第108話―ゴン視点

「ねえ、キルア。ってどんなひと?」

漫画とかねえかな、と本棚を探すキルアに俺はずっと聞きたかったことを聞いてみた。
手を止めて振り返ったキルアは俺と同い年の初めてできた友達。
くじら島には俺と近い年の子なんてほとんどいなくて、いても女の子だったし。
だからキルアと知り合えて、俺すっごく嬉しかったんだ。

キルアはすごい。
さっきのジョネスとの戦いだって、一瞬で勝った。
肉体を操作することができる、って説明しながら見せてくれた変形した手。
ナイフよりもずっと鋭いそれは、ひとつの完成された武器で。
そういえば昨日見せてくれた分身みたいなヤツもすごかったなー。
やり方教えてもらおうかと思ったけど、ネテロさんには止められちゃった。

?なんで?」

本棚から離れて、キルアは俺の隣に戻ってくる。
いまここは控室みたいなところで、俺たちはここで五十時間を過ごさないといけない。
飲み物も食べ物もあるし、ゲームとか本とか色々と用意されてる。
だから退屈はしなくてすみそう。トンパさんは寝てて、クラピカは読書。
レオリオは………隅っこで反省会中みたい。

「そんなにちゃんと話したことないから。優しそうなひとだよね」
「腹立つぐらいな」
「そうなの?」
「ガキ扱いされてるみてーじゃん。俺は対等に見てほしいってのに」
「キルアをそんな風に甘やかせるなんて、やっぱりってすごいんだね」

心底そう思ったんだけど、キルアがはあ!?って大きな声を出した。
あれ、しかも顔が赤い。

「ハズイこと言ってんじゃねーよ!」
「え、恥ずかしいかなぁ。俺、ミトさんに甘やかされるの嫌いじゃないよ」
「それとこれとは違うだろっての」
「そうかな?俺のこと大切にしてくれてるのがわかるから、嬉しいよ」
「………………そりゃ」

もキルアといるときはすごく優しい空気をしてる。
もともと怖いひとではないと思うけど、いつも周りに注意を払ってる感じで。
うん、そう。野生の獣みたいな感じなんだ。
何かあればすぐ反応できるように、常に気を張ってる。

だけど、キルアといるときはそれが緩む感じがする。
俺は見てて、それがすごくいいなーって思うんだ。

「おいキルア、そのってのも、お前と同じ暗殺稼業なのか?師匠とか言ってたろ」
「いや、あいつは殺しはしないって言ってた」
「レオリオ、彼は運び屋だと言っただろう」
「…まっとうなもんじゃねえんだろ?なら殺しも絡むかもしれねぇ」
「それはないと思うよ。からは血の臭いがしないもん」
「ま、いまはそうだろうなー。やらないって宣言してたから、やらないんだろ」

キルアがそう言って頷くと、なるほどいまはってことかとレオリオが渋い顔。
クラピカもちょっとだけ辛そうにしてて、俺は首を捻った。
どんな仕事をしてようと、じゃないのかなぁ。
本人が好きじゃないのにやってるなら、それは辛いと思うけど。

キルアみたいに、やめたいと思ってるならやめればいいし。
そうじゃないならそれはの自由。

あ、でもハンター試験受けてるってことは仕事やめたいのかな?
でも仕事で必要になったから受けるらしい、って聞いたような気も。
どんな仕事したいのか、今度聞いてみよ。

「って、キルア?」
「退屈なんだよ、面白いもんやってないかな」

テレビの前に移動したキルアが色々とチャンネルを回してく。
そうしていくつか回して、突然画面が切り替わった。

「あ、だ!」
「………何?」
「こりゃ…試験の様子じゃねぇか」
「色んな人達の様子も見られるよ。すごい」
「………クリアしていく受験生を見せて、我々を焦らせようという意図かもしれないな」
「ったく、よくよく性格悪い連中だぜ」

レオリオとクラピカが難しいこと話してるけど、俺とキルアは画面に夢中。
四人で進んでるらしいはいつも通りの顔でどんどんトラップをクリアしてく。
すごい、なんであんなのに気づけるんだろう。
遺跡巡りしてるってクラピカも言ってたから、そのせいなのかな?

他の受験生たちの様子を見るのも楽しそうだったけど。
キルアがの映像を見たがったから、結局チャンネルはそのまま。

しばらく見守っていると、ものすごい数のひとと戦闘が始まった。
壁にたくさんの扉が出て、その中から部屋を埋め尽くしそうな数の人達が。
その中で一番目を引く男のひとが、真っ直ぐにに向かっていった。
近くの敵を倒してたが気配を感じて振り返ったと同時に、男の手が伸びる。
の首をつかんで勢いそのままに壁に叩きつけた。うわ、ちょっと痛そう。

「………おい、あの勢いじゃ背骨とか首折れてもおかしくねぇぞ」
「そ?俺なら平気だけど。もけろっとしてんじゃん」
「どういう身体してんだよお前らはよ…」

がっくり項垂れるレオリオを無視して、キルアがテレビの音量を上げた。

『まさかこんな綺麗な顔にこんな場所で会えるとはな、ついてるぜ』

綺麗かぁ…確かにの顔って女の人にモテそうだよね。
ミトさんも好きなタイプだろうな。別に派手ってわけじゃないんだけど、目がいく。
でもは顔がどうこうっていうより、その瞳が不思議。
目ってひとの心を表すっていうけど、の瞳は色々なものが混ざり合ってて。
どんなこと考えてるんだろう、何を感じてるんだろう、って考えるのが楽しい。

『涼しい顔してんな、兄ちゃん。これからどんな目に遭うかわかってんのか?』
『………ここにいるってことは、殺人か強盗か』
『はは、俺たちが受刑者だってわかっててその余裕か。まあそれも合ってるが、俺はひとを殺す前に楽しむのが流儀でね。金ももらうが、身体ももらっていくぜ。男女問わずだ』
『………』

それを聞いても眉ひとつ動かさない。
もここにいるのが犯罪したひとだって、気づいてたんだ。すごい。

『たっぷり楽しませてもらう。他の連中は俺の邪魔をしないようしつけてあるからな』
『………離せ』

画面越しなのに、ぶわと俺は鳥肌が立った。
キルアも同じだったみたいで、少しだけ腕をさすってる。

そして鋭い気配をまとったが男の身体をひと蹴り。
それだけのことだったけど、かなり重たそうな男の身体が吹っ飛んじゃった!
他の人達までも巻き込んで壁に衝突。
だけど簡単にはやられず、男は起き上がろうとしたんだけど。

『…て、めえ…』
『寝てろ』

一瞬。本当に、一瞬だった。
瞬きひとつしたその間に、は男の目の前に移動してて。

『がぁっ…!!』

顎を拳で突き上げると、今度は男の頭が天井に埋まる。

「すごーい」
「あいつならこんぐらい楽勝だろ」
「うん。本当に強いね」
「あぁ。…親父を超える前に、あいつにも追いつかないと」
「頑張って。キルアなら出来るよ、絶対」
「またお前は根拠もないことを」

だって、そう思う。キルアなら、できるよ。
きっといつかに追いついて、一緒に肩を並べて。それでお父さんを追い越せる。
俺の勘ってよく当たるんだ。だから、信じてよ。

「俺も、負けないからね」
「それはこっちのセリフだってーの。油断してたら置いてくぜ」
「うん!」

そのためにもまずは、ここを絶対に攻略しなくちゃ!





本質を見るゴンは、そう大きな誤解はしない気がする。

[2012年 2月 7日]