第105話―ヒソカ視点

まさかこの試験に彼も参加しているとは思わなかった。
有望なルーキーたちを見つけただけでも嬉しいのに。
これは日頃の行いがいいからかな?ふふ、ボクってついてるねぇ。

の存在に気づいたのは二次試験。
むしろあれだけ際立つ存在を一次試験で気づかなかったのが驚きだ。
きっと気配を殺してたんだろうけど。それも面倒になったのかな。
確かに、今回の試験内容は退屈なものばかりだ。色々と、面倒。
これでも我慢した方だよ。次は楽しいといいんだけど。

次の目的地までは飛行船で移動。
どうしようかなぁ、カード遊びにも飽きてきちゃったし。
トランプを片付けてふらふらと散歩。だいたいは寝てるね。
まあ、普通の人間にはあの試験内容でも辛かったのかもしれない。

こういうクズ石の中から原石を見つけるのが楽しみなんだけど。
すでに十分色々と見つけたし、これから先の試験に期待するとしよう。
あれ、ここシャワーなんて用意されてるのか。うん、汗流そうかな。
髪も乱れちゃってるし、セットし直さないと。
シャワールームに入れば先客がいるみたいだ。この気配は、もしかして。
湯気のむこうに濡れた黒髪が見えてボクの心臓が高鳴る。

ああ、やっぱり彼だ。
肌にはりつく髪をかきあげ、湯を浴びるため閉じられた目。
ボクは別に気配を消してもいないから、存在に気づいてるだろうに。
は気にした様子もなく髪を洗ってる。

「………メンチにでも借りるかな」

ぽつり、と聞こえた彼の声。
ああ、この声を聴くのも久しぶり。

「何が欲しいんだい?」
「ドライヤー」
「あぁ、それならボクのを貸してあげようか」
「それはありがたい…」

淡々と応じてたの睫毛がゆっくりと持ち上がる。
そしてその下からあの焦げ茶の瞳が覗いて、ボクの方を向いた。
あぁ、その目。その目だよ。
濁っているようで、ひどく澄んで見える瞳。冴え冴えとして見えて、別の色が見える。
なんとも言えない不思議な色合いがゾクゾクするんだ。

ボクの方を向いてくれたは相変わらず簡単には表情は出さない。

「………どちら様で」
「ひどいなぁ、ボクのこと忘れちゃったのかい?」
「………………」
「まさか君も試験を受けてるとは思わなかったよ。ククク、今回は本当に当たりだ」

こうして彼の身体を間近で見るのは初めてだけど、本当に良い身体をしてる。
細身なんだけど筋肉はしっかりあるし、妙に綺麗だ。
危ない橋を渡る仕事だろうに、古傷とかほとんどないよねぇ。
目立つものといえば手の甲にあるものぐらい。
残るような怪我をしたことはない、ってことか。

ああ、その身体にボクの証を刻めたらいい。
滑らかな肌に消えない痕を残させたら、どんなに快感だろう。

「………………ヒソカ」
「なんだ、ちゃんと覚えてくれてたんじゃないか。また会えて嬉しいよ

ようやく名前を呼んでくれた。いいね、もっと呼んでほしい。
君をおいしく味わうときを楽しみにしてたんだから。
思わず殺気が滲み出ちゃうけど、そうすれば応じるようにのオーラも強まる。
自分で言うのもなんだけど、ボクを見る人間は大抵顔を逸らす。
なのに彼はじっとこっちを見てくれるんだよねぇ。

「夜は長い。再会の一杯はどうだい?」
「俺は酒は飲まない」
「へえ、それは意外だ。誓約でも立ててるとか?」
「そんなんじゃない。それに飲めたとしても、お前と飲む気はない」
「うーん、そのそっけなさが良いんだよねぇ」

お酒を飲まない、か。
彼の中で誓約をかけているのか、ただ単に酔ったところを狙われるのが嫌なのか。

立ち去っていくの背中をボクは上機嫌で見送った。
これからの試験。彼とやりあえる機会はまだあるかもしれない。
お楽しみは後にとっておくのもいいよね。あぁ、本当に楽しみだ。

それにしても。

うーん、背中もまたイイネ。





変態!変態がいます!

[2012年 1月 27日]