し入れでもしよう、同じ苦しみを味わっている仲間として。

「…ちょっと、私のいないところで噂話かい?」
「あぁ、マチ」
「噂すればなんとやら、だな」

タイムリーなことに顔を出したマチは、不機嫌な表情。
勘の鋭い彼女のことだ、どんな話題が繰り広げられていたか察しているのだろう。
少し乱暴に荷物を投げ出して椅子に座る彼女に、パクが何か飲む?と腰を浮かせた。
お茶、と呟いて頬杖をつくマチはだいぶ疲れているらしい。あれか、やっぱりヒソカ疲れか。
だ、大丈夫かなー、俺声かけても嫌がられないかな。

「マチ」
「?……なんだ、あんた来てたの」

どうやら存在そのものを認識されていなかったらしい。ちょ、ちょっと寂しい。
気だるげな表情のままだけど、嫌がられてはいないようだ。よし、勇気出せ俺!

「今度、甘味処に一緒に行かないか」
「………………は?」
「お茶とよく合う店があるんだ。マチはケーキよりそっちの方が好きそうだと思って」

この間仕事の途中で和菓子屋っぽいとこ見つけたんだよ。
日本を離れて久しい俺には懐かしくて、その発見に大喜びだった。
お茶もおいしいし、お菓子もかなり本格的だったんだよな。
俺の故郷のお菓子に似てるんで、って馴染みのケーキ屋にもお土産で持ってたぐらいだ。
新作の参考にできそうだよ、と店長が笑ってくれてほっとしたのを覚えてる。
いや、ほら、スイーツの店に他ジャンルの甘いもの持ってくとか怒られるかもと思ってたから。

和菓子はカロリー気にする子にも優しい。
お茶はやっぱりほっとするし、ストレス溜まってるマチにはいいかなーと思ったんだけど。
ぽかん、と彼女にしては珍しい顔で固まってしまった。あ、え、あれ?

「……マチ?」
「いや、なんで私なのよ。いきなりすぎて驚いた」
「疲れてるみたいだから。俺もそうだし、息抜きに行かないかって。それだけ」

ヒソカとは一瞬遭遇するだけでもかなり色々削られるよなー。

「いいわね。お土産期待してるわ、マチ」
「ちょっとパク」
「私も、楽しみにしてます」
「シズクまで…あんたらね」
「出かけるのは構わんが、その前に俺の用事を先に済まさせてもらうぞ」
「あら、団長が呼び出したの?」
の面白い写真を入手してな」

にやり、と笑って一枚の写真を取り出すクロロ。
って、まさかそれは…!!

「へー、違和感ぜんぜんないじゃん。女に見えるよ
「………シャル、嬉しくない」
「美人ね。他の服も着せてみたくなるわ」
「和装も似合うんじゃない?」
「また違った感じのメイクもしてみて欲しいかも」

いや、いやいやいや、皆さん!なんでそんな写真に食いついてんですか!?
あれだろ、イルミの仕事で女装したときの写真だろそれ!なんで出回ってんだよ!!
どういうルートで入手したんだとクロロに問い詰めたいが、どうせ犯人はイルミだろう。
くっそー、余計なもん残してくれやがって。俺の黒歴史だってのに。

これ以上突っ込まれてなるものか、と俺は席を立った。

「マチ。行くぞ」
「あ、あぁ、わかったよ」

こんなところに一秒だっていられるかー!!





皆でブレイクタイム。

[2011年 10月 22日]