第107話

石造りの廊下をただひたすら進んで、階段を上ったり下りたり。
途中色々な障害があったり、クイズが出題されたり、思ったよりは平和だった。
よかったよ、デスマッチとかなくてさ。いまのところはオリエンテーリングみたいな感じだ。

「って、なんだこりゃおい!」
「行き止まりかよ!?」
「いや、けどここまで一本道だったはずだぜ」

そう、開けた場所に出たなーと思ったら床のない広い部屋。底が見えないぞ。
………うん、これ落ちたらヤバイよな。
むこうには扉が見えるんだけど、そこに行くための橋すらない。
えー…どうやって渡るんだこれ。穴から強い風が吹き上げてきて、めっちゃ怖い。

でも壁に何かスイッチがあるわけでもないし。指示が出されるわけでもない。
本当に行き止まり?けどむこうに扉があるってことは、渡る方法があるはず。
よし、ここは「円」の力で周りに変なものがないか探してみるか!

円はそこらに転がってる小石ひとつすら認識することができる。
俺が広げられる限界までオーラの手を伸ばしてみると、おかしな感覚があった。
え、と思って目を瞬く。いや、やっぱ何もないよな。
もう一度、今度は目を閉じて集中。………あれ、やっぱり円を使うとある。
何があるかって?「橋」が、あるんだよ。俺の目には全く見えないんだけど。

底のない部屋。一歩間違えば、多分無事では済まない。
そんな場所に踏み出すのは勇気がいるけど。俺の円を信じるしか、ない。

「お、おい!お前何を…!!」
「やめっ…!!」

カツン

「………って、ああ?」
「な、なんであんた宙に浮いて…」

………おおお、本当にあったよ橋が。

目には見えないんだけど、やっぱりここには橋があるらしい。
俺は懐をがさごそと探って。取り出したのは非常食用のポテチ。
まだ持ってたのか、とか言うなよ。俺にとってこれは死活問題なんだから。

いきなりポテチを取り出した俺にアモリ三兄弟はぽかんとしてる。
うん、だよね、俺めっちゃ変なひと。宙に浮いた状態でポテチ開けてるとか。
取り出したポテチを握りつぶして、そのまま足元に落とす。
すると粉状になったポテチが俺の足元にぱらぱらと舞い降りて。
目でとらえることのできない橋の形をわずかばかり浮かび上がらせた。

「あ、え!?なんだこりゃ」
「見えないが…橋、があるのか?」
「よく気づいたな、あんた」

念習得してなかったら無理だったけどな!
………ていうか、俺の下は何もない状態に見えるからめっちゃ怖いことに変わりはない。
これはさっさと渡ろう、と目を閉じて進む。円を展開しながらの方が緊張せずに済む。
なんとか扉まで辿り着いて振り返れば、おっかなびっくりで歩いてくるアモリ三兄弟。
いやー、下が見えてて渡るのって拷問だよな。風が吹き上げてくるし。

「おら、さっさと進めイモリ!」
「わわ!押すなよ兄ちゃん!」
「足震えてんじゃねえか、しっかりしろよまったく」

あの三人はもうちょっと時間かかりそうだな。俺は先に次の部屋に入ろう。
とりあえずはまた通路が続くみたいだ。
橋を渡り切ったイモリが扉をくぐり、へなへなとその場に倒れこむ。
情けねぇ、とお兄ちゃんたちは渋い顔だけど。いやいや、あれが普通の反応だよ。
透明なもので作られてるのか、目の錯覚なのか、それとも別の何かなのか。
あれはちょっと勇気試されるよなー。まるでイン○ィージョーンズみた…げふん。

イモリが落ち着くのを待ってた俺は通路の違和感に気づいた。
…床石の色が違うゾーンがあるんだけど。飛び越しては渡れないような長さで。
あからさまに何かありそうなんですがー。

「ほら、時間を無駄にすんな」
「………別に休んでても構わないぞ」

あのショックから立ち直るには時間かかるよな、と思って言ったんだけど。
アモリとウモリが渋い顔をして、イモリをぽかりと殴って急かす。
ちょっとちょっと兄ちゃんたち、もうちょっと弟に優しくしてやって!

「待たせたな」
「…もういいのか?」
「十分だ」

そっちが大丈夫って言うなら進むけどさ。
壁から背中を離した俺は一歩を踏み出そうとしたんだけど。
足元にあった小石をこんと蹴った。それがカーリングのようにスーっと床を滑っていく。
え、ごつごつしてそうな床なのに…って、色の違う部分は滑らかなのか。

ボンッ ボボンッ チュドーン!!

………………。
…………………………………はい?

