第106話

朝日が注ぎ込んで目が覚めたキルアと一緒に食事をとって。
その後は気持ち良さそうに爆睡していたゴンを叩き起こした。
次の目的地へと到着するとアナウンスが響き、窓からは高い高い塔が見える。
その屋上へと飛行船が降り立ち、受験生たちがぞろぞろと出ていく。

「今回は退屈しないといーな」
「…キルア」
「んー?」
「そういえばそのスケボー」

キルアが抱えているスケボー。キルアといえばこれなんだけど。
俺が指さすと、キルアは少しだけ顔を赤くした。

「べ、別にいいだろ。これが一番滑りやすいんだよ」
「悪いとは言ってない。いまでも使ってもらえてるのは嬉しい」

天空闘技場で一緒に過ごしていた頃。
キルアといえばスケボーだろ!とプレゼントしたことがあった。
まさかそれをいまでも使ってもらえてるなんて、買ったかいもあるってもんだ。
物持ちいいんだなー、それとも頑丈が売りっていうのは正しかったのか。

「ここ、トリックタワーが三次試験の会場でございます」

受験生が飛行船から降りたのを確認して、会長の秘書がにこやかに説明した。
そう、ここはトリックタワーと呼ばれる特殊な建物。
円筒状の建物であり、その頂上にいる俺たちからは地上はほとんど見えない。
……っていうか高所すぎて下を見たくない、ってのが正直なところだ。怖いよー。

「ルールは簡単。生きて下まで降りること!制限時間は72時間。それではスタート!」

あぁ…飛行船も飛んでちゃった。
俺、無事に生きて降りれるのかなこれ。…トリックタワーは難易度上がるもんな。
ゴンたちと一緒に行ければ一番いいんだろうけど。…トンパを差し置いて行けるものだろうか。
いやいや、ここで原作を捻じ曲げたらいかんだろ。でも。

あー、やっぱり皆と行きたい!
ギタラクルとかヒソカの視線が痛い気がするから、余計にゴンたちといたい!(もう必死)

側面には窓ひとつないトリックタワーは、ぱっと見て分かるような扉はない。
本当に何もない頂上から、どうやって下へ降りていくか。まずはそこが問題だ。
ロッククライマーである受験生が側面を降りていこうとしたが、不気味な鳥に食われて。
………うん、やっぱり側面を降りていくのは無理なわけだ。

実はこの建物、床の一部が扉になってる。
ひとつの扉につき一人しか通れない。まずはその扉を見つける必要がある。
とりあえずゴンたちと一緒に行かせてもらおう、と俺は一歩を踏み出した。

「キルア」
「んー?」

俺もそっちに混ぜてー、と手を挙げて歩いていたら。

ガコン。

………え。ちょ。
キルアがびっくりした顔でこっちを見てる。
それは一瞬のことで、俺の視界は何かに遮られた。うん、ていうか俺落下してる。
落下してるよ、あああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!

話しかけようとして落ちるとか、間抜けにも程があるだろ俺ぇ!!
恥ずかしい、めっちゃ恥ずかしいー!!

「………ここは」

えーと隠し扉を通ってしまったらしい俺は、ここから下へと降りていくしかない。
小さな四角い部屋。目の前にはハンター文字で何か書かれている。

「…賢者の道…?」

確かゴンたちが行ったのは<多数決の道>だったはず。
このタワーをクリアするルートは多数あって、それぞれルールが定められる。
説明を読む限り、特別なルールはないっぽい。あ、でも時計が四つ置いてある。
てことは四人でクリアしないといけないのか?まあいいや、俺は先に嵌めておこう。

時計に表示されてるのは試験の制限時間があとどのぐらいあるか。
期限は三日。それまでに下に到達しなければいけない。
三日あれば……辿り着けると思いたい、んだけど。

「うわあ!!」

あ、誰か来た。
天井からぼとりと落ちてきたのは帽子をかぶった男。
ん?見覚えあるな、と思ったら他にあと二人降りてきた。
三人とも顔がよく似てる。あー、なんだ知ってる連中じゃん。

「いてて……ひでぇよアモリ兄ちゃん!」
「お前がいつまでも扉に入ろうとしないからだろ」
「さてと、さっさと降りて………」

わーアモリ三兄弟だー。
先にいた俺に気づいたらしいアモリたちは、なんでか硬直してる。
………え?えっと、あれ、どういう意味の硬直ですかそれは。

もももももしや、俺なんかと一緒に行くのかよとか思われてる!?
だ、大丈夫、足手まといにはならないよ多分!きっと、恐らく!