あの、いま石が通ったところ全部爆発したように見えた…んですけ、ど。
………まさかこの色が違うところ、地雷みたいなもんが仕込まれてんじゃないだろうな。
飛び越すこともできないような長い距離だっていうのに、全部地雷なのか?え、嘘だろ?
イモリたちも硬直しちゃってるよ。ど、どうしよう。
もう一度小石を投げてみるか。

足元にあった小石を拾ってぽいと投げると、今度は反応なし。
………あれ?なんでだろう。一度発動するとそれで終わりなのかな?
といっても、さっきの石がどの石を爆発させたのかなんて覚えてないしなぁ。

「お、おい、この床はどうなってるんだ」
「…よくは分からないが、地雷みたいなものなんだと思う」
「地雷!?」
「けど、一度発動した地雷はそれで終わりらしい」
「あ、じゃあ石を全部に投げていけば」

おお、その手があったか。

「馬鹿かお前。どんだけの距離あると思ってんだ、いちいちんな作業してられっか」
「じゃどうするんだよ兄ちゃん!」
「イモリ行け」
「ええ!?」
「見たところ、それほど威力のあるもんじゃねえしな。死にはしないだろ」
「い、嫌だって!」

なんてひどい兄ちゃんなんだ。
威力は確かにあんまりなさそう…ってことは、オーラを強めて「堅」をすれば平気かな。

円を使ってこの通路を確認してみたけど、他にルートはないっぽい。
ここを通るしかないんだよなぁ、残念なことに。
あとは凝をしてみると、通路全体に微妙なオーラの残滓があった。
……この地雷って念で作られてんのかな。それとも似たような何かで?

あーもう、わからないからいいや。
このままここで立ち止まっててもしょうがない、と俺は一歩進む。

「おま…!!」

……よし、セーフ。地雷は解除されてる部分らしい。
これはもう、一気に駆け抜けるしかないよな!とそのままダッシュ。
…………って、あ、そうだ!俺の念能力使えば爆発する前に通り抜けられるんじゃね!?
うっわー、いま気づいたよ恥ずかしい。
ちらりと背後を振り返ると、こっちを見てぽかんとしてるアモリ三兄弟。
さすが兄弟、顔も表情もそっくり………って、そうじゃなくて。

仕方なく俺はまた戻って、アモリたちの前に。
そのまま手を差し伸べた。
訳が分からず戸惑う三人に、全員手を繋ぐようにお願いしてみる。

よかった、素直に繋いでくれたよ。
俺はそのままイモリの手をつかんで、俺だけでなく三人のこともオーラで包む。
………う、四人分をオーラで覆うのはちょっとキツイ。けど、走る間だけだ。
気合を入れて≪瞬きの時間(タイムラグ)≫を発動。
あとは瞬きしないまま一気にここを駆け抜ける!!

「ちょ、はなっ…!!」
「ひぃぃ!!」
「じ、地雷が…!!」

背中の方からアモリ三兄弟の文句やら悲鳴やら聞こえてくるけど、無視。
四人の時間を加速させているだけで、周囲の時間を止めているわけではない。
だから急いで通り抜けないと結局は地雷が発動してしまうかもしれない。
うおおおお、頑張れ俺!!やればできる子だって信じてる…!!

「……なんとか、抜けたか」

色の違う床石部分を走り抜けて、瞬き再開。うおー、ドライアイになるー。

俺たちが通り抜けた通路は爆発音がいくつも上がってて。
うわー、無傷で済んでよかったー、と胸を撫で下ろした。

「あんた…。なんであんたには、あの地雷が反応しないんだ?」
「…………そうだったか?」

たまたま発動済みの地雷踏んだだけじゃなくて?
俺は首を捻るけど、イモリの主張によると。
俺が踏んでも発動しなかった床石。そこを追うようにイモリも踏んだらしい。
うん、それは正しいよな。発動しないとわかってるなら。
なんだけど、走り抜けた後でその石が火を噴いたのを見たんだとか。

えー、俺が踏んでも発動しないのにイモリが踏んだら発動したってこと?
なんだろ、結局あれはランダムに発動してたのかな。俺にはわからん。
俺だけが効果を免れてたわけじゃないだろうし………って、あ!

そういえば俺、古本巡りしてて知り合った子にもらったものがあった。
呪いを無効化する首飾りらしいんだけど、ひょっとしてその恩恵なのか?
これ、トラップにも通用するのかなぁ。それともあの通路、呪術的なものだった…?
………そういえば呪術師の家、地雷のトラップあったもんな。
そんな記憶を掘り起し、俺は遠い目。うん、その家の子にもらったお守りなんだこれ。

これのおかげかはわからないけど。
今度、お礼でもしよう。




頂き物にある呪術師シリーズを読んでいただけると、わかりやすいかも。

[2012年 2月 2日]