…でもな、賢者の道ってなんだろ。
賢者、って書いてあるんだから頭使うルートなのかな。
物を知らないわけじゃないけど、この世界のことは知らないものがまだ多い。
遺跡関連ならちょっとはできるかもしれないけど、そう上手くもいかないだろうし。
うー、不安になってきたよ。思わず溜め息出てきた。

「お、前も同じルートか?」
「………そう。そこにある時計を嵌めればスタート」

俺が指さした台からアモリたちが時計を手にとる。
そこに書かれている文章に、ほっと胸を撫で下ろしたみたいだった。
うん、だよね、俺みたいな不安要因があったとしても兄弟揃ってれば乗り越えられるよね。
……た、頼むから俺を見捨てないで下さい…。

全員が時計を嵌めると、目の前の扉が開いた。
と同時にアナウンスが入る。

『この道は色々と捻くれている面白い道だ。君たちの知識と知恵を駆使して進んで…』

…………あー、やっぱり頭使う系?緊張してきた。
………………………。
………?あれ、アナウンスの途中で声が途切れたけど大丈夫か。
何かアクシデントでもあったんだろうか。マイクの調子がおかしいとか?

しばらく待ってみると、さっきとは別の声が響いた。

『なかなか面白い道を選んだな兄ちゃん』
「………」

お、なんかさっきの嫌味な声より全然好感もてる声が。
……聞き覚えがあるような気もするけど。トリックタワーに知り合いはいない、はず。
試験官の名前はなんていったっけ…えーと、えーと…。いかん、忘れてる。
凶悪犯を集めた場所がここトリックタワーだ。んで、その囚人たちが受験生を相手にする。
…そうだよ犯罪者と戦う可能性があるんだよ。うわ、大丈夫かな俺。

旅団とかヒソカとかイルミとかも犯罪者の部類に入ることからは目を逸らして。

『楽しませてくれ。まあ、頑張れ』

応援する気があるんだかないんだか。
楽しそうな声を最後にマイクは切れてしまったようだった。
受験生たちの様子を試験官はモニターで見ているはず。
俺たちが必死にひいこらしている姿を楽しまれるわけか。うう。

とりあえず進むしかない、と踏み込んだ次の部屋。
そこには壁に貼りつくように根を走らせた巨大な木があって。
太い幹が次の扉を塞いでしまっている。うわ、これ壁にも天井にも根や枝が食い込んでるぞ。

「このままじゃ進めないじゃねえか」
「どうする?ウモリ」
「燃やす…にしても、こんだけ根が広がってちゃ俺たちも危ない」
「けどあの木、太いから道具でもないと切るのは無理だよ兄ちゃん」
「ナイフでも切るのは厳しいだろうな」

うん、ありゃナイフじゃ無理だよな。あ、でもナイフに「周」を使えばいけるかな?
いやでも切れたとして、壁にも天井にも広がってるから簡単には取り除けない。
うーん、どうしたもんか。と幹に触れてみると、なんていうか…ぱっさぱさ。
…………この木、もう枯れてるんじゃないか?こりゃよく燃えそう。
けどウモリが言ってたように、こんな狭い部屋で燃やすのは危険だしなー。

………いっちょ、やってみるか。
話し合うアモリ三兄弟に背中を向けて、俺は木の幹に両手で触れる。
オーラを広げて、ちょうど扉に重なっている幹の部分を包む。

ちらりと俺の腕輪に目を向ければ、石はいまは透明な状態。
それを確認してから、「周」の状態である幹の部分に俺の能力をぶつけた。
腕輪に嵌めこまれた石がすごい勢いで赤に染まっていく。
そんでもってオーラが注がれている部分に変化が出てきた。

「に、兄ちゃんあれ」
「………な」

枯れていた幹がさらにぼろぼろになり、最後には風化する。
…うん、枯れてたからなんとかなったな。と俺はオーラを引っ込めて手を離した。
ちょうどドアの大きさの部分だけ、幹が風化し何もなくなる。
よかったよかった、上手くいった。石は完全赤く染まっちゃったけど、まあいいや。

「お、おい、今のは」

アモリたちがびっくりした顔で聞いてくるけど、答えようにも答えられない。
まだ念を知らない人間にはどうやっても説明できないしな。

「…先に進むぞ」

ごめん、俺説明下手だし。
ハンター試験に合格したら聞けるよ、いつか。今年も来年もお前たち落ちるけどな!

これ以上聞かれても困る俺は、さっさと扉の先へと進むことにした。

って、しょっぱなから念を使う羽目になってんだけど。
この先、本当に大丈夫なのか俺!?





まさかのアモリ三兄弟と試験を受けることに。誰得でもない。

[2012年 2月 2日]